第42話 西岐

「……いい匂いだ。飯屋があるのだな」


 まだ都まで、10キロメートル先だが、風下だったので気が付いた。とてもいい匂いだ。


「その前に、両替えっすよ? 無銭飲食で捕まるのだけは、避けてくださいね~」


 ふむ……。面倒だな。

 都には入らずに、平地で大鮫魚に降ろして貰う。大鮫魚は、水筒に入った。これで、人目につくこともないだろう。

 そのまま歩いて、関所に向かった。



「通行証を出して見せろ」


 衛兵が、一人一人確認している。治安は、良さそうだ。

 私は、冒険者カードを差し出した。


「冒険者殿! 失礼しました!」


 衛兵が敬礼を行う。

 うむ。訓練されたいい兵隊だ。


「うむ、頑張れ! 君ならば上に行ける!」


「はっ! ありがたき幸せであります!」


 こうして、問題なく関所を通り、西岐に入った。

 トラブルは……、なかったよな? な? 大鮫魚?

 ここで黙るなよ……。



「まず、両替えだが……、レートが酷いことになっているな」


「貨幣価値は、国の信用度でっせ?」


「10:1は、ないんじゃないか?」


「信用度でっせ?」


 ふぅ~、やれやれだぜ。小さくなった巾着袋を懐に仕舞う。

 その後、飯屋に向かう。もちろん肉料理だ。


「羊にするか、熊にするか……。牛や豚も食べたいな~。鳥はあるのかな~」


「食い倒れしたら、いいんじゃないっすか?」


 それもそうだな。持ち金全部使って、回れるだけ回るか。私に、貨幣は不要だ。

 それに、川魚もまだ大量に持っている。売るのもいいだろう。





「すげー食っている人がいたそうだぜ?」


「ああ、聞いた。中央通りの店を梯子して、数日間食い続けたんだろう? 富豪だよな~」


「いや、どんな胃袋だって話だよ!」


 今は、〈隠密〉を発動させて、街中で休んでいる。もちろん、屋根の上だ。

 私の噂話が、都の格好のネタになっているな……。


「やっちまいましたね~。人間離れしたことするから噂が立つんすよ~」


 全資金を使ったのがいけなかったらしい。

 数日間、朝から晩まで食べたのは、少し後悔した。

 美味しかったので、満足はしているが。


「さて……。なにをするかな」


「ま~た、目的を忘れていますね~。ボケて来ましたか?」


 興味がないので、覚えられないだけだ。

 知らないのか? かの有名になるアイン〇ュタインは、最後まで自宅の電話番号を覚えられなかったのだぞ?


 でも、一つ思い出した。


「申公豹は、何をしたんだ……。なんか、滅茶苦茶にしたらしいが」


「そんじゃ、そっから行きますか。南に進んでください~」


 弟弟子の後始末なのだ。尻ぬぐいになるが、こればかりは、私が赴く必要がある。


「つうか、崑崙山はなにしてんだ? あんな、異端者を野放しにしているなんて」


「ただの人選ミスっすよ~。それで、崑崙山を裏切るのが、最終的にこの世界の利益になるんす」


 命数を操る、天界にミスがあるとは思えないのだが……。


「シルフィーさんのこと、忘れていませんか? 命数に従わない、ヘーキチさん自身のことも~」


 ああ、そうだったな。シルフィーのミスがあったな。天界も万能ではないらしい。

 つうか、人の思考を読むな。





「なんだこれは?」


「蠅とか、虻っす。大量発生して、人が住めなくなってやす」


 ふぅ~。ため息しか出ない。


「原因は、なんなのだ?」


「あ~。でっかい妖怪の死骸っすな~。腐敗してやす」


 天界は、なにをしているんだ。シルフィーを派遣すれば、一瞬で片が付くだろうに。いや、崑崙山にも炎を操る仙人はいる。

 それと、私の『打神鞭』では、適さないな。

 私にどうしろと言うのか。


「それと、その腐敗している妖怪を守っている人達がいますよ~」


 なんだと~う……。それだと、天界に逆らっていることになる。

 粛清されないのか?


「特殊な人達でして……。異世界召喚者っす。武装が凄くて結構強いっす」


「なんだと~う?」


 シルフィーと同じか。もしかすると、命数を与えられていないのかもしれない。

 だが、そうなると先が読めないのもある。

 最悪、西方の賢人が介入して来たり、天界の介入もあり得る。

 だが……。


「……排除するか」


「まあ、行ってみましょうや~」


 私に反対意見はない。

 腹も膨れているし、体調も万全だ。

 私は、南に向けて歩を進めた。





 門番……一応、武吉の予定。本当は一番の被害者になる人。今後出るかな?

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