第3話 あたしの運命!?
ふむふむと
取り立てて
「人間の運命っちゅーのはな、全部決まってるんや。少しばかりの回り道とかは無きにしも非ず」
「決まってる?」
「あんたがどー生きていくとかな。器以上のことは出来ひん。でも選択肢位はある。いい方にも悪い方にも転ぶっちゅーもんや。どえらい人間には選択肢もたくさんある。当たり前のことやな? 天は文字通り二物を与えるんや。何も出来ん人間にはそれなりの道しかない。それだけのことなんや。全く予想もつかんゆうのは人間同士でのこと。わしらにとっては当たり前のこと」
うんうんと
「
「……最初から用意されている?」
ゆっくりと、そして深く大きく深呼吸してから
「そういうことや。大きいのから小さいのまで
もう一度繰り返してみるその言葉が少しだけ重くなった。
「……最初から全部決まってるから?」
「
当たり前のようで当たり前じゃない。
だって、大前提としてそれを
空気が抜けた風船がどこへ落ちるのかなんて誰にも判らないんだから。
つまらない日常生活がずっと続いているのだって、大事件が起きて世の中がひっくり返りそうになったって収まるべくして落ち着くとは限らない。そこにある感情論は別としてね。誰かがいなくなれば勿論悲しいし、何かを失えばポッカリと心に穴だって空く。
要は、事もなく次の日がちゃんと来るってことがホントはあり得ないことかもしれないってこと。いや、あり得ないと考える方が普通であって、だからこそあたしだって明日も頑張ろうとか思えちゃう訳で。
だから神様の言った言葉は、結局のところ予定調和のシナリオが“存在している”ってことをぶっちゃけ告白したようなもの。
今の言葉はあたしの未来ってだけじゃなくて、あたし達の未来への可能性を否定されたってことでもあるから。
「よーするにあんたなんかおらんでもええっちゅー話やな。言葉通りの意味やないで? その程度のことやから同じよーなことが飽きもせんと続いとる。
つまり?
「この世界そのものが?」
「わしらは最初から存在しとったけどな」
「……結局、あたしの人生はもう決まってるのね?」
「有り
そー言って白い歯を
「この世界も案外とおもろいこともあるけどな?」
あたしの顔に不意に近づいてくると、今度は
「あんたみたいな
呆れ顔で目を閉じてうな垂れるあたし。
さっきの動画のことを言われてるんでしょーよ。
「つまらん話やったな? まぁ、おいおいと喋っていくさかいに、要点を述べよか」
ついっと、あたしの横を短い歩幅で
「あんたな今まで遅刻したことて、ないやろ?」
おもむろに問いかけられて、そう言えば? って視線を天井に向けながらふっと考える。
言われてみれば? ……い、今何時かしら! いや、でも、それよりも?
「まぁ、だらだらと
し、失礼な! 最低限の常識くらいは普通に持ち合わせています! でも? 今日は夏休み明けの始業式の日。昨日はちゃんとご飯を食べてテレビを観てお風呂に入ってベッドに入ったから、寝過ごすような
ごく普通の昨日だったし。まぁ目覚まし時計に八つ当たりするのはいつものことだしね……。
「何か妙なことでもなかったか?」
そう言われても……特にこれといって思い浮かぶこともないけれど。
ん? でもそうね、ひとつだけ。
「夢を見てたわ」
「どんな?」
そう、それはとてもとても
そう思える程の、
ううん、
それは本当にくっきりと。
「ふん? 食べ物の夢しか
「わぁぁ! な、なんでそんなこと知ってんのよ!」
ちょ、ちょっとぉ! 乙女の秘密を
「どんな夢やったか言うてみ?」
「楽園がすぐそこにある様なそんな場所にあたしが立ってるの。そう、金色の鳥が飛んでたわ。思わず
「金色の……鳥?」
ちょっとだけ小首を
「あんた……エデンの
「エデン? あれでしょ? アダムとイブが追い出されたって場所のこと? 神話?」
「まぁそんなもんでえーな。知っていることと理解してることは別もんやし。あんたが知っていることも多くはないけれど、理解していることは案外あったりするもんかな」
何だかよく判らないけれど?
「それはつまり、あたしが見たのはエデンの園の夢ってこと?」
無言でその
ちょっとした知識としては一応理解してるつもりだけれど、写真で見たことなんて
食べちゃいけないって言われてた
気持ちは分からなくもないわ。食べちゃいけないって言われてたってどうしたってその
「まぁええわ。ぶっちゃけて言うとな、あんたが今日遅刻したりすることは、わしらにとっては予想外なんや」
「は?」
キョトンとしたあたしをさっぱり置いてけぼりにして話を続ける神様が。
「大したことや無いて思うかもしれへんけどな。これが
はぁ……遅刻なんて毎日誰かがするもんじゃないの?
「さっき見せたアレな。もうちょっと見てもらおか」
たくさんの動画が所狭しと並んでいる画面から、
多分、ひとつ手前に
「何にも映《うつ」ってないわよ?」
何やら白い枠の中に文字が?
「Not foundって? 見つかりません?」
「つまり未来が消えてるんやな。」
ふうっと重たい
「見つかりませんだらけじゃないの? これって?」
どれだけか続くサムネイルにも同じ言葉が乗っかってるってことは?
あたしにはもう未来が無いってこと?
「今見てもろた画面はあんたの全記録や。すごいやろ? 全ての存在の記録が日々毎日ちゃんと残っとるんや。いや、そう言うのは適切やないな。生命の終わりまでの全記録。
そう言って、
どっちみち、何だかどうやったってあたしはあたしから逃れられないというか、つまり、想像し
ううん、そういうことじゃないか。
どんなに
「本命はこっちやな。チャッチャと見ていくで」
「これが運命の
あたしの記憶にも無い、あたしが生まれた場面がそこにあって。それは、
ここは病院なのね……。
ママが泣きながらあたしを
ううっ、何だかまあまあな期待を
何だか罪悪感ばかりが込み上げる悲しいあたしにやっぱり納得いかないあたしもいるけれど。
って言うか? 何だかやたら少ないわ! あたしが生まれたところから線が延びていて、あたしが小学校に入学した場面、高校に入った場面?そこからほとんど一直線って! どれだけ選択肢が少ないの!? あたしの秘めたる可能性は一体どこ!!
「まぁ人生なんてなんぼのもんや」
のほほんと当たり障りの無い言葉でお茶を濁されても! もう少し波乱万丈な設定作りをしておいてくれなきゃキャラとしてたてないわ、これじゃあ!
「あんたの基本設定か? うーん、データを見る限り天然ボケで周囲を笑かす、強いて言えばホッカイロ並の必要性しかないなぁ」
冬季限定キャラなの!? それもジャケットのポケットの中とかジャケットと背中の間とか! ジャケットがないと意味ないじゃない!
「こたつに入ったら真っ先に、”ぽい”やな?」
ごみ箱に何かを放り投げる振りをしてケタケタと笑う。
うううっっ! 打倒エアコン!!
打ちひしがれてうな垂れるあたしは、すでに熱を奪い去られた使い捨ての鉄の塊みたいに固まっていた。
って! そんなことじゃなくて!
「これ、高校に入学した後の画像が全部映ってないわよ?」
張り出された掲示板の前でみんなに胴上げされているあたしの画像。その後に続くサムネイルがほとんど全部一直線に繋がっているのが何だか気に入らないけれど、その全てが全く何も映し出していない。
「だからなんや。すべては運命という物語な筈。こんなことはありえへん。ちなみに次の画像は……」
ストーップ! ストップ! 見えないなら見えなくていいから! 知りたくないわ! そんな恥の上塗りのストーリーなんて!
「なんやねん。次は普通に大学に入学や。ええやないか、わしとあんたの上下関係なんやし」
ああ、そうなんだ。ていうか全然つまらないわね。
もっとなんか宇宙人とか未来人とか予知能力者とか、現代まで実は生きていた織田信長と遭遇して再び天下統一! とかそんなのないの?
あぁ……神様と出会ったんだっけ……。
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