第10話 フォルテの手助けその2

私が、アクトさんにスランプを解消してくださいと、お願いの連絡を入れた翌日にアクトさんから連絡がかかって来た。


「お前が通っている音楽教室に、俺を連れて行け」

「えっどうしてですか?」

「もしかしたらお前のスランプの原因の一端が、そこにあるかもしれないからだ。もちろん嫌ならば断ってくれても構わない」

「いえ、わかりました。私の方から先生には伝えておきます」

「分かった、なら頼んだぞ」


アクトさんがそう言い終えると、一方的に通話が切られた。

自分がずっと考え続けても、解決策の一つも出なかったのに、アクトに頼んだところ、たった1日で原因の一つを見つけたと連絡をもらい、その凄さにフォルテの開いた口は閉まらなかった。


そして翌日、約束の場所へと向かうと、集合時間の30分前だと言うのに、そこにはアクトの姿があった。


「お待たせしましたか?」

「いや、俺も今きたところだから安心しろ。それじゃあさっさとフォルテちゃんが通ってるって言う、音楽教室に連れて行ってもらえるか?」

「は、はい」


そうして私もアクトさんは、私の通っている音楽教室へと向かって歩き出した。音楽教室へと向かっている間、私はずっと気になっていた事をアクトさんに質問した。


「あのアクトさん。私のスランプの原因が、音楽教室にあると言うのは何故なんですか?それにもしそれが当たっていたとして、どうしてそれが分かったんですか?」

「ん?それは普通にフォルテちゃんの歌枠を見返してた時に、リスナーに歌が上手くなったって言われて、その時音楽教室に通い始めたって言ってただろ?それでだ」

「……?どうしてそれで、私のスランプの原因がそこにあることになるんですか?」

「それは単純に、その時期から徐々にフォルテちゃんの歌がつまらなくなったからだな。技術を取り込むのに必死で、その結果技術だけの歌に成り下がった感じがしてな。」

「なるほど……それならどうして音楽教室まで行くんですか?今のを聞く限り私の失態だと思うのですけど?」

「いや、少し確認したいことがあったから見に行くだけだよ。それに直で練習風景を見てみると、他の要因なども見つかるかもしれないしな」


なるほどアクトさんは、そこまで色々な事を考えて行動してるんですね。初めは口が悪くて、女の子にも容赦のない最低最悪の鬼畜野郎と、思ったけどそれは私の勘違いだったんですね。流石はリリィちゃんのお兄さんですね。

そんなこんなで、最低値だった高感度を少しずつ上げながら、阿久津とフォルテは音楽教室へと向かった。


音楽教室に着くと、フォルテは慣れた手つきで、受付の人と話したり何かの書類を書き、阿久津はその後を黙ってついて行った。

音楽教室と言うのだから、他にも複数の生徒がいるものだと思ったのだが、フォルテは先生とマンツーマンで授業を受けているとのことだった。


そして授業は始まり、阿久津は教室の隅で、フォルテとフォルテに音楽のイロハを教えている先生とで、交互に観察をしたところ、やはり俺の想像は合っていた様だ。


阿久津はフォルテと先生との間に、フォルテを自分の背の後ろに隠す様にして、先生との間に割り込んだ。


「ちょっと君、授業の邪魔をしないでくれるかな?」

「そっちこそ、うちの先輩に自分の叶わなかった夢を、押し付けるの辞めてくれませんかね?すごい迷惑してるんですよ」


そう言われた、先生は息を飲み込んだ。


「いやーたまにこう言うめんどくさい輩がいるから、念の為見に来て正解だったわ。どうせフォルテちゃんもこの先生に、君には才能がある私の言う通りにすれば、君は絶対にプロになれる。とか言われたんでしょ?居るよね自分が成せなかったプロになるって夢を、才能のある奴を無理やり自分の弟子の様な存在に仕立て上げて、自己満するクソ野郎って。と言うかまずとうの本人がプロになれてないくせに、それで教え子がプロになったところで、それはテメェの才能じゃ無くて教え子の才能だっての。いい加減夢から覚めろよ。もう大人だろ?」


そう言われた、先生は顔を真っ赤にして手に持っていた教科書を阿久津へと投げつけた。


「おいおい、図星突かれたからってすぐに暴力に訴えかけるなよ。あっでも良かったですね、その点はちゃんと教え子に受け継がれたようですね。おめでとうございますw」

「貴方はここに居ると、彼女に悪影響を及ぼします。はやくここから出て行きなさい!」


先生は出口の方を指差しそう言った。


「はいはい。そうカッカしなくても。もう用はないから帰るよ。」


手を振りながら阿久津は出口へと進んで行き、フォルテもその後に続く様にして部屋を出ようとしたが、その手を掴み先生がそれを止めて来た。


「どうして貴方まで帰ろうとするの?」

「どうしてって、それは……」

「それはって何よ!」


そう言った先生の手には力が入り、フォルテの掴まれている腕に痛みが走った。


「痛っ」


その小さな悲鳴を聞き、阿久津は後ろへと振り返り、その手を無理矢理解き、フォルテを自分の方へと引き寄せた。


「流石に才能の原石を逃したくないからって、女の子相手に暴力はいかんでしょ、暴力は」


それじゃあそういう事で、と言いながら阿久津らフォルテを自分の方へと引き寄せた状態で、そのまま教室を後にした。

そして帰り際に、教科書を投げられた時にできたアザと、フォルテの腕についた男性の手の跡を受付の人に見せて、軽く事情を説明して足速にその音楽教室から逃げ出した。


「いやぁごめんねフォルテちゃん、まさかこんな事になるとは、俺的には説教されたアイツが改心して、これからもフォルテちゃんの先生として、頑張っていってもらうつもりだったんだけど。まさか急に教科書投げつけられた時はびっくりしちゃったよ。」

「いえ、私も先生があんな事をする人だとは思っていなかったので、アクトさんごめんなさい」


そうは言いつつも、もし自分も先生と同じ立場になったのなら、間違いなく手が出ていたなと思いながらも、今までよくしてもらっていた先生の本性を見て少し恐怖しながらも、それよりも今は、最後に助けるためとは言え、初めて男性に抱き寄せられたことの方が今は、フォルテの心の中を占めていた。


「えっもあのアクトさん、それじゃあコレで私のスランプは解消されたんでしゅかね?」

「でしゅか?いやまぁいいか、そんな訳ないだろ。それともお前のスランプとやらは、お前の音楽の先生を社会的に抹消したぐらいで消えるものなのか?」

「ま、抹消なんてしてません!……でも正直私もこれで本当に、昔の様に楽しく歌を歌えるかが不安で」

「まぁそうだな。これは俺個人としての意見だと」

「意見だと?」

「100無理だな。言っただろ?お前のスランプ一端かもしれんと、本命はもっと別の所にある」

「もっと別の所とは?」

「お前なぁ、そうやって何でもかんでも人に聞くのは、人間の成長的にはあんまり良くないんだぞ?どうせ本丸を叩くまでには少々時間がかかる事だし、それまでにお前のスランプの原因についてでも考えてろ。手伝ってやると言った俺が言うのも何だが、本来スランプと言うものは本人が自分の力のみで切り抜ける物だ。そしてそれを切り抜けた暁には、お前の歌手としてのレベルが上がっているはずだろうからな」

「わ、わかりました。でも何かヒントみたいなものはないですか?正直自分でも色々考えても今まで分かってなかったので、せめてどの辺りを中心に探せばいいのかわからなくなっていますので……」

「……まぁ、それぐらいならいいか。フォルテ、お前のスランプの原因はお前のすぐ身近にあるぞ」


その後は、アクトさんから今日の先生との一件と、この前は言いすぎたと言う事で、お詫びの気持ちという事で近くにあったカフェで、デラックスジャンボパフェを奢ってもらうことになった。


ーーあとがきーー


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