第45話 修行1
釣りを終えてから、数日が過ぎた。
私は、硬まった体を動かしてほぐしていた。
「ふう~。久々の走り込みだったが、気持ちがいいな~」
下界に降りてから、温い日々を送っていた気がする。
体が鈍っているかもしれない。戦闘勘もだ。
弟子を取り、育て上げるなど、私にはまだ早かったな。自分自身が未熟なのだ。仙人どころか、道士にもなれていない。
体を鍛えなければ……。
「ヘーキチさんは、それ以上ステータスが上がりませんぜ? まあ、下がりもしないんでしょうが……」
う~む、自分の限界か……。薄々は、感じていた。
だから、
私は、『打神鞭』を抜いた。
「う~ん。なんか壊していいモノはないものか……」
「ほ~。ヘーキチさんでも、そんな感覚あるんすね~。なんでもかんでも壊して行くんだと思ってやした。いきなり山を吹き飛ばして、谷を埋めるんじゃないんすな~」
私は、破壊者じゃないぞ?
シルフィーと、同類と思われている?
こんな、ジェントルマンになにを言っているのか。
「とりあえず、川に行きましょか。上流の無人地帯ならば、被害も出ないでしょうし~」
なるほど! 水面を撃つのか。いいアイディアかもしれない。
「それだと、砂でもいいな……」
「俺っちは、砂漠には行きたくないんすよ~」
そうだったな。大鮫魚は砂漠の牢獄で捕まっていたのだったな。
それに、修行場としては過酷過ぎる。汗を拭う水は欲しい。
もしくは……。
「天界の嫌がらせとして、雲を撃つ……」
「次元と言うか、空間の位相がちがいまっせ? 嫌がらせにならないっす」
ふむ……。嫌がらせにはならないのか。残念だ。
今度、天界に行く道を拓いてみるか。
「拷問は避けてくださいね~。あと、天使の羽衣とかの強奪をすると、流石に天界も黙っていませんぜ?」
私をなんだと思っているのだ。話を聞くか、借りようと思っただけだったのだが。
それを、拷問と強奪と言うのか?
私なら友好的に行える自信があるというのに。
「まあいい。次に行く場所が決まった。川の上流への案内を頼む」
「ふぅ~。説得と道案内も、一苦労っすね~」
◇
目の前に、小川が流れている。その先に大きな湖だ。
『打神鞭』を構えて、瞑想する。
「……シルフィーを相手にするイメージ。……わかないな~」
どんな攻撃でも、炎で塞がれて、次の瞬間に私は灰になっている……。
奇襲の一撃で仕留めないと、炎に焼かれるイメージしかわかない。
フィジカル特化の私には、苦手な相手だ。
例えるなら、スター〇ラチナ vs マジシャンズ〇ッドだな。様々な考察がなされていた。マジシャンズ〇ッドなら、ザ・〇ールドも倒せたんじゃないかとか……。まあ、人により意見も違っていたな~。
「なんの話っすか? それと、もう一つ貰ってんじゃないっすか?」
「む? 『杏黄旗』か?」
私に防御は不要と思ったが、そうもいかなくなって来たな。
相手は、今や世界最強の一角だ。
三大仙人と戦うと思おう。
「……しかし、どうやって使うんだ? 一人だと、性能評価を行えないのだが?」
「今頃、気が付きました?」
適当な妖怪を狩って行く。向かって来たからだ。
この時代は、まだ無人の土地が多い。
そして、山深いこの地ならば、妖怪がわんさかいた。
「う~ん。雑魚ばかりだな~。攻撃も貧弱としか感じない」
拳を振り回すと、妖怪が吹き飛んで行く。
私は、殺戮がしたいのではない、攻撃を受けたいのだが……。
「これでは、『杏黄旗』があってもなくても変わらないな」
「……殺戮せずに、じっとしていては? 親玉が来るかもしれやせんぜ?」
う~ん。それもそうか。
今度は、座禅を組んでみる。
妖怪共が、逃げて行ってしまった……。
「……我慢っす」
「う……む」
◇
三日が経過した。
今だ来ない。
「なあ、大鮫魚……。移動しないか?」
「……我慢っす。ちょっと、天界に依頼してみやす」
ここでふと気になった。
私の〈索敵〉にそれが引っかかったのだ。
「……霊穴があるな」
霊穴とは、霊力の溜まり場のことだ。そこに座っているだけでも、一応修行にはなる。
私は立ち上がり、移動した。
「我慢できない人っすな~」
「む……。先客がいたか」
そこには、妖怪仙人が居座っていた。
「岩か? 岩が霊穴を塞いでいる?」
巨石だな。何百トンあるのかも分からない。何百年と居座って、妖怪仙人になったのだろう。
「どうすんすか?」
「……割る」
私は、腰を落とした。そして、拳を握る。
「ふん!」
全力の右ストレートを巨石に撃つ。
――ドカン
「む……。割れないか。石の目は何処だ?」
「あの~。痛いんですが……。いきなりなんなんですか?」
巨石が、人化して話して来た。
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