第37話 迷走3

「釣れた。釣れたぞ……」


 三百日かかったが、ついに釣れた。


「小っちゃいっすな~」


 〈収納〉より新しい水筒を出す。その中で飼うことに決めた。腹を上にして浮かんでいるが、そのうち意識を取り戻すだろう。


「ふう~。それで、なにしていたんだっけ……」


 記憶が曖昧だ。もう一年になる。一年前はなにがあったのか……。


「ミルキーさんと別れましたね~」


「そうだったな。そういえば、ミルキーは元気だろうか……」


 一年も過ぎたのだ、別人になっていそうだな。

 あの成長速度なら、今頃仙人を名乗っていてもおかしくはない。


「さて……。釣りの技術も習得した。この後、どうしようか……」


「……」


 何時もなら、ここで大鮫魚が、突っ込みを入れて来るが、何も言って来ない。


「まだ、普通の人以下の腕前っすね……」


「なんだと~う!!?」





 私は、研究と特訓を続けた。

 まず、カーボンファイバー製の釣り竿を開発し、ナイロンの糸、川魚用の釣り針を自作した。

 これだけで、三年かけたほどだ。

 もう、これ以上はないと思えた。


 そして、一日23時間の特訓だ。

 睡眠は数秒だが、食事と運動の時間だけは、流石に削れない。


 そして、更に一年が経過した……。



 ――ピチャン


「今日は、これで、千匹目。ノルマ達成だな」


「……ヘーキチさん。釣り過ぎでっせ」


 ふぅ~。……私もそう思う。

 私の〈収納〉の中は、川魚で溢れている。数十万匹といったところか。

 まあ、術の〈収納〉の中であれば、時間停止機能がある。腐りはしないので、何処かの街で売り払おう。


「さて、釣りの特訓も終わりにするか」


「ようやく、再始動っすね~。それと、その釣り道具のオーパーツは失くさないでくださいよ~。他人に拾われたら、後世に悪影響が出ますからね~」


 大鮫魚……。お前が言い出したのだぞ?

 しかし、オーパーツと来たものか。『場違いな工芸品』……。カーボンファイバーとナイロン……。そのままんまだな。落とさない様に気をつけよう。


「え~と、何してたんだっけ?」


「ミルキーさんと別れてから、釣りっすね~」


 う~む。

 昔を思い出す。師匠に破門されて、下界で腕試ししてたんだよな。

 シルフィーと出会い、すぐに分れた。

 そして、宝貝パオペイを貰った。『打神鞭』と『杏黄旗』だ。

 騎獣は、大鮫魚がいる。

 そして、釣りの技術を習得した……?


「あれ……? することがない?」


「腕試しって言ってましたよ?」


 う~む。

 そうだった、金鰲島に乗り込もうとしていたんだった。


「むっ?」


 ここで、私の〈索敵〉になにかが引っかかった。


「飛んでいる……。そして、私に向かって来ているな……」





 その人物が、降りて来た。


「ヘーキチだな。一緒に来て貰おう」


「誰だ? 名を名乗れ」


「哪吒だ。李哪吒。崑崙山の道士だ」


 仙人界が、今頃なに用だ?

 話を聞こうと思ったら、武器を抜いて来た。

 銅の輪……、『乾坤圏』か……。



「「うお~~~~!」」


 私は、拳で応戦する。

 結構強いな。こんな奴もいたのか……。しかし、宝貝パオペイを一般人に使うとは、道士としてどうなのだ?


「ヘーキチさんは、一般人に入らないっすよ~」


 大鮫魚は、無視する。

 今は、手一杯だ。

 一瞬気を取られたら、蹴りが舞って来た。足を掴んで、振り回す。哪吒は、少し飛ばされて、山に激突した。

 山体崩壊が起きる……。

 だけと、すぐに飛んで戻って来た。

 そして、また殴り合いだ。もう、大体分かって来たかな。動きが直線的過ぎる。


「まだまだ、修行が足りんぞ!」


 私の右フックが哪吒の顔面に入った。クロスカウンターだ。

 吹き飛ばされて行く、崑崙山の道士。

 地面を削りながら、転がって行く。


 だが、乾坤圏を投げて来た。

 複雑な軌道をとり、私に向かって来る。

 私は、精神を研ぎ澄ませた。


 ――パシン


「真剣白刃取りだ……」


 もはや、釣りの技術を習得した私に、見切れないものなどない!


「何時の時代の技だよ!?」


 哪吒と名乗った崑崙の道士からの突っ込みだった。

 ここで、宝貝パオペイに霊力を吸われていることに気が付く。このままでは、数秒でミイラだ。

 すぐさま、〈収納〉へ放り込んだ。

 この触れていた時間は、0.01秒以下だ。私以外には不可能だろう。


「はあはぁ。危なかった。だが、これで貴様は武器を失った……」


「返せ!」


 返すかボケ~! 金鰲島にでも売り払ってやる。

 つうか、覚悟しろよ。

 これから一方的にボコってやるからな!


 私は、ファイティングポーズをとった。『打神鞭』を使うまでもない相手だ。

 哪吒は、萎縮している。つうか、飛んでないで降りて来い!


「そこまでにしてください」


 む? もう一人来たようだ。

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