第32話 ミルキー3

「がるる~~~~~~! ガルル~~~~!」


「どうどう……」


 ミルキーは、順調に成長していた。

 本性を現して来たのだ。

 猫型の獣人だとは思ったけど、虎か豹かライオンか……。良く分らないが、肉食系だな。

 得物に襲いかかると、爪で肉と骨を切り裂き、牙で動脈を断っている。


「ふむ……。本性と言うか、原型が見えて来たな」


 そこに、幼かった少女の姿はなかった。

 そこにいるのは、血に飢えた狩人ハンターだ!


「次……、次ぃ~!」


「どうどう」


「どうすんすか、これ? 戻れんすか?」


 衝動を抑えられないみたいだ。

 頭が良く、書記官だったそうだが、今は本能で動いている。


「知性と本能の融合……。悪くないかもしれない」


 私は、ミルキーの成長した姿が見えた気がした。





「すいませんでしたニャ……。なんか、大事なモノが切れた感覚がして……。目の前が、真っ赤でしたニャ」


「問題ない。それよりも素晴らしい動きだったぞ。一時的に理性を失ったのかもしれないが、長い人生なのだ。時にはそんな日もあるさ」


「こう……、何度も生命の危機に陥って、死の入り口を除いたら、その向こう側からの視線と合って……」


「ほう? 面白い体験だったな。深淵を覗いたのか?」


「深淵? あれは……、なんだったのですかニャ……」


 素晴らしい。追い込んでみるものだな。

 たった数日でここまで辿り着くとは……。怖いほどの才能だ。


「真理とも、根源とも呼ばれている。あるいは、摂理……か。まあ、言ってみれば、世界だな。そして、自分自身でもある」


「分からないのニャ……」


「怪物を倒す時は、自らも怪物にならなければならないのだ。自分の中に眠っていた才能の一端が、目覚めたと思えばいい」


「怪物に……なる……」


 だが、制御できないのでは意味がいない。怪物になった自分を制御して、始めて目覚めたといえる。


「明日からは、変身しながら知性を保つ訓練を行うか」


「変身?」


 そうか、ミルキーは自分の姿を分かっていないのだな。

 前進の毛が黄金色に輝き、爪と牙は、オリハルコンの様だった。

 そして、オーラを放っていた。霊力や魔力とは違う。言うなれば、生命エネルギーの放出だな。

 スーパーサ〇ヤ人そのままだったぞ。いや、彼等は猿の獣人だったか。あれ? 宇宙人だったか……? まあいい、近しいとだけ言っておこう。


「ふっ……。明日からが楽しみだな」


「……」


 ミルキーは、自分が狩った熊鍋を食べ始めた。





「がるる~~~~~~! ガルル~~~~!」


「どうどう……」


 数日が過ぎたが、ミルキーは今だ自分の力を制御できないでいた。

 だが、変身の条件は分かった。

 ミルキーが、生命の危機を感じ取ると、自在に変身できるようになっていたのだ。

 その相手の息の根を止めると、とりあえず戻れるのも確認済み。


「はっ!? あれニャ? はうあ!?」


 自分で狩った、野犬を見て驚いている。まあ、妖怪であり巨大な犬なのだが。

 騎獣にできそうなほど立派な犬だったな。


「ヘーキチさん。そろそろ、ミルキーさんが危ないでっせ?」


「なにがだ? 後少しじゃないか」


「眼を見なはれ。……戻れなくなりまっせ? このまんまじゃ、野獣化した妖怪仙人一直線っすな」


 う~ん。そうなのか? それは困るな。


「なんか……、深淵の先にいるのは、ワタシだった気がしますニャ。あれが、ワタシの真の姿ニャのかニャ……」


「それは、気のせいだ」


 う~ん。知性と本能の融合ってどうやるんだ?

 私は、幼少期になにも考えずに通ってしまった道だった。

 困ったな、教え方が分からない。





「右手だけの変身……ニャ!」


 結局は、大鮫魚が知っていた。そう言えば、大鮫魚は妖孽ようげつを覚えているし、体の縮小もできるのだ。当たり前か。

 そうなると、始めから教えろと言いたい。


「いい感じでっぜ、ミルキーさん。まずは、四肢からっすよ。首から上は止めときまひょ」


「ありがとうなのニャ。大鮫魚さん。制御できているのニャ!」


 ミルキーが変身の練習をしている。

 そして、たまに会う妖怪や精霊などを片っ端から狩っている。

 血を見て、嬉しそうに微笑んでいるんだが……。


「なんか、好戦的になってないか? 精神に影響が出ていそうだな。肉体の変化が、精神に影響を及ぼしている? ありえるのか?」


「あの程度で良かったと思いましょうよ~」


 あの程度……か。

 妖怪を見かけると、問答無用で襲いかかっているのだが……。

 狩りを行っている時の怖い笑顔が、印象的だ。


 そこにはもう、無気力に村で生活していた少女の姿はなかった。

 獰猛な狩人ハンターが……、いた。

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