第31話 ミルキー2
ミルキーは、〈土遁〉を覚えていた。いや、どうやら、土系統の術を使えるようになっているらしい。回数制限もないみたいだ。一掴みの土を空中に投げ、その上に乗って移動するという使い方なのだそうだ。気合で発動する私とは違うな。
術の覚え方……、才能なのかな。少し嫉妬を感じる。
「無我夢中で、噛みついたんですけど……、精霊が体に馴染んでますニャ」
感覚だけで術を覚えたのか。天才かもしれない。
「それが、霊力だ。仙人と道士の力の源でもある」
私は、霊力を感じるのに一週間もかかったというのに。
ミルキーは、数分か……。怖いほどの才能だな。
どう考えても、私以上だ。
「どう使うか、教えて欲しいのニャ……。〈土遁〉以外の術ってありますかニャ?」
「そうだな。〈地行術〉など、どうだ?」
術の〈地行術〉は、その名の通り地面の中を進む術だ。モグラみたいな動きをする。
私は、地面に沈み込んで、ミルキーの背後から這い出てみせた。
それを見たミルキーが、首を傾げる。
「う~ん。難しそうニャ……」
「覚えると便利だぞ。この術だけを特訓している道士もいるほどだ」
ミルキーが、〈地行術〉を発動させるが、首まで埋まって止まってしまった。
「うニャ~。動けないニャ。助けて欲しいのニャ」
「……絶好の機会だな。何処かに妖怪はいないものか」
「ヘーキチさん。その危ない思考を止めて、引き上げてあげましょうよ~」
む? 大鮫魚からの突っ込みだった。
そうだな。手が塞がっていては、危ないか。
配慮が足らなかったな。反省しなければ。
私は、拳で地面を割って、ミルキーを引き上げた。
ミルキー……。そんな光のない眼で人を見るもんじゃないぞ?
◇
「はっ、ほっ」
結局のところ、大鮫魚の勧めで石のお手玉から始めた。
霊力による、"回転"だな。
3つの石が、クルクルと空中で回転している。
「上手いものだな」
私には、できそうにない。あんな小石など、私が霊力を開放したら塵になってしまうからだ。
ミルキーは、今だからできると言える。
霊力量が上がれば、私と同じになるだろう。多分、きっと、恐らく……。
コントロール? なにそれ? 美味しいの?
「ミルキーさん。上手いっすね。土系統に才能があるんじゃないですか?」
「えへへ。嬉しいのニャ~。こんな、練習がしたかったのニャ~」
「せっかく霊力を覚えたのだ。妖怪との格闘を行ってみないか?」
「却下。まだ、早過ぎでっせ」「遠慮するニャ……」
大鮫魚に弟子を取られた気分だ。
まあいい。一日で霊力を覚えるほどの逸材なのだ。
時に厳しく、時に優しくだな。
厳しいだけでは、私と同じになってしまう。それがいけないということだけは、知っている。
あのクソ師匠に見せてやりたい。人材育成とはこうやるのだ。
「さて、日暮れだ。野営の準備をするか」
「はいニャ」「オッケーでさ~」
◇
「ニャんですか、この布の家……」
「テントと言う。戦争だとこれをいっぱい建てるのだ」
ミルキーは知らないのか。機会がない人間には、一生縁がないのかもしれない。
国の西側に行くと定住しない民が、日常的に使っている。
シルフィーが使っていたテントを貸すことにする。まあ、怒らないだろう。
「ヘーキチさん。デリカシーが、なさ過ぎっす……」
「そうか? ミルキー、匂うか?」
「……女性の匂いがしますニャ」
鼻がいいんだな。
これは、もう使えない。次の街で売り払おう。
ミルキーには、私のテントを貸すことにした。
私は、草の上で横になる。
この数十日を思い出す……。
「……下界というのは、刺激に溢れているのだな。50年前は、知らなかった事ばかりだ」
「トラブルを起こし過ぎっす。少し自重しましょうよ~」
トラブルが、向こうからやって来るのだ。回避などできない。
だったら、正面から受け止めるだけだ。
「それと、ミルキーだな。天界はなにを考えているのやら」
「ヘーキチさんへの抑止でしょうね~」
む? 大鮫魚はなにか知っているのか?
「知っていることを教えてくれ」
「天界は、大騒ぎっす。ヘーキチさんが命数に従わないので……。どうやって、易姓革命を成すか見ものっす」
「なんとか計画とやらか。天界なのだ、私などいなくても、結末は変わらんよ」
「ホントに、やれやれな人っすね~」
大鮫魚の突っ込みにも慣れて来たな。いい仲間を持ったものだ。
そのまま私は、眠りについた。マイクロスリープは……、今日は止めておこう。
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