第35話 迷走1
最終的に、ミルキーは西方に旅立った。
同族が生き残っており、そこで暮らした方がいいらしい。
確かにそうだ。
こればかりは、私も否定できなかった。
「ヘーキチさん。お世話になったのニャ……」
「修行は続けろ。ミルキーなら仙人を超えられる。そして、強くなったら私と戦おう」
「それを止めさせるために、西方に連れて行くのだが?」
誰がボケで突っ込みかも分からない会話を挨拶として、ミルキーとの別れとした。
空は……、晴れていた。
「良かったんですか~?」
「うむ……。心残りがないと言えば嘘になる。ミルキーを鍛え上げて、仙人をも倒せる逸材にする。そして、東の国……、殷の上太夫にするという計画だったのだが……。殷の太師に申し訳ない事をした」
「いやいや。計画だけで、約束もしてへんやろ」
そう言えば、そうだったな。
私の頭の中だけで考えていた、輝かしい未来の話だった。
「ミルキーの真の姿……。見てみたかったな」
「本当に、自分勝手なお人ですな~」
自分勝手? 私ほど、協調性のある人間に出会ったことなどないのだが……。
切り株に腰かける。
「目的がなくなってしまったな……」
後は、この世界の最強と戦ってみたい。
シルフィーは除く。あんな、狂気にまみれた人物と手合わせなどしたくない。
「西の国……、"西岐"に行ってみませんか? 将来の"商"の国っす」
大鮫魚が、私の選択肢の中で、唯一ない道のりを示して来た。
「クソ師匠が行けと言っていた国か……。目的は……、忘れてしまったな」
「『とある人物を助けるのじゃ』だったのでは?」
何故、知っているのだ?
まあいい。突っ込まない。
「行きたくないな~」
「本音、駄々洩れっすな~」
その日は、精神的に疲れてしまったので、テントを張って休むことにした。
マイクロスリープは、急ぎの時以外使わない。体内時計を整える意味もある。
やることもないのだ。普通に寝よう。
◇
朝日と共に起きる。
近くの川で、行水を行い目を覚ます。
「朝食も獲るか……」
拳を水面に撃つ。衝撃波が水面を伝わって行く……。
魚が、腹を上にして浮かび上がって来た。
それを集めて、川を上がる。
焚火を用意して、魚を焼き朝食だ。
「もぐもぐ……」
「決心できないようっすね~」
だから、思考を読むなよ。
「大鮫魚も喰うか?」
「……貰いまひょか」
大鮫魚が、水筒から出て来た。元の姿……、大きくなる。
その口に、川魚を入れてあげた。
「美味いっすけど、獲りすぎでっせ?」
「100匹程度だ。環境破壊にもならんさ……」
「"釣り"を覚えましょうよ~」
あれか……。竹に針と糸をつけて、魚を獲る漁法だ。
「漁獲高は、見込めないと思うが……」
「考えが纏まらないんでしょう? 精神統一の意味でもやってみたらいいじゃないっすか~」
精神統一ねぇ……。
◇
まず、竹を探す。だが、見当たらない。
「なあ、大鮫魚。木材でもいいか?」
「しなりがないと、餌に喰いついたかどうか分からないでっせ?」
う~む。
思案の末、私は〈風遁〉を発動させて、ジャンプした。
雲の上より地上を見下ろす……。
「東に竹林があるな」
自由落下に身を委ねつつ、東方に降りて行く。竹林に降りて、竹を一本切り取った。
「釣り竿はこれでいいか」
「まあ、大きすぎますけど、いいしょ。次は糸っすな~」
「麻紐ではダメなのか?」
「まあ、物は試しと言うことで。最後に針っすな」
私は、〈収納〉より針を取り出した。
「これでいいか?」
「ダメっす。真っすぐじゃないですか~。曲げ加工と"返し"を作らないと~」
大鮫魚に教わりながら、針を加工する。
特に、"返し"と言う加工だ。銅の針の先端を潰してみたのだが、強度がなく折れてしまった。
何度か、銅を溶かして、再加工する。ちなみに加熱は、摩擦熱のみだ。
まったく、道具がないと面倒な作業だな。
「加工はそれくらいでいいしょ。そんじゃ、釣ってみましょうや~」
やっとか、準備に一日かけてしまった。
針を、川に垂らす。
一時間、二時間、四時間、八時間……。日暮れだ……。
「なあ、大鮫魚。釣れないのだが?」
「下手っすね~。餌でも針につけてみたらいいんじゃないっすか~?」
そんな方法があるのか。
もう日暮れだが、〈暗視〉のある私には関係がない。
昨日は寝たのだし、まだまだ動ける。
「餌はなにがいい?」
「初心者にはミミズっすね~」
私は、地面を掘り返して、ミミズを捕まえた。
針に差して、再度釣りを行う。
「必ず釣り上げる。それまでは休まんぞ!」
「その意気っす!」
◇
釣りの下手な、ヘーキチ(太公望)です……。
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