風が潮の匂いを運び、海辺の松の木がそよそよと揺れていた。低い潮騒が唸る。彼女は、青いワンピースに身を包み、白く波立つ海を黙って見つめていた。海風が彼女の髪を舞わせた。


「別れの言葉を告げるのは難しいね」男は言った。


彼女の手を優しく握りしめながら、笑顔を交わした。胸が締め付けられる。彼らの歩みはゆっくりと、時間を感じさせながら進んでいった。


彼らは突き当たりの岩場に座り、遠くの海を眺めた。太陽はゆっくりと西に沈み、オレンジ色が波に映り込んでいた。彼女の瞳には、涙が宿っていた。


「君との思い出は、この海みたい」彼女がそう言うと、男は手を伸ばして彼女の頬に触れ、涙を拭った。


「深くて、広い。だけど過去は変えられない」と彼女は言って男の手を取り立ち上がった。二人は再び歩き始めた。


岸辺に立つ小さな舟が、波立つ海面に揺れていた。彼女はそっと舟に乗り込んだ。舟は静かに漕ぎ出し、海の中心へと進んでいった。彼女は深い海を見つめ、次への想いを巡らせる。


舟は遠くに消え、残されたのは男と海と潮騒だった。潮風が傷に染みる。

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短編集 太田肇 @o-ta

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