第41話 弟弟子
一ヵ月が過ぎた。
殷は復興して来た。住民が戻って来たのだ。
良く分らないが、殷の太師は、米を収穫していた。栽培方法を知っていたのか?
もしくは、植物系妖怪というのは、優秀なのだな。穀物の収穫など、普通は数ヵ月かかるものなのに……。
食料は、とりあえず配給が間に合うそうだ。
私は、釣りの技術や狩りの基本を教えた。
この都には、猟師が大分増えたな。だが、ミルキーほどの逸材には終に出会えなかった。
「さて、次はなにをするか……」
「待て! 貴様が、ヘーキチだな!」
後ろを振り向く。
武装した兵士達がいた。
「太師からの依頼ではないな……。私に、なにか用か?」
「貴様に徴兵令が出ている! 一緒に来い!」
「なんだと~う?」
その後、兵士達をボコって殷の太師に会いに行く事にした。
◇
殷の太師は、ボコられた兵士千人をみて、倒れてしまった。連れてくるのも大変だったんだぞ?
その後、頭を抱え座りながら、話し始めた。
「ふ~。すまない。徴兵令は、取り消すように言っておく」
「こんな状態で、戦争をしているのか?」
「ああ、何処も内乱状態だ……」
ダメだな。根本から変えなくては……。
「やっと気が付いたんっすか?」
大鮫魚が、呆れた声で突っ込みを入れて来た。
「政治は何処で行っている? ちょっと、懲らしめてやろう」
「それだけは、勘弁してくれ」
話を聞くと、王が仙女に誑かされており、政治がまともに機能していないらしい。
そして、妖怪仙人が暗躍しているのだとか。
「以前、話しましたよ?」
大鮫魚からの突っ込みだった。
そうだったかな? 聞いたかもしれない。
え~と、王妃と紂王だったか?
「冒険者ヘーキチ殿……。君は西に向かってくれ」
「なんだと~う? もしかして、私に戦場に行けと言うのか?」
「……西は栄えているらしい。援助を頼んで来て貰いたい」
「むむ……」
このまま行くと、師匠の思惑に乗ることになる。
「そろそろ、我がままを止めましょうよ~」
そう言ってもだな。破門されてまで、従う理由などない。
「密偵を送ったのだが、申公豹と言う者が、追放されて報復しているのだそうだ。それを鎮めて貰いたい」
あの……、弟弟子。なにしてんだか。
「分かった。行って来よう」
「うむ、頼んだぞ。事が済んだら上太夫にしよう。手伝ってくれ」
役職は要らないんだがな。
「それよりも腕試しがしたい。金鰲島の仙人を紹介してくれ」
「……無理だ。それも勘弁してくれ」
◇
大鮫魚は、飛べるようになっていた。
私が釣りをしている間に、天界の使者が来たのだそうだ。
そして、私が復興に集中している間に、飛行の訓練を行っていたのだとか。
「……結構速いのだな」
「へへ。乗り心地はどうでやす?」
「うむ。とても良いぞ。待ったかいがあったというものだ」
大鮫魚は嬉しそうだ。私も嬉しい。念願だった、騎獣をついに手に入れたのだ。
下界を見る。
「関所が多くあるな。その先のあの都か?」
「そうっす。あれが、西岐っす」
「止まれ!」
ここで、不意に声をかけられた。
まあ、〈索敵〉にかかっていたので、気がついてはいたのだが。
「……申公豹。久々だな」
「ヘーキチ。邪魔はさせんぞ!」
こいつもなにを考えているのか。
霊力を開放する。
申公豹の顔が真っ青になった。
「まず、兄弟子に敬意を払え。それと、私に命令して来たな?」
序列と実力差を、再度教え込まなければならなさそうだ。
申公豹が、玉を取り出した。
私も、鞭を抜く。
「なっ!? ヘーキチが、
「ふっ、聞いていなかったのだな。まあ、
この弟弟子は、できが悪い。崑崙山の道士の中でも下から数えて何番目だ。
後世になるが、脚色でこいつが仙人界最強になる物語もある。最強の
だが、実際はこんなもんだ。
私は、『打神鞭』を振るった。
「雲が切れてまっせ?」
ふっ、威力も十分だな。
目の前の申公豹は、髪が切れていた。避けたのは、褒めてやろう。
申公豹は去って行った。方角が西じゃなかったので、見逃すことにしたのだ。
「後々、面倒っすよ? 援軍を連れて来まっせ?」
あんな奴に、そんな人望があるとは思えないのだがな。
まあ、その時はその時だ。
「さて、時間の無駄だったな。西岐に行こうか」
「へ~い」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます