第31話 ミルキー2

 ミルキーは、〈土遁〉を覚えていた。いや、どうやら、土系統の術を使えるようになっているらしい。回数制限もないみたいだ。一掴みの土を空中に投げ、その上に乗って移動するという使い方なのだそうだ。気合で発動する私とは違うな。

 術の覚え方……、才能なのかな。少し嫉妬を感じる。


「無我夢中で、噛みついたんですけど……、精霊が体に馴染んでますニャ」


 感覚だけで術を覚えたのか。天才かもしれない。


「それが、霊力だ。仙人と道士の力の源でもある」


 私は、霊力を感じるのに一週間もかかったというのに。

 ミルキーは、数分か……。怖いほどの才能だな。

 どう考えても、私以上だ。


「どう使うか、教えて欲しいのニャ……。〈土遁〉以外の術ってありますかニャ?」


「そうだな。〈地行術〉など、どうだ?」


 術の〈地行術〉は、その名の通り地面の中を進む術だ。モグラみたいな動きをする。

 私は、地面に沈み込んで、ミルキーの背後から這い出てみせた。

 それを見たミルキーが、首を傾げる。


「う~ん。難しそうニャ……」


「覚えると便利だぞ。この術だけを特訓している道士もいるほどだ」


 ミルキーが、〈地行術〉を発動させるが、首まで埋まって止まってしまった。


「うニャ~。動けないニャ。助けて欲しいのニャ」


「……絶好の機会だな。何処かに妖怪はいないものか」


「ヘーキチさん。その危ない思考を止めて、引き上げてあげましょうよ~」


 む? 大鮫魚からの突っ込みだった。

 そうだな。手が塞がっていては、危ないか。

 配慮が足らなかったな。反省しなければ。

 私は、拳で地面を割って、ミルキーを引き上げた。


 ミルキー……。そんな光のない眼で人を見るもんじゃないぞ?





「はっ、ほっ」


 結局のところ、大鮫魚の勧めで石のお手玉から始めた。

 霊力による、"回転"だな。

 3つの石が、クルクルと空中で回転している。


「上手いものだな」


 私には、できそうにない。あんな小石など、私が霊力を開放したら塵になってしまうからだ。

 ミルキーは、今だからできると言える。

 霊力量が上がれば、私と同じになるだろう。多分、きっと、恐らく……。

 コントロール? なにそれ? 美味しいの?


「ミルキーさん。上手いっすね。土系統に才能があるんじゃないですか?」


「えへへ。嬉しいのニャ~。こんな、練習がしたかったのニャ~」


「せっかく霊力を覚えたのだ。妖怪との格闘を行ってみないか?」


「却下。まだ、早過ぎでっせ」「遠慮するニャ……」


 大鮫魚に弟子を取られた気分だ。

 まあいい。一日で霊力を覚えるほどの逸材なのだ。

 時に厳しく、時に優しくだな。

 厳しいだけでは、私と同じになってしまう。それがいけないということだけは、知っている。

 あのクソ師匠に見せてやりたい。人材育成とはこうやるのだ。


「さて、日暮れだ。野営の準備をするか」


「はいニャ」「オッケーでさ~」





「ニャんですか、この布の家……」


「テントと言う。戦争だとこれをいっぱい建てるのだ」


 ミルキーは知らないのか。機会がない人間には、一生縁がないのかもしれない。

 国の西側に行くと定住しない民が、日常的に使っている。

 シルフィーが使っていたテントを貸すことにする。まあ、怒らないだろう。


「ヘーキチさん。デリカシーが、なさ過ぎっす……」


「そうか? ミルキー、匂うか?」


「……女性の匂いがしますニャ」


 鼻がいいんだな。

 これは、もう使えない。次の街で売り払おう。

 ミルキーには、私のテントを貸すことにした。


 私は、草の上で横になる。

 この数十日を思い出す……。


「……下界というのは、刺激に溢れているのだな。50年前は、知らなかった事ばかりだ」


「トラブルを起こし過ぎっす。少し自重しましょうよ~」


 トラブルが、向こうからやって来るのだ。回避などできない。

 だったら、正面から受け止めるだけだ。


「それと、ミルキーだな。天界はなにを考えているのやら」


「ヘーキチさんへの抑止でしょうね~」


 む? 大鮫魚はなにか知っているのか?


「知っていることを教えてくれ」


「天界は、大騒ぎっす。ヘーキチさんが命数に従わないので……。どうやって、易姓革命を成すか見ものっす」


「なんとか計画とやらか。天界なのだ、私などいなくても、結末は変わらんよ」


「ホントに、やれやれな人っすね~」


 大鮫魚の突っ込みにも慣れて来たな。いい仲間を持ったものだ。

 そのまま私は、眠りについた。マイクロスリープは……、今日は止めておこう。

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