第25話 泰山

「ヘーキチ殿。ちょっと予定が変わりました」


「なに? もしかして、仙人骨をくれないのか?」


「そんなことをしたら、天界に殴り込みに来るでしょう? 今日は、宝貝パオペイはご用意しました」


 天界からの使者の言葉に安堵する。だが、仙人骨ではなく宝貝パオペイ


「何が、変わったのだ?」


「命数は変えずに、ヘーキチ殿専用の宝貝パオペイをご用意しました。今のままでも使えますよ」


「なんだと~う? 私のみが使える宝貝パオペイだと?」


 そんな技術があったのか? あのクソ師匠……。黙っていやがったな。


「はい、カスタマイズしておいたそうです。本来であれば、武王の東征時にお渡しするはずだったらしいのですが、もう命数の修復は不可能とのことで、お持ちいたしました」


 師匠も言ってくれれば、従ったものを……。

 天界の使者から宝貝パオペイを受け取る。


「おお、体力や霊力が強引に吸われない!」


 だが、確かに宝貝パオペイだ。


「え~とですね。名前は、『打神鞭だしんべん』になります。神を打ち据える鞭ですね。一般人には、効果はありません」


「どんな奇跡が起こせるのだ?」


「う~ん。神や仙人を攻撃できます。そうですね……、霊力を持つ者のみ攻撃可能と考えてください」


 良く分らないな……。

 私は、『打神鞭』を振ってみた。


 ――ズズ……ドスン


 隣の山が切れた。私の筋力で振れば、真空の刃が発生するようだ。

 しかも思ったより、射程は長い。


「ちょっと! 何しているんですか?」


「いや、試し撃ちをだな……」


「地形を変えてどうするんですか? ここには少なからず、住人だっているんですよ!」


「はい……。すいません」


 自分が悪い場合は、素直に謝ろう。


「ごほん。次は、杏黄旗きょうこうきになります。防御型と考えてください」


「防具か? 私には不要だ」


「……受け取らないと、将来死にますよ? フィジカルバカが、何処までも通用すると思わないでくださいね」


 ありがたく受け取る。


「最後は、騎獣の四不象しふぞうです」


「あ、そいつはいらないな。騎獣は大鮫魚にしたいと思っている」


「……なんですと?」


 正直、不細工だ。麒麟の顔なのかもしれないが、妖怪丸出しではないか。

 それに私には、大鮫魚がいる。


「それよりも、大鮫魚を飛べるようにして貰えないだろうか? 命数を変えられるのだろう?」


「ヘーキチ殿は、大鮫魚を騎獣にするつもりですか?」


「うむ、できればそうしたい。それと、大鮫魚の役目を解いて貰いたい。蓬莱島の守護だったか?」


「ヘーキチさん……」


 大鮫魚は、泣き出しそうだ。

 四不象しふぞうに関しては、天界と仙人界に伺いを立てる必要があるとのこと。

 今日は、連れて帰って貰う。

 私は、宝貝パオペイが手に入ったので、満足だ。

 それと、気になる事を聞いてみるか。


「結局のところ、仙人骨は、貰えないのか?」


「その件に関しては、天界で話し合いが持たれまして……。シルフィー殿の意見が通りました。これ以上、強くしない方がいいと……」


 シルフィーめ……。恩を仇で返すとか、何を考えているのか。

 命を助け、パーティーに入れて、旅に同行させてやったというのに。

 天界行きまで、サポートしたのだぞ?


「ちっ、シルフィーめ、余計な事を」


「あら? 不満かしら?」


 ……油断ではない。私の〈索敵〉をすり抜けて来たな。最近、背後を取られることが多い。どうなっているんだ?

 声の方向を見る。飛んでいる仙女がいた。金色の髪をなびかせて。


「……久しぶりだな、シルフィー。しかし、すっかり仙女だな。〈変化〉の術を使わないその姿を見るのも久々だ」


「うふふ。ありがとう……。誉め言葉として受け取っておくわ」


 ここで、シルフィーが地面に降り立った。


「ヘーキチさん。逃げることを勧めまっせ」


 逃げる? 攻撃して来るというのか?

 まあ、宝貝パオペイをいっぱい持っているみたいだが……。

 争う理由などないと思う。互いの現状を報告し合うために来た。

 そう思ったのだが……。


 シルフィーが、魔力を開放し始めた。

 あたり一面、火の海だ。

 背後の炎に照らされて、シルフィーの顔が影で覆われる。だが、笑っているのが見て取れる。

 かなり、上級の宝貝パオペイを貰ったのだな。『五火七禽扇ごかしちきんせん』と『 五火神焔扇ごかしんえんせん』の組み合わせか。火系では最強の組み合わせかもしれない。

 持ち主は、何を考えているのか……。


「ま、待て、シルフィー。話し合おう……」


「わたしを売って、念願の宝貝パオペイを手に入れたのでしょう? 待つ理由がないわ。決闘を受けてね。まあ、受けなくても一方的に攻撃するけど」


 冷汗が止まらない。周囲は高温だというのに。


「うふふ。『太極図』も借りて来たの……。ヘーキチと言えど、灰や塵にできるわよ……」


 目の前で、巻物の紐が解かれた……。



 走る! 走る! 〈光遁〉だ!

 私は逃げた。戦略的撤退だ。

 ピカ〇カの実の速度で……。いや、立体機動装置を使用しているリ〇ァイ班長並みの機動力を発揮する。イト○トの実が近いか? 例えるならだけど。


 天界は、なにを考えているのか。

 『太極図』と言えば、天界の秘宝中の秘宝だろうに。三大仙人の大上老君が貸したのか? 強奪?


「だ~から、女の執念に気をつけろって言ったんですけどね~」


 大鮫魚! 黙っていろ!!

 誰が、『太極図』を持って来ると想像できたというのか。

 それにしても、天界というか太上老君はなにを考えているのだ。


 ここで、背後より複数の光が私を襲った。

 その後、大轟音が響き渡り、爆風、爆縮の順で大気が震えた。




 五火七禽扇……南極仙翁。

 五火神焔扇……楊任。同じモノかもしれません。

 太極図……森羅万象すべてを自在に操る。殷の太子を灰にした。太上老君が所有者だけど、結構貸し出してもいる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る