第21話 天界からの迎え

 天界からの使者と思わる人物に、シルフィーをなだめて貰った。まったく。癇癪が酷い。

 今から、三人と一匹で『雨琵琶』が祭られていた祠で話を聞くことになる。

 だが、予想外の話が出て来た。


「なんだと~う? シルフィーを天女にするというのか? 天界に連れて行く? シルフィーは、"えるふ"と言う妖怪なんだぞ? 天界は、なにを考えている?」


「え~と。まず、エルフ族は、妖怪じゃありません。異世界の人族です」


「へぇ~。知っている人もいるんだ」


「もちろんですよ。他種族からすれば、羨望の眼差しを受ける種族ですからね。天界でも歓迎して迎え入れています」


 シルフィーは、鼻高々と言った感じだ。

 そうか、シルフィーは妖怪ではないかったのだな。下界の民は勘違いしていたのか。

 ふむふむ……。


「だが、私のパーティーメンバーなのだ。天界の命令とは言え、簡単には引き渡せない」


「引き渡してくれるなら、ヘーキチさんに仙人骨をお渡ししてもいいと伺っています」


 なんだと~~~~~~~~~~~~~~~~う!?


「どうぞ、引き取ってください。そして、私を仙人か道士にしてください。おまけで、宝貝パオペイと騎獣をくれれば、一生天界に従います! 忠誠を誓いましょう!」


 頭を下げる。


 ――ゴン


 シルフィーが、殴って来たが、無視する。

 あ……、『火竜鏢』を出して来た。それは、死ねる。危ない。止めよう。

 〈収納〉より縄を取り出して、シルフィーを捕獲する。

 抵抗するな! 縄を焼き切るな! まず、両手を縛ってから、簀巻きにして行く。

 ここで、『火竜鏢』が地面に落ちた。

 猿ぐつわをして、シルフィーの無力化に成功する。



 シルフィーを、天界の使者へ引き渡した。

 シルフィーは、なんか唸っているけど、交渉は終わったのだ。諦めて貰いたいな。


「それでは、まず泰山に向かってください」


「むっ? こう、仙人になれる桃や腕が増える秘術ではないのか?」


「……そんな、マッドサイエンティストみたいなことはしませんよ? 命数を少し変える予定です」


 う~む。そんな方法なのか……。


宝貝パオペイが使えるようになる事が、目的なのかもしれませんが、異形の姿になどなりたくないでしょう?」


「いや、一向に構わんのだが?」


「……なんですと?」


 感覚の違いなんだな……。



 天界の使者は、帰って行った。簀巻きのシルフィーを連れて。

 そして、シルフィーは最後に、「覚えてなさい!」とだけ、吐き捨てて行った。

 一度でもパーティーを組んだのだ。一生覚えているに決まっている。


 落ちている、『火竜鏢』を〈収納〉に入れる。

 ちなみに、『雨琵琶』は天界の使者が持って行った。私に反論はない。依頼して来た街には、事実を伝えようと思う。


「良かったんですか? シルフィーさんを渡しちゃって……」


「天界での待遇も保証されているだろう。それに、珍しいことなのだ。天界が下界の民を望むなど。行った方がいいに決まっている。シルフィーも、天界がどんな所か知らないから、拒否しただけなんだ。まあ、私は行った事はないのだがな」


「は~、女心を分かっていませんね~。必ずまた現れますよ? 復讐しにね……」


 復讐? なんだというのだ、まったく。

 さて、旅を続けよう。


「大鮫魚。泰山の位置は、知っているか?」


「あ~、北東っすね。今、問題になっている朝歌って都のもっと北っす」


 問題?


「何だ、その問題とは?」


「人族の王様が、滅茶苦茶な政治を行って、戦争一歩手前まで行ってるみたいでっせ?」


「……」


 師匠の言葉を思い出す。


『悪政を強いている国を倒し、新国家を樹立させるのじゃ』


 師匠の思惑には乗りたくないな……。

 だが、近づけば、間違いなく戦争に巻き込まれる。

 天界の思惑が、見え隠れする。


「それと、妖怪仙人が多く住んでまっせ~」


 う~む。妖怪仙人か。攻撃して来ないのであれば、友好的な関係を築きたいものだ。

 それに、金鰲島に行って、修行をつけて貰いたい思惑もある……。


「その悪政を強いている王様を鍛え直してみるか……」


「いやいや。天界が、美人な妖怪仙人を送り込んで、国家転覆を狙ってんですけど?」


 ほう……。そうなのか。

 仙人にしてくれるというのだ。天界との関係も壊したくないな。


「スルーで行くか……。人里には、立ち寄らん道筋で頼む。いや、東国の南端の街には寄るか。そこで、雨を降らせて物資を調達しよう。雨は、天界の使者が振らせてくれるはずだ」


「何処までも自分勝手な人でやんすね~」



 私は山を降りた。そこには、この数日降り注いだ雨で池ができている。

 大鮫魚が、元の姿に戻った。その背に乗り、池から川へ移動する。


 大鮫魚に乗り大河の長江を進んで行く。魚に乗るというのもいいものだな。

 騎獣が欲しかった私には、とても嬉しい状況だ。

 これで、大鮫魚が陸も進めたり、飛べたりすれば、一生飼ってやろうとも思える。

 だが、大鮫魚にも目的があるのだ。蓬莱島の守護だったかな?

 互いの利益のため、今は行動を共にしているに過ぎない。


 途中で、『仙人様~。どうかお待ちを~』とか言われるが、無視して進む。

 ……進もうと思ったのだが。


「大鮫魚……、止まれ」


「へ~い」


 川岸で叫んでいる人の近くに移動する。


「どうかしたのか? それと、私は、仙人でも道士でもないのだが……」

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