第20話 雨の降り注ぐ土地3

 河童の攻撃は、落雷だった。

 大鮫魚をシルフィーに預ける。


 河童は、豪雨で身を隠すために移動しているみたいだ。私には見えない。そして、落雷の攻撃を続けている。

 落雷の位置は、危機察知でなんとなく分かるので避け続ける。

 だがいくら私でも、落雷を受けのは不味い。100発も受ければ、私と言えど火傷を負うだろう。ここは、短期決戦だな。


 私は、一足飛びで河童に近づいた。

 雨のカーテンを切り開いて進む。


「なっ!?」


 間抜けな声だな。

 河童の目の前に移動すると、河童が驚いた表情を向けて来た。


「〈索敵〉の術を持つ私に、豪雨による目くらましなど効かんぞ!」


「ぐっ! ちくしょう!」


 どっちが、畜生だ。鏡を見てみろ!

 突っ込みを入れたかったが、河童が攻撃して来た。

 河童に武器はない。素手で組みついて来たのだ。鋭そうな爪と水かきがあるが、脅威にはならない。


 ――ガシ


 組み合ったので、力比べが始まる……。結構強いな。まあ膂力は、私の半分以下だが。


「ふぐぐ……」


 河童の膝が折れた。そのまま、押し倒して行く。

 河童の顔が地面についたので、踵落としを喰らわせる。


 ――パキン


 頭蓋骨というか、頭の皿を叩き割ってやった。


「ふむ。いい勝負だった。また、戦おう」


 河童は、力が抜けてグッタリすると元の姿に戻った。亀の妖怪仙人だったようだ。

 亀を拾い上げると、首を引っ込めた。

 その亀に布を巻いて、紐で縛る。これで手も足も出まい。


「ねえ、ヘーキチ。終わったの? 速くない?」


 シルフィーが、かまくらから出て来た。


「うむ、短期決戦とした。強敵だったが、捕獲した。もう、悪さはできんだろう」


 そう言った時だった。

 雨雲が晴れて、太陽光が差して来た。

 雨が、止んでいたのだ。





 私達は、山頂へ向かった。

 しかし、足場が悪い。滑る滑る。


「ねえ、ヘーキチ。一日待ってもいいんじゃない? 地面が乾くだろうし」


「河童に部下がいた場合、宝貝パオペイを持ち逃げされてしまう。ここは急ぎたい場面だな」


「む~。珍しく正論だ」


 なんだ、珍しくって。私は、正論しか言わない。

 ここで、シルフィーが足を滑らせて、地面に倒れ込んだ。


 ――ベチャ


「うえ~~~」


 全身泥だらけだ。

 思わず、笑ってしまった。

 その後、シルフィーの炎攻撃が来る。もう、ネタが分かっているのだ。全て避ける。

 あっ……。『火竜鏢かりゅうひょう』は止めよう。


 私は、シルフィーを置いて、先に進み、そこで腰を下ろしていた。

 シルフィーは、地面を焼くことを思い付いたみたいだ。

 焼き固められた道を登って来る。階段だな。炎魔法と土魔法による道の作成か。考えたものだ。それと、帰りは楽そうだ。

 シルフィーは、私を視認すると、また攻撃して来た。

 私も滑らない道を登らせて貰いたかったが、無理そうだな。

 噴石があちこちにあるので、それを足場に駆け上がって行く。


「なんというか、シルフィーは元気だな。これなら大丈夫だろう」


「分かってませんね~」


 シルフィーの攻撃を避けつつ、私は山頂へ向かった。





「おお、……あった」


 そこには、祠があり中に祭壇があった。

 そして宝貝パオペイだ。『雨琵琶』がある。山頂に祭られていたのか。

 だが分かる。私が触れば、霊力を抜かれて死ねる。

 まだ私には、仙人骨がないのだ。

 ここで、シルフィーが来た。


 『雨琵琶』の前で立ち竦んでいる私を見て、嘲笑を送って来た。

 そして、『雨琵琶』を手に取った。


「ふ~ん。これも凄いお宝ね~。水系統なんだ~」


「……」


 そうですか……。


「それでは、帰ろうか。ここから北に向かい、街に雨を降らせる。それで依頼完了だ」


「え~、どうしよっかな~」


 むっ? 突然シルフィーが訳の分からないことを言い出したぞ?


「おいおい? 困っている人達を助けないというのか? 何のために、砂漠を越えてこの山に登ったというのだ」


 目的を忘れたのか? 砂漠を越えて、遺跡を巡り、雨の降る山を登ったというのに。


「……ヘーキチは、困っているわたしをからかって、楽しんでいたわね~」


 冷汗が出る。こんなに追い詰められた感覚は久々だな。


「ヘーキチは、アメビワを使えないのよね~。どうやって、雨を降らせるつもりだったのかな~」


「いや……、シルフィーさん?」


 ――ベン


 シルフィーが、琵琶を鳴らした。

 私の近くに、落雷が落ちる。


「ヘーキチさん。謝った方がいいでっせ……」


 大鮫魚は、いまシルフィーが持つ水筒の中にいる。

 ここで、裏切られるとは……。


「待て、シルフィー。落ち着け。話し合おう」


「問答無用! これでちょっとは反省しなさい!」


「待ちなさい……。これ以上、環境破壊を深刻化させないでくれ」


 ここで、声をかけられた。結構な危機感で、〈索敵〉が疎かになっていたな。

 それとシルフィーは、固まっていた。知り合いなのか?

 その人物を見る。


「その服装は……。天界の使者か?」





 今回の被害者……河童。河伯は、中国神話に登場する黄河の神。

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