第44話 尻ぬぐい2

 西岐に戻って来た。

 申公豹のしでかした悪戯は、シルフィーがなんとかしてくれると思う。

 しばらくすると、南の地で大轟音が響き渡る。地震も酷いな。

 


「噴火か~!?」


 村民が、騒ぎ立てる。

 この時代の天災は、天界の仕業と思われている。まあ、シルフィーの仕業なのでそうなんだが。


「雲を突き破る炎の円柱っすな……。数千年前のトバ火山くらいっすな~」


 大鮫魚が、棒読みを行っている。圧倒されているらしい。


「あれほどの、威力を出す仙人は……、三大仙人くらいか?」


「三大仙人でも無理じゃないっすか?」


 あれは……、シルフィーなんだよな?

 天界は、シルフィーから宝貝パオペイを取り上げて貰いたいものだ。


「……あれは、宝貝パオペイの出力だよな? 魔法とか言わないよな?」


「……どうですかね~。シルフィーさんですからね~。分からないっすよ~」


 魔力と言うか、術だけであれだけの威力が出せるとしたら……。

 ちょっと怖い想像をした。


「殷は、文字を発明しましたからね~。それに口伝でも伝わって行きそうっすね~。シルフィー伝説の始まりっす」


「……神話の話なのだ。多少の脚色として伝わるかもしれんな」


 この世界の、この時代の物語を書くとなると、シルフィーが最強ポジションで出て来ることになるな。

 それこそ、後世に悪影響が出そうだ。


「キレた天女が、王の補佐を邪魔して来る物語っすか~? 何演技っすか~?」


 う~ん。シルフィー演技? そのまんま過ぎる?

 狂天女演技……。ゴロが悪いな。後世の人に考えて貰おう。


「な、何を言っている。今のシルフィーが邪魔をして来たら、崑崙山と金鰲島が手を組んで、大量の死者を出しながら、新王朝を築く話になるぞ?」


 三大仙人が手を組む……。話的に悪くはないか?

 だが、天界の威厳が損なわれそうだな。


「……シルフィーさんに謝りましょうよ~」


「だから、何をだ?」


 ふぅ~、頭痛の種になってしまったな。

 天界は、シルフィーを監禁しておいて欲しいものだ。


「しかし、怖い天女になったもんだな。あんな炎を生み出すなんて……」


「ず~と、修行してたんですぜ? ヘーキチさん以上かも?」


 ほう? それは、賞賛できる。

 今のシルフィーとなら、宝貝パオペイ抜きでなら、本気の手合わせをしたいな。

 遠くで、連続的な大爆発を起こしている噴火山を見る。


「あれが、世界最強か……。いや、天界一か……」


 あれが、私の追い求めていた姿なのかもしれない。

 まあ、あんな狂気に飲まれた人物にはなりたくないがな。


「はあ~。ミルキーさんをあんなにしておいて、何を考えているんだか~」


 ミルキーは、逸材だったのだ。

 本来の姿を目覚めさせただけだ。深淵まで辿り着ける人材など希なんだぞ?

 シルフィーとは違うんだよ。





 数日後、噴火と地震が収まった。その間私達は、遠くの噴火を眺めていた。

 なんか……、やる気が起きなかったからだ。


「……終わったのかな?」


「来まっせ?」


「どの方向に逃げれば、いいと思う?」


「……天女の羽衣から逃げる術はないっすな~。でも、街中にいれば、攻撃されないかも?」


 天界も、一般人への被害を出さないということか。

 素晴らしい。素晴らしいアイディアだ。


 私は、西岐の一番人の多い場所へ向かった。



「天女だ~、天女が降りて来たぞ~」


 町民が騒ぐ。私はその方向を見た。

 空には、鎖でグルグル巻きにされた天女がいた……。威厳も品格もない。

 護衛として、天界の使者が十人程度ついてもいる。


「悪化してないか? 眼が、凄いことになっているな。あそこまで濁った瞳を持つ者を見たことがない。それと、眼から焔が出ているな」


 深淵の先に進むと、あんな風になるんだろうな~。

 ニーチェよ……、見せてやりたい。怪物がいるぞ。


「……悪化してそうっすね~」


 シルフィーと視線が合う。

 ここで、天界の使者が、鎖を引っ張りシルフィーを連れて行った。


「なんだったのか……」


「ひと目、ヘーキチさんを見たかったんでしょうね~。それが下界を助ける条件だったのかも?」


 本当にそれだけか? 信じられん。


「あと、シルフィーさんの魔力が、凄いことになっていましたね~。あれは、三大仙人でも手に余るでしょうね~。ヘーキチさんでも勝てるかどうか~」


 冷汗しか出ない。


「天界は、何で修行などさせてたんだ?」


「あ~、シルフィーさんが暴れるので、天界の実力者が抑えていたんですよ~。マジの殺し合いっすな~。でも……、それで実力をつけて行っちまって……」


 羨ましい。

 そんなことなら、私も天界に行きたかったな。


「今度、天界へ行く道でも探してみるか……。何処かにはあるんだろう?」


「シルフィーさんに見つかった時点で、灰か塵になりまっせ? いや、一瞬で殺してくれれば、御の字っすな~」


 ふぅ~。思い通りに行かないものだ。修行先としてありだと思ったのだがな。

 私は、天を仰いだ。

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