第22話 水害

「雨で、川の水が堰き止められていると?」


「はい。流木が詰まっていまして……。この地域は水没しちまいました」


 それで、この辺は池になっていたのだな。

 しかし、長江付近まで来ると人も住んでいるのか。

 助けない理由などない。


「いいだろう。案内してくれ。私にできることであれば、対処しよう」


「あ、ありがとうございます!」


「ヘーキチさんに対処できない出来事ってなんすか?」



 その場所についた。

 長江という大河に流れ込む支流の一つが、堰き止められていた。

 これはいけない。


「どうするんすか~、これ? 流木が多過ぎて、絡み合ってますね~」


 大鮫魚だいこうぎょからだった。


「破壊しようと思うが? 他になにかあるのか?」


「ここで破壊すると、下流でまた詰まるんじゃないんですかね~? それに一気に放流すると、今度は下流が水没しやすぜ?」


 ふむ……。大鮫魚の言うことも一理ある。

 だが、一本一本取り除いていては、時間がいくらあっても足りない。


「シルフィーさんがいれば、焼いてくれやしたのに~。不要な水も蒸発させて……」


 どんな火力だよ……。

 もうそれに、シルフィーは新しい道を歩み始めたのだ。いない人物に頼ることなどできないだろうに。

 考えていても時間の無駄だ。


 私は、大木を鷲掴みにして大地の方向へ投げ始めた。時間がかかるかもしれないが、今回は手作業だ。





「もう日暮れですので、その辺で……」


「む? そうだな」


「お食事と寝床をご用意させて頂きました。どうぞこちらへ」


 大鮫魚には、水筒に入れる大きさまで変化へんげして貰う。

 私の騎獣だと言えば、人里にも入れるが、無用なトラブルを避ける処置だ。


「む? 米を食べているのか?」


「へい。知っているのですね。北は小麦が主食ですが、我々は米を食べています」


 仙人界で聞いた知識だが……、そうか白い穀物。これが、米か。

 食べてみる。


「……甘いのだな」


 村民に笑顔が戻る。

 それと、焼いた川魚をおかずに貰う。なまぐさ物を食べられるのが、仙人界から降りて来て一番良かった点だ。

 だが、私はもうすぐ仙人となるのだ。

 今だけは、楽しんでおこう。


「もぐもぐ。川は2~3日待ってくれ。手作業だと時間がかかる」


「そ、そんな短期間で?」


 なにを驚くのだろうか? 仙人なら、宝貝パオペイで一瞬だろうに。

 私は、自分の不甲斐なさを恥じた。



 食事を終えて、寝床に案内される。藁を敷いただけだが、柔らかい床で寝るのは久々だ。

 今日は、マイクロスリープを止めて、気持ちよく寝よう。

 大鮫魚が入っている水筒をテーブルに置く。

 そういえば、大鮫魚は食べないのか?


「大鮫魚。何も言って来なかったので忘れていたが、食事はいいのか? 必要なら貰って来るが」


「俺っちには、不要でさ~。まあ、腹減ったら、泳ぎながら川魚でも食べるんで心配無用でっせ」


 ふむ……。人とは違うのだな。

 便利な体だ。

 私は、藁のベットに横になった。





 朝起きて、朝食を頂き、撤去作業だ。

 日が暮れるまで、作業を続ける。

 大鮫魚は、流れて行く流木を陸に上げてくれていた。これで、下流で困る人もいないだろう。本当に頼もしいパーティーメンバーである。

 そんな感じで2日が過ぎた。


「む?」


 いきなり、川を堰き止めていた流木が崩れた。

 どうなっているんだ?


「あ~、重心が崩れましたね。まあ、半分以上撤去したんですし、崩れますって」


 ふむ……。私に土木作業の知識はない。だが、バランスが崩れたのは分かった。

 まあいいか。


「下流に影響は、出そうか? 事前に撤去した方がいい流木を教えてくれ」


「川幅が広いんで、あの量なら問題ないでしょう。ヘーキチさんが、半分以上撤去したんですし。3日もかけたから下流での洪水も少ないでしょうな~。少なくとも鉄砲水は発生しやせんぜ~」


 うむ、水棲の大鮫魚の話を信じよう。

 移動して、村民に報告を行う。


「作業は、ここまでとする。私達にも旅の目的があるのでな。次期にこの地の水位も下がるだろう。米の農作業を続けてくれ」


「十分でごぜえますだ。それで、お礼なんですが……」


「いらん。まあ、また立ち寄った時は、歓迎してくれ。米が喰いたい」


「はえ?」


「何も受け取らないのは、問題ですぜ~?」


 そうなのか?

 その後、交渉して、米を貰うことになった。3年分だそうだ。まあ、私は大食漢なので、3年分なんだそうだ。そんなに食べたかな? 一人前で良かったのに。

 ありがたく、〈収納〉に入れる。


「大鮫魚。それでは、行こうか」


「へ~い」


「仙人ヘーキチ様。社を建てて、後世まで語り継ぎますことをお約束致します。この地の守り神として、未来永劫語り継いで行きます!」


 私は、仙人ではないと言っているのだがな。まあいい。もうすぐ、仙人になれるのだ。遅かれ早かれだ。

 大鮫魚が、動き出し、街を後にした。


「……無駄な時間を取ってしまったな」


「いえいえ~。これで彼等も飢えずにすみやす~。彼らの子孫が、ヘーキチさんを助けてくれることになるでしょうね~。全然、無駄じゃないですよ~」


「それは、何年後だ?」


「ヘーキチさん次第っすよ~。この後、嫌でも人手が必要になりますからね~」


 う~む。分からん……。


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