第24話 助けを求める声

 将来、揚州と呼ばれる土地についた。もうすぐ、楚か斉と呼ばれる土地だな。

 目の前に大きな湖がある。湖は、大鮫魚だいこうぎょが小さくなり進んでくれた。まだ、水量も多いので水路として問題なかった。


「こっからは、北上できやせん~。徒歩で頼んます~」


「うむ。ご苦労だった。そして、快適だったぞ。引き続き道案内を頼む」 


「えへへ。お褒めの言葉、有難く受け取りやす~」


 ここから上陸して、陸路を進むことになった。大鮫魚には、また水筒に入って貰う。

 さて、〈土遁〉の術で進み、時短を行うか。


「あれが、泰山になりやす。見えますよね~」


 ここは平地が多い。山は一つだけだ。迷う事もないだろう。

 それに、東の国から外れているので、人里も少ない。

 こんな土地もあるのか。好条件が揃っているな。修行場として、覚えておこう。


「うむ。見えるぞ。このまま進むか」


「へ~い」


 水筒に入った大鮫魚が、道案内をしてくれる。そして、世界情勢を教えてくれる。

 こんなに頼もしい、パーティーメンバーがいてくれて、凄くありがたいと思った。

 シルフィーの道案内は、迷いまくって迷子となり、運良くオアシスに辿り着くというものだった。まさに、雲泥の差と言える。


 途中で小さな山に登る。丘かな。

 まあ、私にとって、平地と変わらないが。

 だがここで、声を拾った。


「待ってくれ~」


「む?」


 一度止まる。

 大鮫魚が反応した。


「なんすか?」


「助けを求める声が聞こえなかったか?」


「どの方向っすか?」


「あの山の中腹くらいだ」


 何十キロメートル先かも分からない。だが、良く通る声だった。

 大鮫魚が、考え出す。

 理由は分かる。私達の進む道から外れているからだ。


「……妖怪の声っすよね?」


「うむ。十中八九、妖怪だな。仙人かもしれんが、あり得ないと思う」


「助けなくてもいいんじゃなっすか~? 多分、天界で悪さして閉じ込められている妖怪でさ~」


 そうなのか……。妖怪には時々襲われている。

 今までを考えると、助けたとしても、恩を仇で返して来ることが考えられる。


「この岩を退かしてくれ~」


「岩を退かす? あれは……、私に言っているのか?」


「あ~、分かった。天界で暴れ回った猿っすね~。強いっちゃ、強いんですけど、今の時代だと開放しない方がいいでっせ?」


 ……強いのか。手合わせをしてみたいな。


「あ~。悪い顔してますね~」


 う~む。考えてしまう。

 一度開放してから、手合わせを行い、ボコってまた封印する……。


「どうせなら、仙人骨を貰ってから腕試しの相手にしてもいいんじゃないっすか?」


 確かにそうだ。大鮫魚はとてもスマートなことを言ってくれる。

 思案の末、私は岩を投げることにした。

 術の〈望遠〉を発動させる。


「距離は……、89キロメートル。方向は、北北西、誤差0.2度……」


 まず〈収納〉より、鎖を出す。

 私は、数トンの大岩に鎖を撃ち込んだ。それを、砲丸投げの要領で回転しながら投げる。


「うおおぉりぁぁぁ~~~。うお~! うお~~! うお~~~!!」


 数秒後、大轟音が鳴った……気がした。


「どれどれ。……より、岩に埋まったな。それと静かになった。大鮫魚、どう思う?」


「真上から岩が落ちましたね。封印が一層強化された感じっすな。壊さなくて良かったっす。それと、太上老君は困惑気味っすね。……何か考えてやす」


 天界に封印されている妖怪か。まあ、そのうち出会うこともあるだろう。

 今の私には、最優先事項がある。

 行くのなら、その後だな。忘れなければだが。





「あの山が、泰山ですぜ」


 遂に目的の場所まで来たか。後少しだ。

 だが……、目の前の妖怪の集団はなんなのだ?


「この妖怪達は?」


「一応、試練っつうことで……。この辺の血の気の多い妖怪が妨害に来ましたね~」


「理由は? 命令されている?」


「山を荒されたくないんでしょうね~。命令っつうか、話だけ聞いているみたいっす。泰山を荒す無頼漢が来るって~」


 無頼漢が来る? それの排除が、この妖怪達の目的?


「天界の使者か? 理由がないと思うが……」


「あ~。この地区は妖怪が多過ぎるので駆除依頼っす」


 ため息しか出ないよ。なんだ、駆除依頼だったのか。

 ここで、妖怪達が襲って来た。

 私は、久々に霊力を全開にする。


「ふうおぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~!」


 私の霊力に触れただけで、妖怪が数匹消し飛んだ。それと、妖怪達の戦意が上がったのを感じる。敵意をむき出しにして来た。


「邪魔をするな! 通らせて貰うぞ!」


「「「断る! 我々の聖地なのだ! 全力で防衛させて貰う!」」」


「押して参る!!」


「「「断るっつてんだろうが!!」」」


 普通であれば、私が霊力を開放するだけで、妖怪共は逃げて行く。だが、今回は逃げないのか。

 ここから、大乱闘となった。

 千切っては、投げる。投げる。……千切る。

 たまに、宝貝パオペイが来るが、破壊する。粗悪品もいいとこだ。もっと、上等なモノを持って来い!


 そして、一時間が過ぎた。



「ふぅ~。片付いたか?」


「死屍累々っすな~。もっと穏便に済ませましょうよ~」


 逃がす道理などなかった。一匹も残していない。殲滅したと思う。


「さて、道草を食ったが行くか」


「試練にもなんなかったっすね~。でもこれで、将来戦う手間が省けましたぜ?」


「どの道、戦ったということか? 障害にすらならないのだが……」


「本来は、ヘーキチさんが戦う相手じゃないっす。雑魚過ぎるでしょ? でも下界のバランスを取るために必要だったみたいっす。結構名簿が埋まったみたいっす」


 良く分らん……。

 私は、話を打ち切って、泰山を登った。

 途中で、落石などが襲って来る。これも試練なのかもしれない。それを、拳で迎撃し破壊した。

 そして、何事もなく山頂に辿り着いた。


「噴火とかないのか。期待してたのだがな……」


「どんな、デンジャラスな登山すか? なにを望んでるんっすか?」


 大鮫魚は、分っていないな。ドラマとなる登山であれば、火山の噴火は外せないだろうに。私は、そんな刺激のある生活がしたかったのだ。


 泰山の山頂には……、天界からの使者が待っていた。

 涼しい顔をしやがって。さっきの妖怪共は何だったんだ。





 今回の被害者……孫悟空、斉天大聖+封神される予定の妖怪仙人達

 孫悟空とヘーキチは、どっちが強いでしょう?

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