第19話 雨の降り注ぐ土地2

 雨に打たれ、日に数十キロメートル進んだら、シルフィーのかまくらで休む。

 余りにも雨が酷いからだ。

 その繰り返しで、数日が過ぎた。


 途中に川があるが、入ることはできない。その場合は、シルフィーを担いでジャンプだ。

 道なき道を進むため、藪に入ることもある。その場合は、霊力を放出する。そうすれば、蚊などは、私に触れただけで死滅している。まあ、威嚇なのだ。虫は避けているか。

 シルフィーは、火魔法を纏っている。シルフィーは実に多彩だな。炎や土を自在に操れる感じだ。

 『火竜鏢』も使いこなしているし……。


 そして、目的の山に辿り着いた。


「行くか……」


「……整地されていない山なのね。足場が悪そうだわ。それと、落石が怖いわね」


「それほど、斜度はない。直進するぞ。一気に山頂まで行く」


「山頂は、雲に隠れて見えないんだけど?」


「私は、もっと高い場所で修行を積んでいたのだが?」



 無駄な口論を終えて、登山を開始する。

 邪魔な木や岩は、シルフィーが、『火竜鏢』で焼き払ってくれる。土がガラス化しているので、かなりの高温となっているようだ。シルフィーは、宝貝パオペイを理解し始めたのだな……。


 羨ましい……。

 私もきっと、そのうち、必ず手にしてみせる!

 仙人骨を手にする方法はあるはずだ。

 私ほどの人材が、宝貝パオペイを扱えないなど、あってはならない。

 私は、決意を新たにした。


 シルフィーの予想通り、落石が私達を襲う。そして、雷もだ。

 落石は、拳ではじき返すが、落雷は、避けられない。なので、気にしないことにした。大鮫魚が、痛がっているが、我慢して貰う。


 シルフィーは、魔法で防御しているな。実に多彩だ。異世界転移前は、平民と言っていたが、勇名を馳せていた人物だったのかもしれない。謙遜してたのかもしれないな。

 いや待て……。シルフィーレベルが一般人の世界? そうなると、最上位はどうなる? 興味深い世界だな。修行先としてありかもしれない。


 考えていると、雨が強くなって来た。

 登るなと言わんばかりだ。

 あまりの雨量で、視界がほぼ塞がれてしまった。


「ヘーキチ! 一旦止まりましょう!」


 そう言うと、シルフィーは、またかまくらを作ってしまった。

 同意を取って来たのではないのか?

 まあいいが。

 私もかまくらに入った。



「ふぅ~。『雨琵琶』だったか。天候操作系の宝貝パオペイ……。面倒だな」


「攻撃系じゃないだけ、まだましよ。カリュウヒョウみたいのだったら、無傷とは行かなかったわ」


「俺っち、落雷で被害を受けてんですがね~」


 それぞれが、意見を出し合う。いいパーティーになって来たな。


「問題は、この豪雨だな。だが、止むまで待つ選択肢はない。強行突破だ」


「落雷対策……」「〈光遁〉の術!」


「共に却下」


「「意義あり!」」


「申請を却下、破棄、棄却。作戦は、特攻・前進とする。目的地は目の前だ」


 シルフィーと大鮫魚が、抗議して来る。正直、五月蠅いな。

 こうして、意見を出し合って、夜が更けて行った。





 夜が明けたので、外を確認することにした。


「川が氾濫しているな。いや……、もう一面水に埋もれている。どれだけの雨量がある土地なのだ?」


 山裾の平地は、水没していた。

 これが、宝貝パオペイの力だ。悪用を考えれば、切りがない。


「一刻も早く止めなければ……」


 決意を新たにする。

 しかし、豪雨が止む気配がない。

 そして、私達が山に入ってから、雨量が増えたことが伺える。


「誰かが、宝貝パオペイを操っているのか?」


「今頃気が付いたの?」「遅いでやんすね~」


 ここで、シルフィーがかまくらから顔を出して来た。

 まあ、行ってみれば分かるか。

 うむ、やはり強行突破が妥当だ。


「ねえ、ヘーキチ。どんな魔力の持ち主でも操作系には限度があるんじゃない?」


「なんだ、シルフィー? 何が言いたい?」


「考えたんだけど、今回の宝貝パオペイって、周囲の雨雲を集めてるんじゃない? そうなると、雨雲がなくなった時点で、無効化できると思わない?」


 一理ある……。『雨琵琶』を望んできた街は、東国の南端であり、今いる山に近い。

 私達は、砂漠越えからの遠回りを経て、今この山にいる。結局は、あの街に近いところにあったのだ。

 まあ、それはいい。

 シルフィーの言わんとしていること。


「……この山の周辺の土地は乾いている。それにも限界がある……。待つか?」


 シルフィーに笑顔が戻った。

 その時だった。私の〈索敵〉になにかが引っ掛かった。

 豪雨でその方向は見えない。どうやら、山頂から降りてくるようだ。

 暫く待つと、その者が現れた。


「俺は、河童だ。元の名前は、河伯だが、もう天界の指示に従う気はない! 帰ってくれ!」


 そうか……。こんな奴もいるのだな。

 私と同類の匂いがする。

 だが、下界に仇なすなら、見過ごせない。


「排除させて貰う。それと宝貝パオペイは貰うぞ」

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