第12話 バンドやろうぜその2

「私楽器出来ませんよ?」

「は?」


この子は一体何を言っているんだ?


「楽器が出来ないってのはどういうことだ?」

「えっと、そのまま意味で私歌は歌えますけど、楽器の類は全く出来ませんよ?」

「いやいや、大丈夫だってフォルテちゃん歌上手いんだし、楽器も出来るってほらどっちも音楽だろ?」

「えっ!私って歌上手いですか?」


ピンク付いた声色でフォルテはそう聞いて来た。

何故今そんな事を聞き返してくるか全くもってわからないが、客観的に見て歌姫と呼ばれているものが歌の技術としては下手な訳がないだろう。知らんけど


「え?まぁ多分上手いんじゃない?」

「そ、そうですか」

「まぁだから多分いけるって、こ、じゃ無くてリリィの奴も、ちょっと教えたらすぐギターも覚えたし、音楽の才能があるフォルテちゃんならもう一瞬だって」

「リリィちゃん!」


リリィの名前を聞いた途端、何故か通話の先の声が震えた様に感じた。


「?どうかしたのか?」

「あっ、いえ何でもありません。」

「そうかそれならよかった。だがフォルテちゃんが出来ないとしたらどうするかな……」


そもそも俺がバンドを組みたいと思ったのはつい先日、それは朝から雨が降っており、寝起きから憂鬱だった日のこと。

朝目を覚まして、朝食を取る為にリビングへと向かった、そこには最近仕事の方が忙しいと、嘆いていた父が居た。


「あれ?父さんこんな時間に何してるんだ?この時間は仕事じゃ無いのか?」

「ああ、阿久津か。今日はようやく貰えた休日でね。だから出来れば仕事な話はよしてくれないかな?ついこないだも母さんとのデートを潰されていてね」


またか……正直その感想しか湧かなかった。

うちの家族は数年前に、小雪の父親と俺の母の再婚により出来た一家だ。そしてうちの母も向こうの父親も、あまり相手に恵まれていなかったのか、そのラブラブ度合いは引くほどで、再婚してからはいい大人が何度もデートをするほどで、それはまぁ素晴らしい夫婦だったのだが、その幸せは長くは続かなかった。

再婚してから、両親は幸せパワーにより仕事に向ける情熱が増えたのか、2人ともメキメキと仕事をこなして行った結果、2人は昇進に昇進を重ね、各々働いている場所でそれなりの地位に着くことができた。

まぁそのせいあってお互いの休みが合わなくなり、ここ数年はデートに行けずじまいになっている様だ。


「それはどうもご愁傷様で」


阿久津は落ち込む父親を横目に冷蔵庫を開き、適当に中に入っていた卵とベーコンを取り出した。

そしてそれを調理する事なく、そのまま自分の口へと運んだ。


「はぁ、阿久津お前朝飯ぐらいはちゃんと作らないか。前はちゃんと作ってたじゃないか」

「それは俺じゃなくて小雪が作ったものだぞ?」

「あれ?でも確か小雪が阿久津が作ったって言ってたが……。はぁ、まぁいいか」


いつもならもっと何か言ってくるはずだが、やはり父さんも仕事で疲れているんだな。

仕方ない、父さんも俺に朝飯を作れと言っていた事だし、この俺が父さんのために丹精込めて、朝飯を作ってやるとするか


「父さん」

「どうした?」

「父さんは朝ご飯はパン派か?それとも米派か?」

「おっ、もしかして作ってくれるのか?ならご飯で頼む」

「了解した」


朝飯といったらパンならベーコンエッグで、米ならシャケと味噌汁だろう。

冷蔵庫からシャケの切り身と味噌を取り出す。フライパンに油を引き、その上に切り身と味噌を入れる。そしてその後は火が通るまで放置する。

その間に次はご飯の用意をする。米を袋から取り出し茶碗に移し替える。

世の中には無洗米という、洗わなくても済む米があるらしい。家は両親のお陰でそこらのうちより金持ちだ。だからうちの米も無洗米だろう。

茶碗にラップをかけてレンジで温める。

そうこうしているうちに、フライパンの方から少し魚の焦げた匂いが匂って来た。焦げるという事は火が通ったということだ。阿久津は火を止め、先程回し始めたレンジの中から茶碗を取り出し、その上に出来上がったばかりの、シャケの味噌焼きを乗せ。朝食は完成した。


料理風景を間近で見ていた父は、顔を青くして貼り付けたような笑みを浮かべていた。


「ほら父さん朝飯を作ってやったぞ。ありがたく食えよ。この俺が重い腰を上げて作った料理だ、さぞ美味いことだろう。どうした?箸を持ったまま固まって?……なるほど、父さんは料理をすぐに食べるタイプではなく、匂いを嗅いでから食べるタイプ何だな」


父さんは震える手で箸を料理の元まで持っていく、一口目は片面が真っ黒に焦げ、もう片面は生のままの、ほのかに味噌の匂いが香るシャケを己の意志で口の中まで運んだ。

瞬間先程までの真っ青とした顔ではなく、血の気が引いたのか顔の色素が薄まっていき、だんだんと顔色が白くなっていった。


二口目はご飯を食べる様で、箸で掴もうとするが炊かれていない米は硬く滑りやすいため、うまく掴めず、意を決して茶碗を片手に持ち口の中へとかき込む、父さんの口内からは米を噛むガリっという音が聞こえた。


父さんが阿久津の作った朝食を食べていると、今日から休日ということもあり、深夜まで配信をしていた小雪が目を擦りながら、リビングへとやって来た。


「おはよう小雪」

「おはようございますお兄様!それとお父様」

「あ、ああ、おはよう小雪」


挨拶を終えると小雪は阿久津の隣の椅子へと座り、座席を阿久津の方へと寄せ阿久津の方へ自分の顔を傾けた。


「そう言えば先ほどから来なっていたのですが、お父様は何を食べていらしているんですか?」

「ああ、あれは父さんが俺の朝食を食べたいというのでな、特別に作ってやったものなんだ」

「ええ!お兄様の手作りですか!お父様羨ましいです。私もお兄様の朝食食べてみたいです。」


目をきらめかせながら小雪は阿久津へと視線を向ける。


「すまんな今日はもう父さんに作ったから、またいつか作ってやるよ」

「本当ですか!」

「ああ、勿論だとも」


その様子を見た父さんは自分の手元にある、阿久津特製の朝食を愛すべき愛娘の方へと、申し訳そうな顔をしながら差し出した。


「よろしいのですか?お父様」

「あ、ああ、実は最近少食でな……」

「そうなのですね、ではこれは私がありがたくいただきたいと思います」


そう言うと、小雪は阿久津特製の朝食を美味しそうに食べ始めた。

それを見た父さんは自分の娘に向けてはいけない視線を向けながら、トイレへと向かった。

その際、ポケットからは父さん達が若い頃に流行った、伝説のバンドの一日限定の復活ライブのチケットが地面へと落ちた。


「このチケットの日付って……成程今日か。なぁ小雪今日って何か用事ってあるか?」

「いえ特には」

「じゃあこれからデートに行かね?」


チケットを見せながら小雪に言うと、小雪は今までに見たこともない速度でこちらに近づいて来た。


「はい、もちろん行きます!もし何か用があったとしても、絶対に行きます」

「お、おう」


小雪の奴、そんなにこのバンドのこと好きなんだな。


と言う事で2人でライブを見て来たところ。

すごく良かった。流石は伝説と言われる程のバンドグループだ、今まで見て来たバンドグループが霞むレベルの凄さだった。


そんな凄いバンドを見たのだから、この後の行動は言わずともわかるだろ?


「バンドやろうぜ!」

「えっ急にどうしたんですか?アクトさん」

「あっすまん、フォルテちゃんと話してたの忘れてたわ」

「何でですか!さっきまで話してましたよね?」

「ちょっと考え事しててな」

「あっ、そうだったんですか」

「しかし、このバンドはフォルテちゃんの為のものでもあるんだがな」

「え?」

「言っただろ?フォルテちゃんのスランプを治すって、今回のバンドはそのスランプを治すためのものでもあるんだよ」

「そうだったですか」

「それにやったことがないからって、やらずにいると人間成長しないぞ?」


そう言われたフォルテは少しの間考え込んだ。


「わかりました、私やりたいと思います」

「よし、ならフォルテちゃんはベースだから、当日までに練習しててね、それじゃあ」

「えっちょっと待ってください、当日って?」


フォルテが阿久津に何かを聞こうとしていたが、その頃には阿久津はスマホから耳を離していたため、その質問には答えられる事はなかった。


ーーあとがきーー


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