第30話 ミルキー1

大鮫魚だいこうぎょ。次は、何処がいい?」


「う~ん。金鰲島きんごうとうに行ってみやすか?」


 ほう、もう一つの仙人界か……。興味あるな。

 多少の猛者はいるだろう。

 道場破りになりそうだが、ここ最近、修練が疎かになっている。実戦感覚を取り戻すためにも、強敵が欲しい。


「あニョ~」


 ミルキーを見る。なんか言いたいことがあるのか?


「もしかしてだが、何処か行きたいところが、あるのか? これから東に進むが、途中で西にも寄ろうと思っている」


「旅の目的を教えて欲しいのニャ……」


「強くなりたいのだ。仙人界を追い出されたが、せっかく修業をしたのだ。腕試しをしたいと思っている。それと、宝貝パオペイだな。全力を出せる相手が欲しい。騎獣は、大鮫魚に期待しているから……、今は置いておく。そんなところだ」


「……ニャんですと?」


「ミルキーは、どうして私に付いて来たのだ?」


「天界からの指示があって……。蚩尤の里に、とても失礼な無頼漢が訪れるので、一緒に旅をしろと……。そうすれば、最終的に西方の生まれ故郷に帰れるからって……」


 む? 天界が関わっていたか。

 しかも、私を無頼漢だと? こんな紳士に向かってなにを言っているのか。

 それとミルキーには、なにかあるのだな。また、天女候補か?

 私は、ため息を吐いた。


「ミルキーは、異世界人なのか?」


「いいえ。父親が妖怪だったみたいですニャ……。迫害を避けて、蚩尤様に匿って貰っていましたニャ」


 ふむ……。

 暗い過去があるのだな。

 だが、未来は明るくしてやろう。

 その為に、まず修行だ。強さがなくては、得られるモノも得られない。さて、どうやって追い込むか……。

 私は、輝かしいミルキーの未来を模索して、想像した。


「ふっ……」


 笑いが込み上げて来た。





 とりあえず、金鰲島に行く事にした。

 大鮫魚は、蓬莱島に関しては提案して来ない。故郷だろうに……。

 まあ、見かけたら行く事にしよう。

 私達は、東に向けて歩き出した。

 だが、すぐに問題に直面した。


「ミルキーは、思った以上に体力がないのだな……」


「ゼエゼェ。ヘーキチさんが、速すぎるニャ。馬より速く歩かないで欲しいニャ……」


 とりあえず、休憩だ。

 水筒を〈収納〉より出して、ミルキーに渡すと、行きよい良く飲んでくれた。

 う~む。まず足腰からだな……。


「24時間全力ダッシュマラソン……、超重量の馬車引き……、大岩を押して移動……、いっそのこと、魔物と格闘……。いやいや、術を覚えさせる……か」


「なんすか、その危ない思考は?」


 大鮫魚が突っ込んで来たが、あえて無視する。

 ミルキーは、固まっていた。目に光がないぞ? これから、輝かしい未来が待っているというのに。

 私の通った道なのだ。ミルキーならば、越えられる。私には確信がある。


「……術で、お願い致します」


 ミルキーが、望んで来た。それと、語尾がおかしくないか?

 まあいい。ミルキーからは、僅かに霊力を感じる。

 覚えれば、使えなくもないだろう。


「最下級の、土遁と木遁から行くか」


「……お願いします」





「ギャ~~~~~~~~~~~~~~~~!」


 ミルキーの絶叫が、木霊する。


「ミルキー! 考えるな、感じるんだ!」


「鬼畜っすね……」


 ミルキーは、土の精霊達に追われていた。ちっこいが妖怪も混じっているな。

 私は、そのミルキーに並走して走っている。


「精霊達が、どうやって動いているのかを感じるのだ!」


「分かんないのニャ~~!」


 語尾が戻って来た。いいぞ、通常運転に戻って来たようだ。


「手本を見せよう! とう!」


 私は、〈土遁〉の術を発動させた。〈光遁〉と同じ移動系の術だが、〈土遁〉は遅い。

 初心者向けだ。


「……ミルキーさんを置いて来て、どうするんすか?」


「むっ?」


 急ブレーキで止まる。

 ミルキーは、何処だ?


「急いで戻った方がいいっすよ~。今頃、喰われているかも……」


 私は、再度〈土遁〉を使った。



「はあはぁ……」


 驚いたな。ミルキーは、土の精霊を倒していた。

 もう、顔中から色んな液体が流れ出ている。

 それでも、生き延びたのか。


「この娘には、才能がある……。私以上かもしれない……」


 私は、仙人界に移動した当日に、妖怪との組み手を強要されたが、全然余裕だった過去がある。まあ、下界で野生生物と格闘していた経験があったのが役に立っただけだが。

 この娘は、格闘経験などないと思う。

 それでも、武器もなく、襲ってくる敵を倒したのか。凄い才能だ。怖いくらいだ。


「どうやって、倒したのだ?」


「……爪で引っ掻いて、食べましたニャ」


 ほう……。ミルキーの手を見る。太い爪だ。種族特性なのだな。

 筆を握るのには、苦労しそうだが、戦闘となれば武器要らずかもしれない。

 これが、獣人の特徴か……。っと思ったら、爪を引っ込めた。


「便利なのだな」


「爪ですかニャ? ワタシは、ハーフですからニェ。こんなことしかできませんけど、文字を書くのは得意でしたニャ。蚩尤の村では、書記官でしたニャ」


 そうなのか……。

 私は、自分の名前しか書けないのだが……。





 この話で出てくる遁術……移動の術。光遁が最も速い。木遁は、土遁より速い。

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