最終話 それから

あの雨の日から7年、私は地元に帰ってきていた。お盆が近づいてくると、柾の墓参りにいくのが、お決まりとなっていた。高校卒業後は東京の大学へ進学し、そのまま就職した。仕事もそろそろ板についてきて、楽しい時期を迎えていた。

今でも柾は心の中で、大切な思い出として生きている。


「柾、今年も来たよ」


「私、仕事頑張ってるんだ。大変だけどやりがいのある仕事。柾が生きてたらどんな仕事に就いていただろうね」


と、話しかける。人目を気にしないでいられるからだ。田舎のお墓は、そうそう人がこない。放置された墓、誰も来なくなった墓。そのせいか柾の墓がひときわ輝いて見えた。


一通り話し終え、掃除を済ませると誰かとすれちがい、足を止めた。その顔は二度と忘れたことはなかった、あの女だ。

葬式では見かけなかったのに、毎年墓参りには来ているらしかった。あの時と変わらないお世辞にも綺麗とは言えない、素朴な容姿のままだ。でもその素朴さの中に、男が惹かれる何か不思議な魅力を纏わせているのも事実だった。

きつねのように吊り上がった目の下に、ほくろがひとつ。右目の下にある。これが男を誘うのだと高校生ながらに思っていた。柾もこのほくろにやれたのだと勝手に想像するには十分魅力的な部分であった。ただ、当時の若さはすでに残っていない。

目尻には皺が広がり、ほうれい線も少しばかり目立っていた。


ふと視線を横に移すと、目の前には恐ろしい光景があった。

柾と同じ顔をした男がそこには立っていた。しかも女の恋人らしく、親しげに話していた。


私はこの時、あの雨の日に一気に引き戻された。再び渦の中に吸い込まれたのである。







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澱み 涼野京子 @Ive_suzun9

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