第4話 何となく分かったよーな!?

「だからそんなの知りたくないってば!? あたしに拒否権きょひけんって無いの!?」

「当たり前や。あんたはモルモットが食べるえさ並の存在で、わしは研究者のパトロン程の存在で、その間には太陽系たいようけい鳥取とっとり砂丘さきゅう砂粒すなつぶほどの開きがあるんや」

 あかんベーをしてしたを出す神様を見たら、世の神学者達はなんて言うだろう?

 そりゃーこんな神様になんていくらお願いごとをしてもかなえてくれないはず。

 神様……あたしは今日神様と遭遇そうぐうして神をうしないました……。

「……なんか今思ったか?」

 ぶんぶんと首をれるほどってみせたあたしを一瞥いちべつして、ほんまかー? ってな顔をしてる。

 即座そくざ思考しこう回路かいろ停止ていしモードオン!

「……ようするにフラグが重要なんや」

 すべての所業しょぎょうをからりと無視むしして、タブやんはあきがおで言った。

 ん? フラグって?

「あんたらの運命はもうすでえがかれている。そのさい決定けっていされたいくつかの未来は系統けいとう立てて枝分えだわかれされている。無限大むげんだいひろがる生命いのちつむわせるために点でえがかれているのが、その起点きてんとなるフラグ。あっちの道へ行くかこっちの道へ行くかっちゅーさい分岐点ぶんきてん。ターニングポイントってなもんや。すべての存在の相関図そうかんずからみちびきだされるんやで? 選択せんたくされた未来は誰かの未来との相互そうごの関係により決定。でもさっきもゆーた通り、わくは決まっているんやから全体ぜんたいとしての役割やくわりなんも変わらん。」

かった!」

 突然とつぜん、頭の100ワット電球がバリバリッとひらめきのかりをともした。

「ホントーは学校とか職業が関係あるんじゃないんだ。つまり!」

 にやりと笑うとぽんとてのひらを打ち、深くうなずく。

「まあその話は今の論点ろんてんからは多少ずれとるけどええことうた。人間で言えばな、どんな職業にくとかな、そんなん人間だけのことやろ? あんたたちが生きていくための一つの目標もくひょうとしてしか機能きのうしてないんや。進化した人間はみーんな法律家か政治家かパイロットか野球選手か? 違うやろ? まあ、人間の分岐点ぶんきてんなんてそんなもんやしな。そこらが運命のかれ道ってことにしといた方が簡単な話やさかい」

 タブリスはさらに続ける。

「それとは別やけどな。この世界、そしてその存在には本来別の意義いぎがあって意味を持つ」

 ごくりとつばを飲む。緊張感きんちょうかんのど奥底おくそこまでしたたらせながら。

「それって……なんなの?」

内緒ないしょや。そもそもあんたが知る必要はないし、それを知ることもない」

 えぇー? ここまで来といてそれは無いんじゃない!?

 ……でも、それを口にしたタブリスの顔がほんの一瞬いっしゅん、冬の空に浮かぶ黒雲の様に生命いのちそのものをてつかせるざらついた雨を降らすようかげりをびた表情をにじませたのをあたしは見逃みのがせなかった……。

「つまり、あんたのお話はここで途切とぎれとる。そのあとどうなるかまったく判らん。意図的いとてきなんかがあったとしか思えんな」

 いつの間にか、ちゅうただっていた不思議ふしぎなスクリーンはその痕跡痕跡も残さず消えていた。

 あたりをおおしずけさの中で二人だけが、この空間に浮かぶクラゲのようになんだかさき見失みうしなっているかのごとただよっていた。


 話をしている最中さいちゅうにベッドからかろやかにり、あたしの目線めせんのずっと下のほう腕組うでぐみをしながら思考しこうめぐらせているのは、とにもかくにも自分を神様と名乗る不可ふか思議しぎ存在そんざいで。

 あたしと言えばうつらうつらと夢見ゆめみ心地ごこちな、ただの女子高生なわけで。

 うーんと背伸せのびをしてつま先で立ち、ちょっと胸を突き出す。

 思いっきりんだ呼吸こきゅうを少しだけめて、難しく考えることをめる。

 ようするにあたしの未来があぶないのね? そして、あたしの人生が変わっちゃうと大袈裟おおげさだけれどこの世界すべてに影響えいきょうが出ると? 面白そうな話じゃない! まったく先の見えない人生なんて、それはそれでふつーのこと!

 この道の先の先まで分かるなんてそんな人いるわけないじゃない! でも本来はそーあるはずで、そーだと思っていたから! あやつ人形にんぎょうにも五分ごぶたましいよ! とりあえず原因げんいん究明きゅうめいため行動こうどう開始かいし

「あたし、やるわ! この運命を変えてみせる! って元にもどすんだっけ? どっちでもいいから! とにかく手伝わせて!」

 ついさっきまで、ぼけた顔で日常生活の延長戦えんちょうせんなんとか続けていたあたしはもうここにはいなかった。

 そんなあたしをまじまじと見上みあげたタブリスのひとみに強い希望の光が宿やどったように感じたのは、あたしのおもみかしら?

「出来んのか? あんたに?」

 うっ!? いきなり出鼻でばなくじかれるカウンター攻撃こうげきにもひるまず軽快けいかいにステップをまなければ! タオルを投げられたらおしまいよ!

「あたしは自他共じたともみとめるふつーの女子高生よ! 女子高生って言ったら、そのー? とにかくあれよ! なんでも出来でき年頃としごろなのよ!」

 その途端とたん、おなかかかえてとても愉快ゆかいに笑い出す神様に、何だか肩肘かたひじをピーンとめていた力がちょっとだけ軽くなった気がする。

「分かった分かった。わし一人で行動するのもしょーみな話、制限せいげんがいっぱいや。ほんならよろしく頼むで。で? 今、何時や?」

 そうだっっっったぁぁぁ!! な、何時かしら?! えっ! 12時30分って! なによこれ! 重役じゅうやく出勤しゅっきんもさながらの顛末てんまつからの始業式しぎょうしき!? ってもう終わってるんじゃないの!?

 大変!! とにもかくにも学校に行かなくちゃ! 夢と現実はきちんと区別くべつして考えましょうって! あー! もうそんなこと言ってるひまが無いのは分かっているけれども!

「あ、ところでな」

 大きな黒目をちらりとあたしに向けて、人差し指をちょこんと立ててすみやかに、かつ無表情むひょうじょうな言葉をつむぐ。

「今の話な? 誰かにしたらころすで?」

 ……神様、あたしをおまもくださいっ!

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