第6話 友人Y

あたしは半ば強引に彼女と友達にされた節がある。もともと美沙とは幼馴染だった。保育園の時から一緒で、家も隣同士だったから自然に仲良くなった。そこに彼女が現われたのである。高校生になって、また美沙と同じクラスになったあたしは新しく友達を作ることもせず、美沙といられるだけで良かった。しかし、彼女のその人懐っこい性格に美沙は絆されたようだった。彼女のことばかりきにかけるようになり、あたしとはこれまでと同じように一緒にはいてくれなくなった。とはいっても放置されているわかではなく、2人だけという状況ではなくなったというだけで、3人になったと言った方が正しいのだと思う。それがどうも気に食わなかったが、美沙といられるだけましかと自分の中では納得したはずだった。


高校2年生になったも大してその状況は変わらなかった。まあ1人増えていたけれどそれほど気にせず、美沙との青春を満喫していた。しかし、自分の中で怒りの種子がゆっくりと芽生え始めていた。それは彼女の存在だ。最近、美沙の付き合いが悪いなと思っていたら、彼女とばかり遊んでいるらしかった。あたしの美沙なのに、どうして美沙は振り向いてくれないのか。あたしは美沙に友達以上の感情を抱いていたことは自覚していた。ばれてしまえば、今まで築き上げてきた関係も崩れてしまうことも重々承知していたし、話すつもりもなかった。美沙があたしに構わなくなったのは、きっとばれたからだと考えたこともあったが、美沙ならはっきり知っていると言ってくるだろうとバレた可能性はすぐに消すことにした。彼女にはそれほど魅力があったのだろうか。あたしにはない魅力が美沙を誘っているのだろう。美沙といるときだけしか彼女と話さなかったあたしは、彼女の何がそうさせるのか見当もつかない。ならば自分で調べるしかないと思い、彼女を喫茶店に呼びつけた。



「愛ちゃんって、美沙とは高校から仲良くなったんだよね。あたしは保育園の時から美沙と仲良しだけど、本当にいい子だよね」



「そうだけど?わざわざ2人きりになって話したかったのって美沙のことなの?」


相変わらず勘のいい子だった。あたしの本心を見抜いていたのか、さっさと話をすすめたがった。


「うーん、ちょっと関係はあるけどあんたのことで気になることがあってさ。あたしの方が美沙と仲良しのはずなのに、なんであんたはさも親友面してるのかなって。正直目障りなんだよ」



「なんだ。ただの焼きもちか。私はただ普通に接しているだけ。特に美沙だけに優しくしたり気に入られようとしたわけじゃない。はっきり美沙に言えば?もっと構ってほしいって」



彼女はどこまでも小気味よい子だ。これでもう分かってしまった。彼女は素ができている人だ。あたしみたいに嫉妬しないし、他人のエリアにずかずかと入ってこない。丁度良い距離感で人と関係を築く子。初めから分かっていたことなのに、わざわざ勝負をしかけて負けた感覚に陥った。あたしは飲みかけのアイスコーヒーをそのままにして、店を飛び出した。きっと今日のことも彼女は美沙に話さないのだろう、そういう子だ。涙で溢れそうになる目を押さえて、美沙の家へと向かった。



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