第34話 ミルキー5

「ふっ、ふ~ん」


 ミルキーが、嬉しそうに『劈面雷へきめんらい』でお手玉をする。

 それは、手榴弾だと分かっているのだろうか? それと、霊力により起動するのだが、爆発させるなよ?


「数が減らない不思議な火薬玉なのニャ~。嬉しいのニャ~」


 ミルキーは、"火薬"を知っているのか? 発明されるのは、三千年後くらいなのだがな。誰の入れ知恵なのか……。

 もしかして、蚩尤か? あいつ、銃とか大砲も作っていた?


「は~。最近は、未来の情報が駄々洩れっすね~」


「そうなのか?」


「仙人界が、緩み切ってまっせ。天界も混乱中ですし、この先どうなるか……」


 ふむ……。危ない傾向だな。あのクソ師匠はなにをしているのか。


「やはり、金鰲島に行くか……。風紀の粛清を行わなければ」


「いやいや、さらに世界を混乱させてどうするんすか? ここまで案内しておいてなんですが、やっぱ止めましょうよ~。大乱闘する未来しか見えないっす」


 失礼な……。

 まるで、私が混乱を引き起こしているような言い方だな。

 こんな、人畜無害な人間になにを言っているのか。


「大鮫魚は、金鰲島に行くのは反対なのだな。ならば、蓬莱島はどうだ?」


 それならば、目的地変更だ。


「今の蓬莱島は、何もありませんぜ? 人が小さな集落で暮らしているに過ぎやせん。ヘーキチさんの求める相手は、いない事だけは、確かっす。ミルキーさんの相手も……、いないっすね~。それと一応言っておきますが、不老不死の霊薬もないっす。それだけは、断言します」


 う~む……。知見を広げたいと思ったが、どうにも方向が定まらない。

 今、金鰲島に乗り込んで腕試ししてもいいのだが、ミルキーもいる。背中を預けるには、少し頼りない。

 それに私の場合は、大乱闘になりかねない……、とも思う。それを大鮫魚は望まないらしい。

 これは、天界の意思とも取れる。最近分かって来た。

 それと、不老不死の霊薬か……。なんか、ありそうな気がするな~。見つけると、下界が更に混乱するんだろうな~。


「ふぅ~。やはり、南の国に行くか」


「……。今更っすか?」


 そんな時だった。

 私の〈索敵〉に引っかかった。


「……仙人が向かって来ているな。誰だ?」





 仙人が、私達の前に降り立った。私は、ミルキーを庇う位置に立つ。

 まだミルキーには、仙人との本格的な戦闘は早過ぎると思うからだ。


「私は、準提道人じゅんていどうじんという者だ。そちらも娘……、ミルキー殿に話がある」


「ニャ? ワタシですかニャ?」


 また西方の賢人か……。仙人界で修行している時に何度か会ったことがある。

 たまに来て、『縁がある』と言って、引き抜きを行う仙人達だ。

 そうなると……。


「ミルキーを西方に連れて行くのか?」


「話が早くて助かる。その娘を南に行かせるのだけは、止めてくれ。それならば、旅を続けてもいい」


「何故、今なのだ? 蚩尤の隠れ里にいる時でも良かったはずだ」


「いや……、南だけは止めてくれと言っているのだが?」


 何故、命令を受けなければならないのか。

 こうなると、ミルキーを南の国に連れて行きたくなる。

 いや、これはフラグか? フラグなのか?


「ヘーキチさん。思考が危ない方向に行ってまっせ……」


 う……。大鮫魚からの的確な突っ込みが来た。


「これ以上、この世界に混乱をもたらさないでくれ! 未来の予定が、滅茶苦茶なのだ!」


 目の前の、準提道人を見る。

 首を傾げてしまう……。私が混乱を起こしている?

 なんかしたか?


「その、無自覚なところが、怖いっすな~」


 う~む……。分からん。


「ワ、ワタシは、ヘーキチさんと添い遂げたいと思います!」


 ミルキーの強い主張。おいおい、シルフィーと同じことを言い出したぞ。

 そして、私の腕に抱き着いて来た。

 私は、ミルキーの修行がついたら、殷の太師に預けたいと思っていたのだがな。

 それと、私は独り身でいたいのだが。


 ――ゴロゴロ


 空を見る。雷が鳴っているな。

 さっきまで晴れていたというのに、いきなり雨雲ができて来た。パラパラと雨が降り出して来たほどだ。


「……天界も荒れているみたいっすね~」


 天界? シルフィーか? 危ない宝貝パオペイを持たせるからそうなる。


「ヘーキチさん……。そのうち刺されまっせ……」


 ふぅ~。大鮫魚が訳の分からないことを言い出した。

 それと、思考を読むのをそろそろ止めろ。


「ミルキーの修行を続けたいと思う。だが、分った、南の国には行かない。そして、修行がついたら、殷の太師に預ける。これでどうだ? 全ての間をとってみたのだが……」


「却下!」「余計に混乱が広がる!」「本音言うと、西の故郷に帰りたいのニャ……。ヘーキチさんも来て欲しいニャ」


 う~む。どうしろと言うのか……。

 反対ではなく、案を出せ。

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