第41話 弟弟子

 一ヵ月が過ぎた。

 殷は復興して来た。住民が戻って来たのだ。

 良く分らないが、殷の太師は、米を収穫していた。栽培方法を知っていたのか?

 もしくは、植物系妖怪というのは、優秀なのだな。穀物の収穫など、普通は数ヵ月かかるものなのに……。


 食料は、とりあえず配給が間に合うそうだ。

 私は、釣りの技術や狩りの基本を教えた。

 この都には、猟師が大分増えたな。だが、ミルキーほどの逸材には終に出会えなかった。


「さて、次はなにをするか……」


「待て! 貴様が、ヘーキチだな!」


 後ろを振り向く。

 武装した兵士達がいた。


「太師からの依頼ではないな……。私に、なにか用か?」


「貴様に徴兵令が出ている! 一緒に来い!」


「なんだと~う?」


 その後、兵士達をボコって殷の太師に会いに行く事にした。





 殷の太師は、ボコられた兵士千人をみて、倒れてしまった。連れてくるのも大変だったんだぞ?

 その後、頭を抱え座りながら、話し始めた。


「ふ~。すまない。徴兵令は、取り消すように言っておく」


「こんな状態で、戦争をしているのか?」


「ああ、何処も内乱状態だ……」


 ダメだな。根本から変えなくては……。


「やっと気が付いたんっすか?」


 大鮫魚が、呆れた声で突っ込みを入れて来た。


「政治は何処で行っている? ちょっと、懲らしめてやろう」


「それだけは、勘弁してくれ」


 話を聞くと、王が仙女に誑かされており、政治がまともに機能していないらしい。

 そして、妖怪仙人が暗躍しているのだとか。


「以前、話しましたよ?」


 大鮫魚からの突っ込みだった。

 そうだったかな? 聞いたかもしれない。

 え~と、王妃と紂王だったか?


「冒険者ヘーキチ殿……。君は西に向かってくれ」


「なんだと~う? もしかして、私に戦場に行けと言うのか?」


「……西は栄えているらしい。援助を頼んで来て貰いたい」


「むむ……」


 このまま行くと、師匠の思惑に乗ることになる。


「そろそろ、我がままを止めましょうよ~」


 そう言ってもだな。破門されてまで、従う理由などない。


「密偵を送ったのだが、申公豹と言う者が、追放されて報復しているのだそうだ。それを鎮めて貰いたい」


 あの……、弟弟子。なにしてんだか。


「分かった。行って来よう」


「うむ、頼んだぞ。事が済んだら上太夫にしよう。手伝ってくれ」


 役職は要らないんだがな。


「それよりも腕試しがしたい。金鰲島の仙人を紹介してくれ」


「……無理だ。それも勘弁してくれ」





 大鮫魚は、飛べるようになっていた。

 私が釣りをしている間に、天界の使者が来たのだそうだ。

 そして、私が復興に集中している間に、飛行の訓練を行っていたのだとか。


「……結構速いのだな」


「へへ。乗り心地はどうでやす?」


「うむ。とても良いぞ。待ったかいがあったというものだ」


 大鮫魚は嬉しそうだ。私も嬉しい。念願だった、騎獣をついに手に入れたのだ。

 下界を見る。


「関所が多くあるな。その先のあの都か?」


「そうっす。あれが、西岐っす」


「止まれ!」


 ここで、不意に声をかけられた。

 まあ、〈索敵〉にかかっていたので、気がついてはいたのだが。


「……申公豹。久々だな」


「ヘーキチ。邪魔はさせんぞ!」


 こいつもなにを考えているのか。

 霊力を開放する。

 申公豹の顔が真っ青になった。


「まず、兄弟子に敬意を払え。それと、私に命令して来たな?」


 序列と実力差を、再度教え込まなければならなさそうだ。

 申公豹が、玉を取り出した。

 私も、鞭を抜く。


「なっ!? ヘーキチが、宝貝パオペイだと?」


「ふっ、聞いていなかったのだな。まあ、宝貝パオペイがあろうがなかろうが、実力差は変わらん」


 この弟弟子は、できが悪い。崑崙山の道士の中でも下から数えて何番目だ。

 宝貝パオペイは、『開天珠』だ。初心者向けの宝貝パオペイだな。

 後世になるが、脚色でこいつが仙人界最強になる物語もある。最強の宝貝パオペイと騎獣を手に入れて。

 だが、実際はこんなもんだ。


 私は、『打神鞭』を振るった。


「雲が切れてまっせ?」


 ふっ、威力も十分だな。

 目の前の申公豹は、髪が切れていた。避けたのは、褒めてやろう。



 申公豹は去って行った。方角が西じゃなかったので、見逃すことにしたのだ。


「後々、面倒っすよ? 援軍を連れて来まっせ?」


 あんな奴に、そんな人望があるとは思えないのだがな。

 まあ、その時はその時だ。


「さて、時間の無駄だったな。西岐に行こうか」


「へ~い」

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