第26話 復讐のシルフィー1

「地形を変えるという、レベルじゃないだろう! クレーターを作ってどうすんだ!? 消し飛んでいるぞ!」


 避ける、避ける、避ける。

 私がいた場所が、消滅している。それにしても、遊ばれているようだ。

 最大出力で、範囲一帯を消し炭にされたら、私とて無傷とはいかない。


「どう? 少しは反省したかしら?」


 上空から、シルフィーが声をかけて来た。

 そういえば、飛べるのか……。天女だもんな。

 立体機動装置もどきの私の動きなど、児戯に等しいのだろう。

 遊ばれているのが分かる。


「うむ……。すまなかった」


「……」


 今までで一番威力の高い攻撃が来た。山一つ消滅しているぞ?

 それと、謝罪は受け入れないらしい。

 私は、辛うじて躱した。だが、山体崩壊が起きている。凄まじい以外の言葉が出ない。まずい、一面平地だ。ワイヤーを引っかける立体物が……、必要なかった。ワイヤーアクションを行っていた訳じゃないんだ。

 そうじゃない、身を隠す場所がないのだ。一面の平地で、全くない!


 上空のシルフィーの視線が合う。そんな、憎悪にまみれた視線を送って来なくても……。目から焔が出ているんだけど……。

 なんかしたっけ……。

 今のシルフィーは、仙人の中でも上位の実力者かもしれないな。宝貝パオペイ抜きなら戦ってみたい。

 ここで、私の〈索敵〉になにかが引っ掛かった。天界の使者の一団ようだ。

 そして、天界の使者が、シルフィーを止めに入った。

 流石に下界で、秘宝をぶっ放なし、地形を変えるのは不味いだろう。


「シルフィー殿、ここまでで。妖怪が、大量に押し寄せていますよ。留飲も多少は下がったでしょう?」


「ちっ……。またね、ヘーキチ。つまらない死に方をしないでね……」


 憎悪の目で、睨み付けて来る、シルフィー。

 天界でなにがあったというのか……。





 シルフィーが、帰って行った。

 私は、尻もちをついた。自分の通って来た道を見る。

 まるで、爆撃機の通り過ぎた跡だな……。


「ふぅ~。しかし、天界でなにがあったというのか……。あんなに危ない宝貝パオペイを持ち出して来てまで」


「だ~から、女の執念を甘く見過ぎでっせ? それと、仙女の香りを嗅ぎ付けた妖怪の集団はどうすんすか? 囲まれてまっせ?」


「ふぅ~。話し合いを持とうか……。まあ、シルフィーは、去ったのだし、私には関係ないだろう? それに、今は無用な戦いを避けたい。逃げてもいいかもな」


 そう思ったら、妖怪仙人が一匹来た。


「我は、黄風大王こうふうだいおう。何しとんじゃ、ワレェ~?」


「うむ……。天女を怒らせてしまったみたいでな。攻撃されていたのだ」


「周囲を見ろ! 地形が変わってんじゃねぇか。後世に影響が出ちまうだろうが! それと、仙女は何処だ? 喰わせろ!」


「うむ……。済まなかった。なにぶん、一方的に攻撃を仕掛けられてな。それと、仙女は帰ったぞ?」


「あ~、ヘーキチさん。妖怪はですね、仙女を食べると階位が上がるんでやんす。その~、シルフィーさんは、ヘーキチさんに匂いを付けて行きましたね」


 なんだと~う?

 それでは、私が襲われるではないか。

 シルフィーめ、余計な事を。


「お前……。下界に要らない」


 黄風大王がそう言うと、風を起こした。砂が混じっている。


「ぐっ!?」


 まず、眼を開けていられない。そして、呼吸をすると、口の中が砂で気持ち悪くなる。最悪、肺を痛めそうだ。

 しょうがない。


「ふん!」


 私は、打神鞭を振るった。


「なに~~~~~~!?」


 打神鞭が、砂を巻き上げる。そうか……、この鞭には風を操る能力もあるのだな。風の操作権を無理やり奪い取る。

 その一瞬をついて、黄風大王に左ストレートをお見舞いした。


「ぎゃ~!」





「良かったんすか~。逃げちゃって」


「妖怪が、大量に押し寄せて来ていたのだろう? 無理に戦闘を行う必要はない」


「今のヘーキチさんなら、倒せんじゃないっすか? いや、宝貝パオペイを貰う前でも余裕か~」


「だから、意味がないだろう?」


「……封神計画を知らないんすね~」


 なんだ? そのなんとか計画とやらは?


「内容は、教えてくれないのだよな?」


「ええ、知らない方がいいっすよ~。それと、アドバイスっす。東伯候っていう、この辺一帯を納めている人物に会いに行った方がいいっすよ~」


「……何処にいるのだ?」


「戦場っす。東の国の内乱って言えば、分りますかね~?」


 行かんよ……。



 妖怪仙人達は、私を捜索していたみたいだが、一日で帰って行った。

 森に穴を掘り、その中に身を潜めて、〈隠密〉の術を発動した私を見つける術は、天界くらいしか持っていないだろう。土に埋もれたことで、匂いも消えているはずだ。

 サバイバルの基本技術の一つだな。

 まあ、森羅万象を見通す『易』という方法もなくはないが。

 妖怪共が、『易』を習得しているとは、思えないしな。

 ちなみに私は使えない。


「さて、念願の宝貝パオペイを貰えたのだし、修行を再開したいな。何処かいい所はないだろうか」


「う~ん。もっと東に行ってみますか? 国と呼べない集落が、ところどころにありやす。宝貝パオペイを使っても迷惑をかけない場所に案内しまっせ~」


 ふむ……。人の少ない土地か。いいかもしれない。


「それでは、案内を頼む」


 そう思った時だった。


「ちょっと、待ってくれ」


 またしても、私の〈索敵〉をすり抜けて来る人物がいた。これは、騎獣の関係か?

 しかし、自信をなくすな……。そろそろ、不意打ちを受けそうだ。





 今回の被害者……黄風大王。"西遊記"に登場する妖仙。特になし。

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