第29話 隠れ里

 泰山を登る。なんか分からんけど、戻って来たことになる。まあ、気にしない。

 それと、目的地は、山頂ではない。

 谷だった。

 盆地が近いだろう。

 そこに、百戸の集落がある……。


 私は、集落の前に立った。無断で立ち入ることはしない。

 そして……、妖怪が現れた。

 頭に角があり、四目六臂で人の身体に牛の頭と鳥の蹄を持つ……、見るからに妖怪だ。


「そなたが、蚩尤しゆうか?」


「いかにも」


「手合わせを願いたい」


「断る! まったく、泰山を壊しおって、早く他所の地に行け!」


 怒っているな。壊したのは、シルフィーだというのに。私は、逃げただけだ。


「せっかく来たのだ。一手だけでも頼む」


「……今の儂は、黄帝に負けて、力のほとんどを失っている。だが、まだ死ぬ運命にない。決闘は受けられない」


 ふむ……。役目があるのか。

 それに、弱体化しているのか……。手合わせする理由がなくなったな。


「力が戻ったら、手合わせを頼む」


「千年以上先らしい。それまでは、武器でも作っているさ」


 ほう……。全力の蚩尤を見てみたいな。

 千年待つか。


「随分先だな。まあいい。約束だぞ。それと、何を作っているか見せてくれ」





 蚩尤の作っている武器を見せて貰った。正直、下界の武器だ。宝貝パオペイとは比べ物にならない。


宝貝パオペイを持つ、仙人ならゴミだろう?」


「いや……。そんなことはない。ぼうげき酋矛しゅうぼう夷矛いぼう・剣・刀・大弩か……。見事な出来だ。オーパーツと言えるな」


「だ・か・ら、宝貝パオペイとは、比べ物にならんだろうに」


「人族同士の戦争なら、有効だろう。そうだな、東伯候に献上してみては、どうだ? なんだったら話を通してやる」


「この通り、妖怪なんでね。話し合いも持たれんよ。それに、献上するのであれば、西伯候だそうだ」


 天界からの指示か?

 誰が、天下を取ってもいいだろうに。善政を敷くのであれば、王など農民でもいい。


 村民を見る。全員、妖怪だった。

 そうか、ここに隠れ住んでいたのだな。

 力のない妖怪達みたいだ。


「そっと、しておこうか。静かに暮らして貰いたい」


 ここは、隠れ里として生き残って欲しい。


「盗賊とかは、出ないのか? 駆除や退治くらいなら手伝うぞ?」


「妖怪に、喧嘩売る盗賊はおらんよ。忍び込んで来たら、餌になって貰う。儂もさすがにそこまで弱ってはおらん」


「仙人・道士は来ないのか?」


「よほどのアホでない限りは来んよ。来るのであれば、村人総出で武器を持つ!」


 安心だな。私は、次の強敵に向かおう。そう思った時だった。

 ここで、一人の少女が前に出て来た。


「ワタシは、ミルキーと申します。西方より流されて、この村に辿り着いた……、獣人ですニャ」


 ふむ……。獣耳と尻尾以外は、ほぼ人の形をしている。


「お願いですニャ。連れて行って欲しいのニャ……」


 強い瞳の主張。

 大鮫魚を見るが、視線を合わせようとしない。


「大鮫魚……。これが目的だったのか?」


「……天界からの指示命令っす」


 ふう~。強者との手合わせを望んでいたのだが。

 護衛になるとは。


「私のパーティーは、きついぞ? 覚悟はあるか?」


「ここで、未来への希望もなく過ごすよりは、危険でもヘーチキさんにかけたいですニャ」


 これ以上ない、理由だな。


「蚩尤よ。この獣人の娘を連れて行くが、問題あるか?」


「……ないな。連れて行くのは良いが、どうするつもりだ?」


「将来的に、冒険者になって貰う。そして、国に貢献できる人材まで育て上げよう。太師は疲れていた。上太夫くらいになれれば、太師の負担も減らせるだろう。いや、太師の後を継いでもいいな。う~む、一騎当千の将軍……、なんてのもいいか」


 絶句する、蚩尤……。あ、ミルキーは、衝撃のあまり固まっているな。


「ヘーキチさん~。女たらしもいい加減にしないと~。次にシルフィーさんが、なにするか分かりませんぜ? それと、西に連れて行って欲しいって話を聞いていました?」


 おい、大鮫魚。棒読みを止めろ。

 それに、シルフィー?

 私にパーティーメンバーが加わったことが、気に入らないというのか?

 それは……、大鮫魚の考え過ぎだな。


「それでは、蚩尤。ミルキーに合った武器防具を選んでくれ」


「……もう、渡してある。ミルキー、私物を纏めて来なさい」


「はいニャ」


 数分後、ミルキーが戻って来た。


「邪魔したな。また立ち寄ることもあるだろう。その時は、ミルキーの成長を喜んでくれ」


「フラグかよ!?」


 蚩尤と噛み合わない話をして、私達は、妖怪の隠れ里を後にした。


「しかし、シルフィーが村を壊滅させなくて良かったな。少しでも、攻撃がズレていれば直撃だっただろう」


「あの爆音は、恐怖でしたニャ……。ニャんだったんですか?」


「天女の……、癇癪だ」


 ミルキーを見る。

 シルフィー以上に鍛えがいがあるな。伸びしろが半端ない。私の目に狂いなどない。

 少し、追い込んでみるか。


「どんなトレーニング方法が適しているか……」


 私は、決意を新たにした。

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