第10話 幕開け

「美沙ごめんなさい。あたしあの子がずっと嫌いだった」


美沙はいきなり来たことに嫌な顔一つせずに迎え入れてくれた。よく冷えたオレンジジュースを用意してくれているのを待ちきれず、あたしは美沙に正直な気持ちを告白した。


「気づいてたよ、あんまり好きじゃないんだろうなとは。私が無理やりつき合わせた感じもなんとなく悪い気はしてたんだ。私もごめんね」


こんな時でも美沙は自分の非を認めるタイプの人間だ。だから愛とは気が合ったのだと今になって思い知らされる。また自分の醜い部分が明るみになった。なぜあたしはこうなのだろう。


「遊子?大丈夫?顔も青白いし、気分悪いの?少し休んでいけば?あんたのお母さんには連絡しておくからさ。ゆっくりしていってよ」


思い詰めていると、美沙はやっぱり気づく子だった。他人を思いやり、優しくする。

まだ完全に心が晴れた訳ではなかったけれど、すっと胸が軽くなった。

ありがとうと一言いうと、いつのまにか眠ってしまい、気づけば夜の8時を回ろうとしていた。今日はもう泊まっていきなよ、着替えもあるしと言われたのでお言葉に甘えることにした。だいぶ気分も良くなり、美沙に話の続きをしたくなった。布団に横になったままでは悪いと思い、正座して彼女をまっすぐ見つめた。


「あのさ、あたし今日愛と話してきて、もうなんか分んなくなちゃって、自分で自分が嫌になった」


「えっ?嫌いだって本人に言ったの?」


「うん、だってもう本人にはバレてるだろうなと思ってたし、このままギスギスしたままでいたくなかったから」


「ふーん、まぁそれは2人の問題だから私は口出ししないけど、よく言ったね」


「緊張したよ、だってあの子基本いい子でしょ。それは分かってる。ずっと前から私とは正反対の綺麗な子だなって思ってたから」


「綺麗?」


「心が純粋でまっすぐって意味だよ。あたしなんて性格悪いし、愛嬌ないし、どこもあの子には勝てないから」


「そんなことないというか性格は勝ち負けじゃないから。あんたははっきり言えるところがいいところだと私は思うけどね。誰だって言えないこともあるんだよ」



美沙に褒められるなんて最高にうれしい。人生で一番幸福だと思えた。もう、過去の自分とはけじめをつけた。これからは生まれ変わる。あの子とも仲良くする。

二度と逃げないとオレンジ色の月に誓った。






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