第13話【バンドやる】その1
ギュイーン
テレレテレレ
ドンドンジャンジャン
ボーン
配信開始と同時に四つの楽器から音が鳴り響く。2つはほとんどプロと遜色がないほどの出来で、1つは全くもってうまくもないくせに自信満々で、そしてもう1つは最近始めたばかりなのか、少しぎこちなさが残りながらも、本人のセンスによってそれもカバーされていた。
配信タイトルには一言【バンドやる】とだけ書かれており、リスナー達も何だ何だと思いながら配信を開くと、今の様に四つの楽器のメロディーだけが聴こえる状態で、少し困惑していた。
「あーあー、どうも俺達」
「「「「チームアクトと愉快な仲間達だ(です)」」」」
その掛け声と同時に、各々が前もって決めていた音を鳴らす。
名前を名乗られたところで、なんの告知もなくいきなりバンドを組み始めた意味がわからず、やはりリスナー達は困惑していた。
しかしここの配信主は、そんなリスナーのことを一切考えず、決めていた通りの進行をし始めた。
「それではこれより愉快な仲間達の紹介をしていきましょう!まずはコイツだ!昨日どっかのコンサートで、ライブをして来たばかりの、ドラムの"轟奏"!!」
「フゥー!」
ドコドコドコドコジャンジャンジャーン!
名前を呼ばれた奏は、返事の代わりに勢い良くドラムを叩いた。
「お次はコイツだ!俺もつい最近知った事だが、昔ピアノのコンクールで最優秀賞を受賞したことがあるらしい、キーボードの"リリィ"!!」
「よろしくお願いします」
リリィはいつもと変わらない様子で、リスナーに挨拶をした。
「そして、俺の命令で約一週間前に初めてベースを触れた、皆んなの歌姫、ベースの"フォルテ"!!」
「どうもよろしく」
裏とは全く違うクールなテンションでフォルテがそう言うと、一般的には絶妙にうまいとも下手とも言えないラインだが、レベルの高いここでは相対的には下手に聞こえてしまうベースの音色を奏でた。
「そして最後はこの俺、全てにおいて完璧で神をもが見惚れる美貌を持つ、全世界の頂点完璧超人なギターの"アクト"様だ!!!」
ギャーン
誰がどう聞いても圧倒的に誇張100%な挨拶をしながら、勢いよくギターを弾くが、弦が張ってなかったのか微妙にやる気のない音が出た。
その様子にアクトが頭を傾けていると、リリィが颯爽と近づきアクトの持つギターの弦を調整して、それをすぐにアクトへと渡すと、アクトは再度ギターを鳴らし、今度は思った通りの音がなったことを確認すると、配信には映らないのに何故か無駄にカッコつけたポーズをとった。
「きゃーお兄様カッコ良すぎます」
そう言いながら、リリィは自分のスマホでアクトを全身隈なく360°の角度で写真を撮り始め、その様子に若干慣れて来ている奏は微笑ましそうにその様子を見ており、フォルテはつい最近まではお上品な同期と思っていた少女が、いきなり配信中に奇行をし始めた事に、困惑して周りを見渡して、この様子を異常に感じているのが、自分だけだと知って気持ちが滅入りながらも、こっそりとスマホで一枚だけアクトの写真を撮った。
そんな彼彼女らの、リアルを見ても全くもって意味がわからないのに、それすら見られないリスナー達はその色々と理解の及ばない状態に、やはり困惑していた。だが、一部のそう、普段からアクトの配信を見ているものは、何故かこの状態に順応して来ており、コメント欄では尊いやてぇてぇとコメントが打たれ始め、この状態に尊いやてぇてぇと感じられるリスナーがいる事に、リスナー達自身が困惑し始め、コメント欄はやはりカオスになっていた。
「それじゃあ挨拶も終わったことだし、さっそく一曲目いってみよう!曲は版権的に色々面倒なので、本人に許可を取って来てもらえる、奏の曲だけだ。他の曲を聞きたかった奴ら。すまんな。それじゃあ一曲目轟奏で『trigger』」
奏のドラムから曲が始まり、各々が練習して来た成果を出す。
曲の作者である奏と基本何でもできるリリィは、原曲を忠実に守りながらも、少しアレンジを加えながら演奏をし、フォルテはやはり練習期間が一週間しかなかったのが、ダメだったのか少し2人とタイミングがずれたりして、全身から嫌な汗を流しながら演奏し、アクトは曲を一切練習していない為、周りの人の音を聞きながら感覚でギターを弾きながら、歌を歌った。
その結果、曲は本来の形を失いその姿はあたらしく生まれ変わり、不協和音へと変化した。
だが、コメントではそんなことを気にするものは1人もいなかった。
なんでその場に本人がおんのにお前が歌うねん!
なんでその場に歌姫がおんのにお前が歌うねん!
とツッコミの嵐だった。
それにアクトは事象完璧なだけで、実際には完璧でもなんでもないので、というよりかは普通に下手な部類なので、不協和音と合わさりそれは、某国民的アニメの暴力ゴリラの歌声と、入浴女の子伴奏が合わさった様な地獄になっていた。
そんな人間が聞くと、気分を害す様なリサイタルはアクトの引くギターの音を最後に、終了した。
「お疲れ!皆曲の方はどうだった?」
アクトがそう聞くと、コメント欄はブーイングの嵐だったが、コメント欄を見ていないアクトはそんなことには気づいておらず。アクトの問いに答えたのは、いつの間にか隣に立っていた妹のリリィの感想だけだった。
「そうかそうか、そんなに良かったか。それじゃあ今からmcパートに移るか」
アクトがそう言うと、チームアクトと愉快な仲間たちのメンバーは、楽器を置いて近場の椅子へと移動した。
「皆んなまだ一曲しかやってないけど、バンド組んでみてどう?」
「私はお兄様とやれれば、なんでも最高です」
「僕的には、せめて練習にもうあと数週間あれば、良かったなって思うくらいかな?」
「私ももっと練習しておきたかった。今のままじゃ皆んなの足引っ張ってるだけだから」
顔を下げ、本当に悔しそうにフォルテはそう言った。
それを見たアクトは、フォルテの後ろに回り込み、思いっきり背中を叩いた。
「おいおい、何辛気臭い顔してんだ?足を引っ張るとか引っ張らないとか考えんのは、どの世界でもプロだけでいいんだよ。俺達アクトと愉快な仲間達は、大会優勝を目指してる部活じゃなくて、放課後部室に集まって駄弁りながら菓子食ってる系の部活だ。だから今は上手くやらなきゃとか、考えなくていいんだよ。今は楽しむことだけ考えときゃいいんだよ!なぁ2人とも」
アクトが目を輝かせながらこちらを見ているリリィと、昨日のコンサートの疲れのせいか、椅子を並べてその上で寝転がっている奏の方を見ると、リリィはいつもの様にアクトを持ち上げながら肯定し、奏の方はあまり動きたくないのか、片手を上に上げグッドサインをしていた。
「ほらな、2人もああ言ってるだろ?それとも何だ?もしかして下手になったら、リスナーに見放されるとか思ってんのか?」
そう言われたフォルテは肩をビクッと、跳び上がらせた。
「おいおいマジかよ?そんなこと思ってたのかよ。」
「……」
「フォルテお前リスナーの事舐めすぎだろ」
そう言われた途端フォルテの頭にははてなマークが浮かび上がった。
「だってよアイツら俺が配信でゲロ吐いても、まだ俺のこと推してる様な奴らだぜ?どうせアイツらのことだからフォルテが鼻くそ食ってたとしても、推してくれると思うぜ?」
スマホで配信のコメント欄を表示して、それをフォルテに見せる。そこには、逆に俺がフォルテちゃんの鼻くそを食べたいや、俺がフォルテちゃんの鼻くそになるなどの、フォルテを応援するコメントが大量に書き込まれていた。
それを見たフォルテは、
「私鼻くそ食べませんから!」
「おっ、ようやく元気になったな。それじゃあその勢いのまま、二曲目いっちゃいますか!」
「「「おー!」」」
ーーあとがきーー
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