第8話 語られる真実 partⅠ
愛がうちへやってきた。もう何が聞きたいのかこちらは分かっているつもりでいた。インターホンから覗き込む彼女の顔はどことなく寂しげだったが、目の奥に怒りがあった。招き入れ、お茶を差し出す。さて、何から聞いてくるのだろう。身構えていると、思ったより早く愛は口を開いた。
「美沙、知ってるんでしょ。柾の浮気相手が誰なのか」
直球で聞いてきたので面食らったが、もう逃げられない。
「今まで隠しててごめん。しかも私彼を呼び出して、問い詰めちゃったんだ。あんたを傷つけまいとずっと黙ってだけど余計傷つけちゃったよね」
「いいって、私はあなたにずっと救われてきたんだから、怒ってないよ」
内心ほっとした。もっと怒られるかと思っていたのに、意外にも彼女は私のことなんてまるで気にしていないようだった。それよりも彼の浮気相手のことを知りたがっていた。
「それで、誰なのか知ってるんでしょ。教えてよ」
「あいつだよ。あいつ。例の人だよ」
目が鋭くなった。予想していたかったのか驚いたようでもあった。
「そう、あいつなんだね。ありがとう教えてくれて」
落ち着いた風を装っているが、彼女の心はざわついていたに違いない。現に額から汗がたらたらと流れ、それを何度もぬぐっていた。
やっぱりこのことは話さない方がよかったのかもしれない。私が彼を問い詰めなければよかった。こんなこと知らなければよかった。
後悔の念が湧いてくるが、もうどうすることもできない。
「あのさ、私が隠してたこと本当は怒ってるんじゃない?だって知ってるなら言ってよって感じでしょ?私ならそう思うもん」
「何言ってるの。本当に怒ってないってば。むしろ感謝してる。浮気相手がずっと分からなくてもやもやしてたから、あなたが知っててよかった」
私が今まで見た中で一番美しい笑顔で彼女は言った。
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