第4話 友人M
「愛、昨日ずいぶん急いでいたけど、何かあったの?」
私は普段通りに話しかけたが、彼女の反応は鈍い。いつも明るく朗らかな子なのに一体何があったのだろう。
「別に、何でもない。ちょっとお母さんにおつかい頼まれちゃって」
ふーんと当たり障りのない返事をしたが、嘘をついていることは明白だった。彼女は何か隠し事があると、鼻を指でなぞる癖がある。正直に言わないのなら、彼氏に聞くのが妥当だと思い、早速放課後呼び出すことにした。
ここなら誰も邪魔にされないと思った。屋上はめったに人が近寄らない。誰か自殺したとかという噂で生徒たちの間では嫌煙されていたからだ。いつ壊されたのか分からない重い扉に、錆びたノブは噂のそれを醸し出していた。そっと開けると彼の方が先に来ていたらしく、過ぎにこちらに気がついた。
「話って、何?」
「愛に何があったか知ってるんじゃないの。それとその原因はあんただと私は思ってるんだけど。私は親友としてほっとくわけにはいかないの」
彼は黙りこくった。やはり図星なのか、私はやれやれと呆れてしまった。
「浮気したんだ、俺。しかもあいつと」
あいつという呼び方をされているは誰だったっけと頭をひねったが、すぐに答えは出なかった。誰か突き止める前になぜ浮気したのか聞かねばならないと思考を切り替えた。
「なんで浮気なんかしたの?彼女が大事じゃないの?」
私はつい意地の悪い感じで聞いてしまった。原因も浮気相手も何もかも知っていたのにもかかわらず、知らないふりをしたまま彼を問い詰めた。どうしても彼の口から直接聞きたかったのだ。そして、彼女にも伝えてやろうと決めていたのだ。余計なおせっかいだとは分かったが、こういうたぐいの話は第3者から聞いた方が真実味を増す。それに、親友の私が黙っているわけにはいかなかった。ただ、彼女に正直に話すことが怖かったのだ。だから彼から本当の話を聞いたといって、伝えたかった。
私は彼の告白をただじっと待っていた。
「浮気してしまったのは、あいつをもう解放したかったからなんだ」
彼は間を置くことなく、すぐに口を開いた。ただ、浮気相手は教えてはくれなかった。そりゃそうだよな、バレたら大変だもんと心の中でつぶやく。
「解放って?もしかしてあんたの暴力のこと?それなら、とっくのとうに諦めてるわよ。それも含めてあんただって、受け入れようとしてたんだから」
「そうなのか!?でも、もう俺は壊れてしまったんだ。暴力を自制できない。いつも傷つけてばかりだった。もう辞めたいんだ」
彼の必死の形相を見ていると、可哀そうになってこの話は秘密にしておくことにした。愛、ごめんなさい。
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