第28話 東国の混乱2
戦場に着いた。
だが、戦いは起こっていない。
互いに陣を張って、対峙しているだけか。
「政治的な問題みたいだな……。戦う意思は見受けられない」
「……東伯候は、父親と妹を殺されていますからね~。ここで、兵を挙げないと部下が反乱を起こすんすよ」
「国と言うのは、面倒なのだな」
「そんで、反対側が殷軍っす。太師っていう、偉い役職の人が率いています。まあ、説得役ですね。それと、
「気になっていたのだが、
「全然違いやすぜ? 東の海にあるのは同じっすけど」
ふむ……。行ってみたいものだ。
そして、太師に会う必要もあるかもしれない。
私は、とりあえず東伯候の陣に向かった。
冒険者カードを見せると、東伯候と会うことができた。本当に便利なモノを貰ったものだ。
「して……、仙人様はなにしに来られたのだ? そういえば、弟が『戦力を連れてくる』と言って出て行って、戻って来てないな。それと、土竜馬……」
「うむ。弟君に会った。それで、天界の意志を伝える。このままでは、負けるぞ。殷の太師にちょっとした宝物でも要求して、和睦を結べ。これは、天界の意向でもある。それと、私は仙人ではない、一般人だ」
もちろん、嘘だ……。だが、シルフィーを最大限に利用させて貰う。
周囲の将軍達が、ザワザワし出した。
「しかし、東伯候は身内を殺されているのだ。黙って引き下がれば、国民の支持率が下がるだろう」
反対して来た、将軍Aを睨み付ける。
「時期を待て。そして、兵を大事にしろ。悪政を強いている王族など、じきに終わる」
「……」
正論をぶつける。
「それは、何時だ?」
「……賢者は生れている。それだけは確かだ。じっとしていられないというのであれば、崑崙山に行くがいい」
普通の人間が、仙人界になど行けない。
だが流石に、師匠が使者を出すだろう。それくらいは、期待したい。
「貴様! 仙人ではないのだろう!? そんな話を信じろというのか!」
「仙人ではないが、仙人界で修行はした者だ。証拠は……なにもないな」
宝貝を見せびらかせる趣味は、持ち合わせていない。
「そんな話を信じろというのか!」
ふぅ~。いつもこれだ。
◇
その後、将軍Aとの一騎打ちをを行う。
ベッドバットで
『打神鞭』は使わない。この鞭は、神や仙人を打ち据える鞭であって、一般人に使ったら、痛いだけだ。まあ、私が振れば真空の刃くらいなら作れるが。とにかく、一般人には使わない。
「……むふ。下界の者としては強かったな」
一応賞賛も送っておく。私は、アフターケアも怠らない。
東伯候の陣営は、静まり返っていた。
何時もの私だ。これが通常運転なのだ。
シルフィーが悪かったのだ。
よし、調子が戻って来たぞ!
その後、殷側へと向かった。
冒険者カードを見せると、またすぐに面会となる。
今度は、殷の太師だ。
「良く来てくださった。謝罪文と宝物を用意していたのだが、使者が見つからずに困っていた。正に、渡りに船だ」
ふむ……。殷の太師は話の分かる人物みたいだ。
「いいだろう。東伯候と将軍達は、私が説得して来よう。だが、王様をどうする気だ?」
太師は、黙ってしまった。
『プランなしか……。内乱は止まりそうにないな』
まあいい。私は通りかかっただけだ。
今起きている戦争だけでも終わらせよう。
「それでは、持って行くぞ」
「少し待ってくれ。冒険者カードを貸して貰いたい」
む? 断る理由もないので、冒険者カードを渡す。
太師が、なにかすると木の板が金属に変わった?
「凄いな。錬金術か?」
「なんだ、錬金術とは? とりあえず、金に変えておいた。これで、殷国内で誰もが頭を下げるだろう。例え、四大諸侯でもだ」
う~む。なんか、冒険者ランクが上がってしまったらしい。
しかし、下界のこの制度はなんなのだ?
それと、太師は木片を金属に変えた……。術なのだろうか?
もしかすると……。
「太師殿は、仙人なのか?」
「うむ、私は金鰲島の道士でもある」
なるほどな……。合点がいった。あ……、大鮫魚が言っていたかもしれない。
「話聞いとりました? 流していたでしょう?」
大鮫魚は無視する。
その後、太師と握手して別れた。
東伯候の陣に戻り、手紙と宝物を渡した。
ここで、誰かが来た。
「あ!? 仙人様?」
「む? 弟君か」
「来てくださったのですね。なんだ、ツンデレさんだったのか。あはは……」
――ゴキン
ちょっと眠って貰う。それと、『ツンデレ』の概念は、三千年以上先だぞ? どうやって知ったのだ?
そんな弟君とのやり取りを見ていた東伯候が、真っ青な顔をしていた。
「え……と。弟の頼みを聞いてくださったのですな」
「あ~。土竜馬を借りてな。乗せて貰いたかったので、この陣まで来た訳だ。それで、兄が困っていると聞いてだな……」
「嘘が、下手っすね」
水筒を、上下に振る。今回は強めに。
少し、黙っていろ。
「まあ、通りかかっただけと言うことだ。それで、太師に返礼の使者を送り、今回の戦争を終わりにしろ。まだ、続けたい奴がいれば、私が相手をしよう」
静まり返る、幕僚達。
「承知しました」
東伯候が、了承した。
これで終わりだ。
◇
「ふう~。終わったな」
「良かったんすか~。土竜馬まで返しちゃって」
「私が走った方が速い。見事な馬だったが、乗騎にするには力不足だったな。大鮫魚は、もうしばらく私につき合ってくれ。それと、空を飛べるようになれば、乗ってやる」
「へ~い。この上ない名誉っす。天界の使者を待ちやすね~」
「ああ、頼むぞ。さあ、強者を求めに行こうか。案内してくれ」
「それでしたら、近くに
なんだ、蚩尤とは? 聞いたことがないぞ?
「黄帝と戦争を行って負けてやす。そんで、隠れて武器を作り続けてますね~」
黄帝? 何百年前だ?
「妖怪なのか?」
「妖怪でっせ~。今は、悪さはしてませんが、妖怪の軍勢を集めれば、下界に被害が出るでしょうな~」
「天界は、監視していないのか?」
「う~ん。見てるんでしょうが、まだ討伐時期ではないんでしょうね~」
ふぅ……む。会ってみるか。
武器を作り続けているのが、気になる。
今は、人に仇名す妖怪ではないみたいだが、将来は分からない。
それに……。強いかもしれない。
久々に、本気で戦えるかもしれないな。シルフィーみたいな、ズルとは戦いたくない。
私は、『打神鞭』を握った。
「その蚩尤の場所に案内してくれ」
「そう来ると思ってやした。そんじゃ、行きまっしょ」
◇
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