第39話 復興1

 人の街に寄る。

 そこで、川魚を売り払い、資金に変えて行く。

 一ヵ所の街で売るのは、百匹までとする。値下がりしたら、誰も得しない。それくらいの知恵は、私でも持っているつもりだ。


「結構高値で売れるのだな……」


「東の方の珍しい魚でっせ? 大きいし、食料不足だし、そりゃ高値がつきますって。それと、インフレーションで貨幣価値が下がってますからね~。貨幣を持っても、なにも買えませんぜ?」


 ふむ……。

 予定を変更して、数百の街を通ることにする。

 何処の街も、涙を流して買ってくれたのが印象的だったな。

 朝歌に着く頃には、大金持ちになっていた。


「家買って、悠々自適に暮らせるな……。公共事業ならば、貨幣での交換を断らないだろうし」


「なんつう思考をしてるんっすか?」


 そう言えば、なんで朝歌に来たんだっけ……。最近、物忘れが激しい。なんかこう、欲望が邪魔をして来ている気がする。


「え~と、とりあえず、食事をしようか……」


「あ~、飲食店とかないっすよ~?」


「なんだと~う? 都なのだろう? どういうことだ?」


「だから~。政治が滅茶苦茶で、住民が逃げちゃったんっすよ~」


 そうだったのか。

 川魚は売らずに、ここで、炊き出しを行うべきだったか。

 その後、行政を行っている建物に向かう。

 冒険者カードを見せると、殷の太師と面会になった。


「久々だな。太師殿」


「おお! 冒険者殿!!」


 固い握手をする。

 話を聞く。まず、なにより、食料不足なのだそうだ。


「分かった、私に任せろ。肉を調達して来る」


「穀物を買って来てくれないのか?」


「南の国で、米を頂いたが、栽培方法が分からん。それよりも、私には害獣駆除や魚釣りの方が合っている。食料調達なら、任せておけ」


「米を持っているのか? 分けてくれないだろうか? 植物系妖怪と伝手がある!」


 話が噛みあっていない様で、噛みあっている?

 まあ、いいか……。米を半分、太師に渡す。

 太師は、感謝してくれた。


「さて、働くか……」


 ボキボキと、全身の骨を鳴らした。


「話を聞いていませんでしたね~。殷を復興させてどうすんすか?」


「困っている人達がいる。助けない理由などない。途中で施した川魚を食べて、生き残れる者達もいるだろうしな」


「……あれは、施しだったんっすか?」





 まず、川で魚釣りだ。

 近くに大きな川があって助かった。黄河か渭水だな。


「ふっ。腕の見せ所だな。特訓の成果を他人に見せる時が来た!」


「拳で水面を叩けば……。いや、もう突っ込みませんぜ……」


 次々に釣り上げて行く。もう、私の腕であれば、餌なしでも釣れるのだ。

 その様子を、近隣の住民が遠巻きに見ている。


「焼け! そして、食べろ!」


 それだけ言うと、バーベキューが始まった。

 魚だけではない、農民たちが少ない食材を持ち合い、料理に変えて行く。


「うむ。素晴らしい光景だな。人は支え合って生きて行く生物なのだ」


「……そうっすな(棒読み)」


 何千匹釣ったのかも分からないが、私の〈索敵〉に魚が引っかからなくなった。

 後ろを振り返る。


「ここはもう大丈夫だな。場所を移動するか」


「生態系を崩すほど釣ってどうすんっすか? これ、戻んのかな~?」


 なにを言っているのか。

 こんなに幅の広い川なのだ。数日で元に戻るだろう。


 次に私は、山に入った。そして、釣り竿を振った。


「何で釣り針に野草が、かかっているんすか? それも一振りで山のような野草がかかってるし……」


 ふっ……。今の私ならミクロン単位で釣り針を操作できる。そして、〈望遠〉を発動させれば、一振りで山一つ分の野草を釣り上げることが可能なのだ。野草は、農民たちが奪い合って行く。


「さあ、次の山に行くぞ」


「……数株は、残してくださいよ~。森が死んじまいやす」


 森に背を向けた時だった。それが、襲いかかって来た。まあ、〈索敵〉を持つ私に不意打ちは効かない。攻撃を躱して、カウンターを合わせる。


「ふうおぉ~~~~~!」


 私の右ストレートが、熊の顔に入った。

 だが熊の、反撃が襲って来る。それを躱し、左ショートアッパーで迎撃する。

 顎にいい一撃が入った。

 熊の脳が揺れて、倒れる。その後、首を折った。


「ふう~。なかなかに強敵だったな」


「野生動物が、可哀相に思えて来やすね~」


 何を言っているのか。

 私は、宝貝パオペイを使わずに、素手で戦ったのだ。この熊も納得しているだろう。

 しかし、この国は熊が多いな。繁殖しているのか?

 熊を背負って、河原まで進むと、村民が驚いていた。


「焼け! そして、食べろ!」


 熊の解体が始まる。

 その後、猪や蛇といった害獣を駆除して、食料に変えた。もちろん、釣り竿を振り、釣り針で引っかけて引き寄せる方法だ。

 害獣は、農民たちが棍棒や石で始末して行く。


「うむ。共同作業は、楽しいな」


「何で釣り竿に肉がかかるんっすかね~。それと、ヘーキチさんなら素手で駆除した方が速いんじゃないんっすか~?」


 大鮫魚の独り言は、無視する。


「この都からすると、全然足りないが、確かな一歩だな」


 泣きながら食べている農民たちを見て、私は決意を新たにした。


「よし! 殷を復興させよう!」


「話、聞いとりました?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る