第9話 フォルテの手助けその1

フォルテがガチ泣きするまで容赦なく、ネチネチとフォルテが触れて欲しく無い場所に連打しまくって、謝罪しに行った翌日


「なぁ小雪少し聞きたいことがあるんだが、今時間大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。それでお話とはなんでしょうかお兄様?」

「お前の同期のフォルテについてだ」

「フォルテ?」


そう聞き返した小雪の目から一瞬ハイライトが消えたが、それも一瞬の事で次の瞬間にはいつもの様に可愛らしく、整った顔立ちでこちらを下から覗き込んでいた。


「ああ、実はこの前たまたま会ってな、その時すごい嫌そうな顔で歌を歌ってたんだが、アイツはそんなに歌が嫌いなくせに、何故歌を歌っているのかと少し気になってな。もしかして何か歌に固執する理由があったのだとすると、悪い事をしたと思ってな」


それを聞いた小雪は、大層不思議な事を聞いた様な表情をしていた。


「フォルテちゃんが嫌な顔をしながら、歌を歌っていたんですか?」

「ああ、母さんとデートの日に急遽仕事ができた時の父さんと同じ顔をしていたから、間違い無いだろう」

「そんなに嫌な顔をしてたんですか!」


そう答える小雪は大層驚いていた。


「何だ?知らなかったのか?てっきり同期だからその辺は知っているものだと思ってたのだが、もしかしてそんなに仲が良く無いのか?」

「いえ、私とフォルテちゃんは普通に仲がよろしいので、その辺りはご心配なく。それよりもお兄様、フォルテちゃんが歌を歌うのが嫌いなんて事は、絶対にあり得ません」

「そう言われてもな……俺が見た時は本当に嫌そうに歌っていたぞ?それにその事を指摘したときも、特に反論もしてこなかったし、やはり嫌いだったのでは無いのか?」


阿久津がそう言うと、小雪は何かを捻り出す様に少し考え込み、そして何かを思い出したのか、ハッとした様な表情になった。


「そういえば前までは、週一で歌枠を取っていたのに、最近は殆ど歌枠をしていません」

「歌枠ってのは、配信で歌を歌う枠のことだよな、それは普通はどの様な期間でやるものなんだ?」

「えっと、私は人前で歌うのが得意ではありませんので、歌枠をやるのは記念配信の時程度で、普通に歌を歌うのが好きな人でも、大抵は月に一回程度ですかね?」

「なるほどな」


小雪が嘘をつくメリットも無いので、多分だがフォルテは本当は歌が好きなのだろう。これは本格的にやってしまった感があるな……。

せめてこの事を昨日知っていれば、ちゃんとした謝罪が出来ていただろうに、それなしてもこれはかなりまずいな、側からみれば今の俺は勝手な勘違いでいたいけな少女を、言葉で責め立ててガチ泣きさせた最低野郎では無いか……


仕方ない、美咲さんにフォルテの家を聞いて、今度は菓子折りを持って謝りにでも行くとするか。

ついでに歌うのが好きならば多分歌手も好きだろうし、奏にサインでも書いてもらってそれも持っていくとするか。


そんな事を考えていると、知らない番号から電話がかかって来た。番号を見るに誰かの携帯からの連絡の様だったので、多分友人に電話をする際に、電話番号を間違った誰かだと思いながらも、小雪の部屋を後にして電話に出た。


「はいもしもし、どちら様でしょうか?」

「もしもし、貴方はアクトで合ってる」


まさかの電話をかけて来たのは、阿久津が勘違いで嫌味を言いまくってしまった、フォルテその人だった。


「あーもしかしてフォルテさんかな?」

「うん」

「えーあー、今日はどの様なご用件で?」

「…………」


何だよ!用があるんなら早く言えよ!黙ってられると怖いだろ!


「……って言ったわよね」

「え?ごめんもっと声を張っていってくれる?声が小さすぎて何も聞こえん、それでも日頃歌を歌ってるのか?肺活量足りなく無いか?」


はい!またやってしまったー。そんな風に阿久津が自分の言った言葉に速攻で後悔していると、


「貴方私のスランプ解消してくれるって言ったわよね」

「お、おう。それは言ったがお前普通に歌えてたじゃん?何がスランプな訳?歌の場合スランプって歌が歌えなくなるもんじゃ無いのか?」


阿久津がそう言うと、またしてもフォルテは少しの間黙ってしまった。


「……貴方に言われた事を家に帰ってからよく考えたの」

「お、おう。いや実はその件だが……」

「やっぱりあの轟奏の才能を見抜いた、貴方の目は誤魔化せなかったんだと思ったの。」

「ん……んん??」

「貴方の言う通り、実は最近私は歌を歌うのが少し辛かったの。別に楽しく無いって訳じゃ無いの。ただ、何だか昔みたいな自由な感じじゃなくて、歌ってて何だか息苦しく感じるの」


……?歌を歌うと自由になれるものなのか?それに歌を歌うと息苦しいって、それはスランプとかじゃなくて何かの病気とかじゃ無いのか?


「それを見抜いて、助言してくれたのに私はあの時、貴方に強く当たってしまって本当に申し訳無いと思ってるわ。それに昨日も謝ってくれたのに、その時も嫌な態度をとってごめんなさい」

「あーっと。いや俺の方こそ嫌な言い方をしてしまって、申し訳なかった。それで、頼みってのはフォルテちゃんのスランプを解消させるって事でいいのかな?」

「は、はい」

「分かったか。ならこちらでも色々と考えてみよう。もしいい案が思いついたら、また俺の方から連絡を入れさせてもらうよ。もちろんそれまでに聞きたいことがあったら、いつでも連絡して来てくれても構わないから。それじゃあそう言うことだから」


そう言って阿久津はそっと耳元から、スマホを下ろし通話終了ボタンを押した。


……セーフッ!!!何がどう言う訳かは全くもってわからなかったが、なんかうまく行った!

にしても、歌を歌うと息苦しいってどうすればいいんだよ?普通にこれは病院案件だろ。

かと言って、それを言ったところであの状態の輩は絶対に信じないんだよな。どうしようかマジで。


まぁ何にせよ、これからどうするかを考える為にも、一旦はフォルテちゃんの歌枠でも見てみるとするか。


そうして丸丸一日を使って、過去の歌枠から今やっている最新の歌枠までを見終えた結果だが……。

小雪の言っていた事はやはり正しかった様で、当初の頃の歌枠では、声からでも伝わるほど楽しそうに歌っている様子だったのだが、それが月日が経つたびに、楽しさが少しずつ消えてゆき、その代わりに歌のクオリティが圧倒的に上がっていっていた。

成程な、これがvtuber界の歌姫か……。そう言われるのも納得だな。vtuberを始めたでの頃は、歌っている歌も本人が好きだろう歌を歌っていたが、今では自分の得意とする歌を積極的に歌っており、更にはいい先生についたのか、歌の技術も初期の頃とは比べ物にならない程上がっている。

その結果が何ともつまらない歌姫ができた訳か。


「ならば、フォルテちゃんのスランプを解消する為に必要な事は、思っていたよりも簡単に解決する事らしい」


そうして阿久津は、自分のスマホを手に取った。


ーーあとがきーー


★★★レビューや、♡応援、フォローを押して頂けると、創作活動のやる気にも繋がるので、ぜひ押してください!よろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る