第23話 水路
「道順はどうしやすか? 最短距離を進むとなると陸路になりやす」
突然、
「川を進めば、辿り着けるのではないか?」
「あ~、ここからは、黄河には繋がっていやせんぜ。どんな道順でも、一度陸での移動が必要でっせ?」
ふむ……。東の国は、戦争中かもしれない。
なるべく避けたいな。
「できるだけ、陸路を避けたいのが本音だ……」
「遠回りでも、いいっすか?」
「ああ、頼む。なるべくトラブルのない進路で頼む」
「揚州まで進んで、そっから陸路を選べば、東国の支配している地域からは抜けられやす。未来の斉って土地ですな。それと、殷の太師が、東伯候をなだめている最中ですが、まあ、それよりも東っす。戦争に巻き込まれはしないと思うっす」
大鮫魚は、この世界の情報を得るスキルを持っているのだな。
実に頼もしい。
「ふむ。遠回りするのだな。いいだろう、その道で頼む」
無用なトラブルを避ける。そのために時間をかけるのであれば、不満などない。
こうして、道のりを大鮫魚に任せて移動することになった。
◇
「あの街は……」
「どうかしましたか?」
そうだ、『雨琵琶』を欲していた街というか村だ。
忘れていた。
そして、『雨琵琶』は、天界が持って行ってしまった。
「どうする? 寄るか? だが、肝心の『雨琵琶』は渡してしまった。なんと言い訳するか……」
「寄りますか~?」
だが、雨が降っている……。
天界が、雨を降らせたんだろう。きっと、多分、恐らく……。maybe……。
私は、考えた挙句、スルーすることにした。
シルフィーの件もあるんだ。聞かれたら答えられないこともある。
「いや行こう。彼等の望みを叶えたのは私ではないのだ。ここで、お礼と言って何か貰ったら、強盗と変わらない」
「そんじゃ、行きまっせ~」
「うむ。頼むぞ、大鮫魚」
もう過去のことだ。それに問題も解決していると思われる。
私は新しいパーティーを組み、未踏の地へと向かう。
うん、これでいいのだ。結果、オーライだ。
◇
「……なんか川の流れが、変すな?」
「む? どうかしたのか?」
「逆流してやす。なんでっしゃろ……」
周囲を見る。
転覆した船が、数艘見えた。
「……まだ、生き残りがいるかもしれない。助けるぞ」
「了解っす」
転覆した船には、数人が乗っていた。とりあえず引き上げて、川岸に上げる。
人数の確認を行い、行方不明者がいないことを確認した。
船は、私が担いで陸に上げた。
ただし、積み荷はほとんど流れてしまったらしい。
私でも回収には時間がかかる。それと、沈んでしまった荷物も多いので、諦めて貰う。
落ち着いたようなので聞いてみるか。
「なにがあったのだ?」
「妖怪の仕業です。船を沈める妖怪が現れて……。全て転覆させられてしまいました」
ここに悪い妖怪がいたか……。私の旅の目的の一つでもある。
「なるほど。私に任せておけ。退治してやろう」
「けっけっけ……。俺様とやろうってか?」
気持ち悪い声が聞こえた。
後ろを振り向く。
「なんだ貴様は?」
「俺様は、摩昴太子だ。悪いが、この川は通行止めだ。大人しく引き返して……」
――ボコ
私は、〈水遁〉を発動して一瞬で間合いを潰した。そして、名乗って来た妖怪に一撃を入れた。
まあ、水上移動だな。水面を走る。実際は、術がなくてもできるが、踏ん張ると、水面が吹き飛んでしまう。
妖怪への攻撃は、水中に逃げられると困るので、アッパーカットとした。
妖怪は、天高く飛んでいる。
「追撃だ!」
私は〈風遁〉を発動させて、上空へ飛んだ。そして、妖怪にサマーソ〇トキックばりの、空中で一回転した蹴りを喰らわせる。
その後、妖怪は陸地に墜落した。
「ま、待て! 待ってくれ!」
陸に上がった河童だな。聞く必要もない。
そういえば、『雨琵琶』を使っていた、亀はどうしたっけ? 見当たらない。落としたか?
「シルフィーさんが、持ってましたぜ?」
そうだったのか。一緒に天界に持って行かれてしまったか。
まあ、余計な思考は置いておこう。
私は正面の、半分潰れた妖怪を見た。
「……排除させて貰う。貴様のような輩がいるから、人と妖怪が共存できないのだ。今まで命を奪った人達に詫びて来い!」
「ぎゃ~」
ふう~。悪さをしなければ、出会うこともなかっただろうに……。
その後、船員に感謝されてその場を後にした。
「良かったんですか~。お礼に何も貰わなくて~」
「彼等も、荷物を失ったのだ。生活が苦しいだろう。それに感謝してくれたのだ。これ以上は、必要ない」
「はぁ~。一瞬だけ器の大きい人物と思っちまいましたよ~」
「それよりも、道草を食った。いや、道草だらけだな。そろそろ向かわないと、天界の使者も帰ってしまうかもしれない。道案内を頼むぞ」
「そいじゃ、急ぎますか~」
大鮫魚は嬉しそうだった。
◇
今回の被害者……摩昴太子。西遊記に出てきます。
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