第42話 西岐
「……いい匂いだ。飯屋があるのだな」
まだ都まで、10キロメートル先だが、風下だったので気が付いた。とてもいい匂いだ。
「その前に、両替えっすよ? 無銭飲食で捕まるのだけは、避けてくださいね~」
ふむ……。面倒だな。
都には入らずに、平地で大鮫魚に降ろして貰う。大鮫魚は、水筒に入った。これで、人目につくこともないだろう。
そのまま歩いて、関所に向かった。
「通行証を出して見せろ」
衛兵が、一人一人確認している。治安は、良さそうだ。
私は、冒険者カードを差し出した。
「冒険者殿! 失礼しました!」
衛兵が敬礼を行う。
うむ。訓練されたいい兵隊だ。
「うむ、頑張れ! 君ならば上に行ける!」
「はっ! ありがたき幸せであります!」
こうして、問題なく関所を通り、西岐に入った。
トラブルは……、なかったよな? な? 大鮫魚?
ここで黙るなよ……。
「まず、両替えだが……、レートが酷いことになっているな」
「貨幣価値は、国の信用度でっせ?」
「10:1は、ないんじゃないか?」
「信用度でっせ?」
ふぅ~、やれやれだぜ。小さくなった巾着袋を懐に仕舞う。
その後、飯屋に向かう。もちろん肉料理だ。
「羊にするか、熊にするか……。牛や豚も食べたいな~。鳥はあるのかな~」
「食い倒れしたら、いいんじゃないっすか?」
それもそうだな。持ち金全部使って、回れるだけ回るか。私に、貨幣は不要だ。
それに、川魚もまだ大量に持っている。売るのもいいだろう。
◇
「すげー食っている人がいたそうだぜ?」
「ああ、聞いた。中央通りの店を梯子して、数日間食い続けたんだろう? 富豪だよな~」
「いや、どんな胃袋だって話だよ!」
今は、〈隠密〉を発動させて、街中で休んでいる。もちろん、屋根の上だ。
私の噂話が、都の格好のネタになっているな……。
「やっちまいましたね~。人間離れしたことするから噂が立つんすよ~」
全資金を使ったのがいけなかったらしい。
数日間、朝から晩まで食べたのは、少し後悔した。
美味しかったので、満足はしているが。
「さて……。なにをするかな」
「ま~た、目的を忘れていますね~。ボケて来ましたか?」
興味がないので、覚えられないだけだ。
知らないのか? かの有名になるアイン〇ュタインは、最後まで自宅の電話番号を覚えられなかったのだぞ?
でも、一つ思い出した。
「申公豹は、何をしたんだ……。なんか、滅茶苦茶にしたらしいが」
「そんじゃ、そっから行きますか。南に進んでください~」
弟弟子の後始末なのだ。尻ぬぐいになるが、こればかりは、私が赴く必要がある。
「つうか、崑崙山はなにしてんだ? あんな、異端者を野放しにしているなんて」
「ただの人選ミスっすよ~。それで、崑崙山を裏切るのが、最終的にこの世界の利益になるんす」
命数を操る、天界にミスがあるとは思えないのだが……。
「シルフィーさんのこと、忘れていませんか? 命数に従わない、ヘーキチさん自身のことも~」
ああ、そうだったな。シルフィーのミスがあったな。天界も万能ではないらしい。
つうか、人の思考を読むな。
◇
「なんだこれは?」
「蠅とか、虻っす。大量発生して、人が住めなくなってやす」
ふぅ~。ため息しか出ない。
「原因は、なんなのだ?」
「あ~。でっかい妖怪の死骸っすな~。腐敗してやす」
天界は、なにをしているんだ。シルフィーを派遣すれば、一瞬で片が付くだろうに。いや、崑崙山にも炎を操る仙人はいる。
それと、私の『打神鞭』では、適さないな。
私にどうしろと言うのか。
「それと、その腐敗している妖怪を守っている人達がいますよ~」
なんだと~う……。それだと、天界に逆らっていることになる。
粛清されないのか?
「特殊な人達でして……。異世界召喚者っす。武装が凄くて結構強いっす」
「なんだと~う?」
シルフィーと同じか。もしかすると、命数を与えられていないのかもしれない。
だが、そうなると先が読めないのもある。
最悪、西方の賢人が介入して来たり、天界の介入もあり得る。
だが……。
「……排除するか」
「まあ、行ってみましょうや~」
私に反対意見はない。
腹も膨れているし、体調も万全だ。
私は、南に向けて歩を進めた。
◇
門番……一応、武吉の予定。本当は一番の被害者になる人。今後出るかな?
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