第33話 ミルキー4

 ミルキーは、かなり順調に成長していた。

 妖孽ようげつを覚えて、人と変わらない姿にも変化へんげできたほどだ。

 もう道士を名乗ってもいいだろう。

 この成長を、シルフィーにも見せてやりたい。

 後は、宝貝パオペイだな。シルフィーに『火竜鏢』を持って行かれたのが、悔やまれる。

 あんなに持っていたのだ。一つくらい分けて欲しいものだ。

 ちなみに、『雨琵琶』は、シルフィーと共に天界が持って行った。


「ヘーキチさん。危ない思考をしている顔でっせ?」


 む? 無表情と言われた私だが、大鮫魚には分るのか……。


「ミルキー用の、宝貝パオペイが欲しいと思ってな。たまに、粗悪品と思われる宝貝パオペイもあったが、壊してしまったのが悔やまれる。まあ……、惜しくはないが」


「……相性もあるんでっせ? 奪って使うのは止めましょうよ~」


 ふむ……。思考を読まれて来たな。


「土系統の宝貝パオペイ……。カモがネギをしょって来ないモノだろうか」


「都合良すぎでっせ?」


 まあ、そのうち機会もあるだろう。

 私達は、東に向かい、金鰲島を目指した。





「妖怪仙人に出くわさないな。希望としては、仙人か道士と手合わせしたかったのだが」


「あ~。今は東の国に集まっていますね~。殷という国っす。洞府に行くか、殷の太師みたいに下界と関わっている仙人じゃないと、いませんぜ? こっからだと、方角は西っすな」


 そうなのか? 逆方向に向かっている?


「金鰲島に、殴り込みをかけるか……」


「ちょっと待って欲しいのニャ。そこまでして、宝貝パオペイは欲しくニャいニャ。今でも十分な強さを手に入れてるニャ」


 う~む。意見の相違だな。低い自己肯定感。追い込みが足らなかったか?

 ミルキーは、ここから急成長すると思うのだが。

 さて、どうするか……。ミルキーを更に成長させるには……。


「腕試ししたいのなら、戦場に行けばいいじゃないっすか~?」


「私は殺生を好まない。何処かに、全力で戦える相手がいないものか……。やはり、金鰲島……」


「ミ、ミルキーさんの修行をするんすよね?」


「む? そうだな。それが最優先か……」


「もう十分じゃないっすか? 殷の太師に会いに行きましょうよ~」


 ここで、私の〈索敵〉になにかが引っかかった。


「あの一軍はなんだ? 霊力を感じる……。二人だな」


「殷の将軍っすね。でも下っ端でっせ? 金鰲島の道士かもしんないっすけど~。食料でも集めてるんでしょう」


「行くぞ」


「「えっ?」」





 私は、軍の前に立ち塞がった。

 それを快く思わない、兵士達が騒ぎ立てる。


「何者だ!?」


「冒険者だ。殷の太師に認められている」


 冒険者カードを見せると、将軍を思わしき2人が前に出て来た。

 そして、冒険者カードを確認する。


「……確かに、太師が認めた印が入っているな」


「うむ。それでなのだが、頼みがある」


「食料か?」


「この娘と組み手をして欲しい」


「「「「「えっ!?」」」」」



 将軍二人は、彭遵ほうじゅん王豹おうひょうだそうだ。

 金鰲島の道士でもあるらしい。


「断ることはできないのだが、本当にいいのか?」


「うむ。全力で頼む」


 ミルキーは、震えている。

 しっかりしろ、自信を持て。

 そして、相手を見ろ。

 どっからどう見ても、できの悪い道士でしかないじゃないか。


 私が、開始の合図を行う。

 まず、王豹が攻撃して来た。


「あれは……。手榴弾か? オーパーツだな」


「『劈面雷へきめんらい』っすよ。あれも、宝貝パオペイっす」


 ほう……。あんな道士でも宝貝パオペイを貰えるのか。……羨ましい。

 いや、もう私は『打神鞭』を持っている。

 羨ましがる必要もないな。


 ――ドカン


 手榴弾が、爆発した。それを見た、ミルキーの表情が変わる……。

 震えが止まったようだ。

 理解したのだな。


「お嬢ちゃん。もういいかな? 止めようぜ?」


「……」


 ミルキーが動いた。〈土遁〉で音もなく、王豹の背後に回る。そして、首トンだ。王豹の意識を一撃で刈り取ったみたいだ。

 ミルキーの変身した爪は、切り裂く以外にも、鈍器になるのだな。面白い。

 王豹は、顔面から地面にダイブしてピクピクしている。


「うむ。いい動きだ」


 この数日で、ミルキーは道士を名乗れるほどの修行を積んだのだ。

 目の前の二人など、雑魚でしかない。


「な? なっ?」


 彭遵は、うろたえている。そして、宝貝パオペイを使おうとしたが、展開する前にミルキーにいい一撃を貰って倒れ込んだ。将軍といえども、訓練を怠っている道士などこの程度か……。

 彭遵の宝貝パオペイも見てみたかったが、まあ、取るに足らないモノだろう。


 ミルキーは、『劈面雷へきめんらい』を手に取った。


「……これ貰っても、いいかニャ?」





 今回の被害者……彭遵ほうじゅん王豹おうひょう。界牌関の将軍。

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