第23話 水路

「道順はどうしやすか? 最短距離を進むとなると陸路になりやす」


 突然、大鮫魚だいこうぎょから言われた。しかし陸路?


「川を進めば、辿り着けるのではないか?」


「あ~、ここからは、黄河には繋がっていやせんぜ。どんな道順でも、一度陸での移動が必要でっせ?」


 ふむ……。東の国は、戦争中かもしれない。

 なるべく避けたいな。


「できるだけ、陸路を避けたいのが本音だ……」


「遠回りでも、いいっすか?」


「ああ、頼む。なるべくトラブルのない進路で頼む」


「揚州まで進んで、そっから陸路を選べば、東国の支配している地域からは抜けられやす。未来の斉って土地ですな。それと、殷の太師が、東伯候をなだめている最中ですが、まあ、それよりも東っす。戦争に巻き込まれはしないと思うっす」


 大鮫魚は、この世界の情報を得るスキルを持っているのだな。

 実に頼もしい。


「ふむ。遠回りするのだな。いいだろう、その道で頼む」


 無用なトラブルを避ける。そのために時間をかけるのであれば、不満などない。

 こうして、道のりを大鮫魚に任せて移動することになった。





「あの街は……」


「どうかしましたか?」


 そうだ、『雨琵琶』を欲していた街というか村だ。

 忘れていた。

 そして、『雨琵琶』は、天界が持って行ってしまった。


「どうする? 寄るか? だが、肝心の『雨琵琶』は渡してしまった。なんと言い訳するか……」


「寄りますか~?」


 だが、雨が降っている……。

 天界が、雨を降らせたんだろう。きっと、多分、恐らく……。maybe……。


 私は、考えた挙句、スルーすることにした。

 シルフィーの件もあるんだ。聞かれたら答えられないこともある。


「いや行こう。彼等の望みを叶えたのは私ではないのだ。ここで、お礼と言って何か貰ったら、強盗と変わらない」


「そんじゃ、行きまっせ~」


「うむ。頼むぞ、大鮫魚」


 もう過去のことだ。それに問題も解決していると思われる。


 私は新しいパーティーを組み、未踏の地へと向かう。

 うん、これでいいのだ。結果、オーライだ。





「……なんか川の流れが、変すな?」


「む? どうかしたのか?」


「逆流してやす。なんでっしゃろ……」


 周囲を見る。

 転覆した船が、数艘見えた。


「……まだ、生き残りがいるかもしれない。助けるぞ」


「了解っす」



 転覆した船には、数人が乗っていた。とりあえず引き上げて、川岸に上げる。

 人数の確認を行い、行方不明者がいないことを確認した。

 船は、私が担いで陸に上げた。

 ただし、積み荷はほとんど流れてしまったらしい。

 私でも回収には時間がかかる。それと、沈んでしまった荷物も多いので、諦めて貰う。

 落ち着いたようなので聞いてみるか。


「なにがあったのだ?」


「妖怪の仕業です。船を沈める妖怪が現れて……。全て転覆させられてしまいました」


 ここに悪い妖怪がいたか……。私の旅の目的の一つでもある。


「なるほど。私に任せておけ。退治してやろう」


「けっけっけ……。俺様とやろうってか?」


 気持ち悪い声が聞こえた。

 後ろを振り向く。


「なんだ貴様は?」


「俺様は、摩昴太子だ。悪いが、この川は通行止めだ。大人しく引き返して……」


 ――ボコ


 私は、〈水遁〉を発動して一瞬で間合いを潰した。そして、名乗って来た妖怪に一撃を入れた。

 まあ、水上移動だな。水面を走る。実際は、術がなくてもできるが、踏ん張ると、水面が吹き飛んでしまう。

 妖怪への攻撃は、水中に逃げられると困るので、アッパーカットとした。

 妖怪は、天高く飛んでいる。


「追撃だ!」


 私は〈風遁〉を発動させて、上空へ飛んだ。そして、妖怪にサマーソ〇トキックばりの、空中で一回転した蹴りを喰らわせる。

 その後、妖怪は陸地に墜落した。


「ま、待て! 待ってくれ!」


 陸に上がった河童だな。聞く必要もない。

 そういえば、『雨琵琶』を使っていた、亀はどうしたっけ? 見当たらない。落としたか?


「シルフィーさんが、持ってましたぜ?」


 そうだったのか。一緒に天界に持って行かれてしまったか。

 まあ、余計な思考は置いておこう。

 私は正面の、半分潰れた妖怪を見た。


「……排除させて貰う。貴様のような輩がいるから、人と妖怪が共存できないのだ。今まで命を奪った人達に詫びて来い!」


「ぎゃ~」


 ふう~。悪さをしなければ、出会うこともなかっただろうに……。

 その後、船員に感謝されてその場を後にした。



「良かったんですか~。お礼に何も貰わなくて~」


「彼等も、荷物を失ったのだ。生活が苦しいだろう。それに感謝してくれたのだ。これ以上は、必要ない」


「はぁ~。一瞬だけ器の大きい人物と思っちまいましたよ~」


「それよりも、道草を食った。いや、道草だらけだな。そろそろ向かわないと、天界の使者も帰ってしまうかもしれない。道案内を頼むぞ」


「そいじゃ、急ぎますか~」


 大鮫魚は嬉しそうだった。





 今回の被害者……摩昴太子。西遊記に出てきます。

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