第35話 迷走1

 最終的に、ミルキーは西方に旅立った。

 同族が生き残っており、そこで暮らした方がいいらしい。

 確かにそうだ。

 こればかりは、私も否定できなかった。


「ヘーキチさん。お世話になったのニャ……」


「修行は続けろ。ミルキーなら仙人を超えられる。そして、強くなったら私と戦おう」


「それを止めさせるために、西方に連れて行くのだが?」


 誰がボケで突っ込みかも分からない会話を挨拶として、ミルキーとの別れとした。

 空は……、晴れていた。


「良かったんですか~?」


「うむ……。心残りがないと言えば嘘になる。ミルキーを鍛え上げて、仙人をも倒せる逸材にする。そして、東の国……、殷の上太夫にするという計画だったのだが……。殷の太師に申し訳ない事をした」


「いやいや。計画だけで、約束もしてへんやろ」


 そう言えば、そうだったな。

 私の頭の中だけで考えていた、輝かしい未来の話だった。


「ミルキーの真の姿……。見てみたかったな」


「本当に、自分勝手なお人ですな~」


 自分勝手? 私ほど、協調性のある人間に出会ったことなどないのだが……。

 切り株に腰かける。


「目的がなくなってしまったな……」


 宝貝パオペイを得た。大鮫魚というバディーもいる。

 後は、この世界の最強と戦ってみたい。

 シルフィーは除く。あんな、狂気にまみれた人物と手合わせなどしたくない。


「西の国……、"西岐"に行ってみませんか? 将来の"商"の国っす」


 大鮫魚が、私の選択肢の中で、唯一ない道のりを示して来た。


「クソ師匠が行けと言っていた国か……。目的は……、忘れてしまったな」


「『とある人物を助けるのじゃ』だったのでは?」


 何故、知っているのだ?

 まあいい。突っ込まない。


「行きたくないな~」


「本音、駄々洩れっすな~」


 その日は、精神的に疲れてしまったので、テントを張って休むことにした。

 マイクロスリープは、急ぎの時以外使わない。体内時計を整える意味もある。

 やることもないのだ。普通に寝よう。





 朝日と共に起きる。

 近くの川で、行水を行い目を覚ます。


「朝食も獲るか……」


 拳を水面に撃つ。衝撃波が水面を伝わって行く……。

 魚が、腹を上にして浮かび上がって来た。

 それを集めて、川を上がる。


 焚火を用意して、魚を焼き朝食だ。


「もぐもぐ……」


「決心できないようっすね~」


 だから、思考を読むなよ。


「大鮫魚も喰うか?」


「……貰いまひょか」


 大鮫魚が、水筒から出て来た。元の姿……、大きくなる。

 その口に、川魚を入れてあげた。


「美味いっすけど、獲りすぎでっせ?」


「100匹程度だ。環境破壊にもならんさ……」


「"釣り"を覚えましょうよ~」


 あれか……。竹に針と糸をつけて、魚を獲る漁法だ。


「漁獲高は、見込めないと思うが……」


「考えが纏まらないんでしょう? 精神統一の意味でもやってみたらいいじゃないっすか~」


 精神統一ねぇ……。





 まず、竹を探す。だが、見当たらない。


「なあ、大鮫魚。木材でもいいか?」


「しなりがないと、餌に喰いついたかどうか分からないでっせ?」


 う~む。

 思案の末、私は〈風遁〉を発動させて、ジャンプした。

 雲の上より地上を見下ろす……。


「東に竹林があるな」


 自由落下に身を委ねつつ、東方に降りて行く。竹林に降りて、竹を一本切り取った。


「釣り竿はこれでいいか」


「まあ、大きすぎますけど、いいしょ。次は糸っすな~」


「麻紐ではダメなのか?」


「まあ、物は試しと言うことで。最後に針っすな」


 私は、〈収納〉より針を取り出した。


「これでいいか?」


「ダメっす。真っすぐじゃないですか~。曲げ加工と"返し"を作らないと~」


 大鮫魚に教わりながら、針を加工する。

 特に、"返し"と言う加工だ。銅の針の先端を潰してみたのだが、強度がなく折れてしまった。

 何度か、銅を溶かして、再加工する。ちなみに加熱は、摩擦熱のみだ。

 まったく、道具がないと面倒な作業だな。


「加工はそれくらいでいいしょ。そんじゃ、釣ってみましょうや~」


 やっとか、準備に一日かけてしまった。

 針を、川に垂らす。

 一時間、二時間、四時間、八時間……。日暮れだ……。


「なあ、大鮫魚。釣れないのだが?」


「下手っすね~。餌でも針につけてみたらいいんじゃないっすか~?」


 そんな方法があるのか。

 もう日暮れだが、〈暗視〉のある私には関係がない。

 昨日は寝たのだし、まだまだ動ける。


「餌はなにがいい?」


「初心者にはミミズっすね~」


 私は、地面を掘り返して、ミミズを捕まえた。

 針に差して、再度釣りを行う。


「必ず釣り上げる。それまでは休まんぞ!」


「その意気っす!」





 釣りの下手な、ヘーキチ(太公望)です……。

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