第29話 隠れ里
泰山を登る。なんか分からんけど、戻って来たことになる。まあ、気にしない。
それと、目的地は、山頂ではない。
谷だった。
盆地が近いだろう。
そこに、百戸の集落がある……。
私は、集落の前に立った。無断で立ち入ることはしない。
そして……、妖怪が現れた。
頭に角があり、四目六臂で人の身体に牛の頭と鳥の蹄を持つ……、見るからに妖怪だ。
「そなたが、
「いかにも」
「手合わせを願いたい」
「断る! まったく、泰山を壊しおって、早く他所の地に行け!」
怒っているな。壊したのは、シルフィーだというのに。私は、逃げただけだ。
「せっかく来たのだ。一手だけでも頼む」
「……今の儂は、黄帝に負けて、力のほとんどを失っている。だが、まだ死ぬ運命にない。決闘は受けられない」
ふむ……。役目があるのか。
それに、弱体化しているのか……。手合わせする理由がなくなったな。
「力が戻ったら、手合わせを頼む」
「千年以上先らしい。それまでは、武器でも作っているさ」
ほう……。全力の蚩尤を見てみたいな。
千年待つか。
「随分先だな。まあいい。約束だぞ。それと、何を作っているか見せてくれ」
◇
蚩尤の作っている武器を見せて貰った。正直、下界の武器だ。
「
「いや……。そんなことはない。
「だ・か・ら、
「人族同士の戦争なら、有効だろう。そうだな、東伯候に献上してみては、どうだ? なんだったら話を通してやる」
「この通り、妖怪なんでね。話し合いも持たれんよ。それに、献上するのであれば、西伯候だそうだ」
天界からの指示か?
誰が、天下を取ってもいいだろうに。善政を敷くのであれば、王など農民でもいい。
村民を見る。全員、妖怪だった。
そうか、ここに隠れ住んでいたのだな。
力のない妖怪達みたいだ。
「そっと、しておこうか。静かに暮らして貰いたい」
ここは、隠れ里として生き残って欲しい。
「盗賊とかは、出ないのか? 駆除や退治くらいなら手伝うぞ?」
「妖怪に、喧嘩売る盗賊はおらんよ。忍び込んで来たら、餌になって貰う。儂もさすがにそこまで弱ってはおらん」
「仙人・道士は来ないのか?」
「よほどのアホでない限りは来んよ。来るのであれば、村人総出で武器を持つ!」
安心だな。私は、次の強敵に向かおう。そう思った時だった。
ここで、一人の少女が前に出て来た。
「ワタシは、ミルキーと申します。西方より流されて、この村に辿り着いた……、獣人ですニャ」
ふむ……。獣耳と尻尾以外は、ほぼ人の形をしている。
「お願いですニャ。連れて行って欲しいのニャ……」
強い瞳の主張。
大鮫魚を見るが、視線を合わせようとしない。
「大鮫魚……。これが目的だったのか?」
「……天界からの指示命令っす」
ふう~。強者との手合わせを望んでいたのだが。
護衛になるとは。
「私のパーティーは、きついぞ? 覚悟はあるか?」
「ここで、未来への希望もなく過ごすよりは、危険でもヘーチキさんにかけたいですニャ」
これ以上ない、理由だな。
「蚩尤よ。この獣人の娘を連れて行くが、問題あるか?」
「……ないな。連れて行くのは良いが、どうするつもりだ?」
「将来的に、冒険者になって貰う。そして、国に貢献できる人材まで育て上げよう。太師は疲れていた。上太夫くらいになれれば、太師の負担も減らせるだろう。いや、太師の後を継いでもいいな。う~む、一騎当千の将軍……、なんてのもいいか」
絶句する、蚩尤……。あ、ミルキーは、衝撃のあまり固まっているな。
「ヘーキチさん~。女たらしもいい加減にしないと~。次にシルフィーさんが、なにするか分かりませんぜ? それと、西に連れて行って欲しいって話を聞いていました?」
おい、大鮫魚。棒読みを止めろ。
それに、シルフィー?
私にパーティーメンバーが加わったことが、気に入らないというのか?
それは……、大鮫魚の考え過ぎだな。
「それでは、蚩尤。ミルキーに合った武器防具を選んでくれ」
「……もう、渡してある。ミルキー、私物を纏めて来なさい」
「はいニャ」
数分後、ミルキーが戻って来た。
「邪魔したな。また立ち寄ることもあるだろう。その時は、ミルキーの成長を喜んでくれ」
「フラグかよ!?」
蚩尤と噛み合わない話をして、私達は、妖怪の隠れ里を後にした。
「しかし、シルフィーが村を壊滅させなくて良かったな。少しでも、攻撃がズレていれば直撃だっただろう」
「あの爆音は、恐怖でしたニャ……。ニャんだったんですか?」
「天女の……、癇癪だ」
ミルキーを見る。
シルフィー以上に鍛えがいがあるな。伸びしろが半端ない。私の目に狂いなどない。
少し、追い込んでみるか。
「どんなトレーニング方法が適しているか……」
私は、決意を新たにした。
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