第27話 東国の混乱1
「誰だ? 私になんの用だ?」
「自分は、東伯候の弟だ。貴殿は、仙人なのだろう? 頼みがある。家臣達の怒りを鎮めて貰いたい。そして、今起きている戦争を止めて欲しい」
「断る! 私は、戦争には関わらない! それと、私は仙人ではない!」
「実は、父と姉が無実の罪を……、うえぇ~~~? 話を聞いてくれないのか? えっ!? 仙人じゃないの? あんだけ派手に暴れておいて?」
う~む……。途中から口調が変わったぞ? どんなキャラなんだ?
王族っぽかったが、平民臭さが抜けていない?
まあいい。
私は、戦争には関わり合いたくない。相手が妖怪だとしてもだ。
無意味な殺戮をして、なにが楽しいというのか。
「数日前、コンキスタドール並みの殺戮を行いませんでしたか?」
そうだったかな? まあ、私の進む道を塞ぐのなら話は別だ。
「言い訳が多いっすな~」
大鮫魚は、無視する。
「どうしてもと言うなら、崑崙山へ行け。そこで、頼み込んで来い。いや、ここからなら金鰲島が近いな。貢物でも用意してみたらいいだろう」
「ヘーキチさん……。器小っちゃいっすよ~」
水筒を、上下に振る。
大鮫魚は、静かになった。
「私は、できる限り殺生は行わない。例えそれが、妖怪だとしてもだ。攻撃して来るのであれば、別だがな」
「今まで、なん……」
更に、水筒を上下に振る。
「そこを曲げてお願いしたい。こちらも時間がないのだ」
この人も退かないな……。それと、威厳が戻って来た。
突っ込みの時だけ、庶民になるタイプか? 新しい貴族のタイプだな。
「何故、私に拘る? たまたま、この森に潜伏していただけだというのに。それと、私は仙人でも道士でもないのだぞ?」
「いや……、泰山に登り、天女と出会って、妖怪仙人と格闘していただろう? この周囲一帯で、見ていない者はいないぞ? 仙人ではないのかもしれないが、天界と関わり合いのある人物なのだろう? 我々にとっては、天の助けだ。頼らない手などない」
泰山の方角を見る。いくつものクレーターが出来上がっていた。人が住んでいたら、大惨事だったぞ……。
ちっ……。全てシルフィーのせいだな。
次に会ったら、お灸をすえてやろう。
仙人界の至宝、『太極図』さえなければだ。
あっ、でも……、空から攻撃されるのは避けたいな。
「大鮫魚。飛べるようになっているか?」
「……」
返事がない。ただの気を失った魚のようだ。
前を向く。
強い決意の瞳を向けて来る人物がいるが、私にも譲れないモノがあったりする。
特に、人の命は奪いたくない。
ここで、後方から部下と思わしき人物達が現れた。騎兵の一団だ。武装している。
「ほう? 立派な騎馬隊だな」
「私の護衛の、土竜兵と言う。騎獣は、馬と竜の掛け合わせだ。東伯候しか所有していないだろう」
素晴らしい。なにより、容姿が美しい馬だ。
崑崙山もこのような、騎獣を用意してくれればいいものを……。
「……馬で良ければ、一頭引き渡そうと思うが?」
「なんだと~う?」
ここで、思い出したので、冒険者カードを見せてみた。以前、豚を売って貰ったモノだ。身分証になるはずだ。
冒険者カードを見た、東伯候の弟が驚く。
「冒険者だと? 貴殿は、国を救ったのか?」
「村だったが? 豚の妖怪に困っており、野犬に農作物を荒らされていた。それを少し改善しただけだ」
「いや……、なにを持って国とするかでな」
面倒だ。そんなもの主観でしかない。
村? 街? 国? 村長? 国王?
勝手に自分で名乗っているだけじゃないか。
それに、豚を売り払って、野犬を駆除しただけだ。そんな大層なことをしたわけじゃない。
「う~む。仙女と関わり合いがあり、希少な冒険者でもあるのか……。それならば、殷の太師も納得しよう。それに、兄の配下の将軍達もだ」
逆効果だったかもしれない。冒険者カードを身分証代わりに見せたが、逆に評価が高まってしまったか。
だが、大体話は分かった。
「いや、それよりも、馬をくれ。騎馬が欲しい」
「戦争を止めてくれれば、一頭引き渡そう」
「いい案だ……。だが、断る! 馬を寄越せ! 冒険者に敬意を示せ!」
東伯候の弟は、絶句していた。
◇
土竜馬に乗り、平地を駆ける。
風が、気持ちがいい。
これだ、これを望んでいたのだ。
「ヘーキチさん。盗賊と変わらないでっせ……」
目が覚めたのか? しかし、大鮫魚も分かっていないな。
「頼まれて行くのではない。自分の意思で行くのだ。それで、戦場は何処だ?」
「ぷっ……。不器用な人ですな~」
笑うなら笑え。
笑いながら大鮫魚は、方角を指示してくれた。
「さあ、駆けるぞ」
私は、土竜馬に鞭を入れた。
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