第3話 柾の告白

「愛、俺たち別れよう」


嘘でしょ、冗談辞めてよねと茶化すが、どうやら本気らしかった。交際は順調そのものだったはずだ。友達からも仲良いよね、いいなーといつも羨ましがられていたのに、なぜ別れないといけないのだろう。私の家で映画を観るだけだったけれど、この時間が愛おしかった。


「なんで?何か嫌なところとかあるの?私なおすから」


「そうじゃないんだ。全部俺が悪いんだ」


「浮気したんだよ。あいつと、だからもう終わりにしよう」


 浮気…。あんな真面目で私しかいないという感じだった彼が、浮気なんてありえない。私の心の中はフツフツと憎悪のスープで煮えたぎっている。許さない。許さない。許さない。彼の裏切りは、私の彼への愛情を瞬時に憎しみへと変えてしまった。

握りこぶしをほどけないまま、一目散に階段を駆け下りていった。無我夢中で、彼がどんな表情をしているのかも見ないまま、とにかく走り続けた。その道中、美沙とすれ違ったのに、無視してしまった。


「どうしたの・・・」


 美沙の声は私には届かない。今はそれどころじゃない、誰にも顔を見られたくなかった。浮気相手も分からないし、彼の言葉にうまく反応できなかった。自分が情けなくて、唇から血が出るほどかみしめていた。馴染みのあるドアに手をかけ、座り込む。全力で走ったはずなのに、いつもより時間がかかったように感じた。思ったより大きい音だったらしい、母が険しい顔をしながら玄関までやってきた。


「そんなに音を立てないで。びっくりするでしょう。次からは気をつけなさいね」


相変わらず私のことに関心のない母親だ。いつもと違う私の様子にちっとも気づかない。まぁ、そんなところがあるから助けられてきたこともあったけれど、無性に彼女の無関心さに腹が立った。私は2階の自室へ足をはやめ、落ち着こうと深呼吸をする。


「スー。ハー。スー、ハー」


彼は一体誰と浮気をしたのだろう。少なくとも私に近しい人物だと思った。わざわざ、自分からバラてもない事実を告白し、別れまで切り出したくらいだ。友達も多くはないし、簡単に見つかりそうだと高を括っていたところもあった。浮気相手候補として美沙、ヒカリ、遊子の3人が挙げられた。明日直接聞くしかないと決意したところで、大勢の羊たちの森に引き込まれていった。気づけば、もう太陽が昇り始めている時間だった。







 

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