第18話 雨の降り注ぐ土地1

 南極仙翁は、帰って行った。必要な情報だけ教えに来てくれたみたいだ。

 無駄な時間を取ってしまったが、無事、遺跡探索は終わった。終わったのだ。

 全員無事だし。

 今度は、再度の砂漠越えだ。

 だが、今回は、大鮫魚がいる。


「ねえ、無駄足になっていない?」


 シルフィーが言いにくいことを、直球で投げて来た。


「いや……。街の人達にないことを伝えれば、今後犠牲者も増えんだろう」


 シルフィーの不機嫌は、最高潮のようだ。もっと上がないことを祈ろう。

 大鮫魚は、まずオアシスの場所を示してくれた。

 半日で辿り着く。

 オアシスの水は、浄化されており飲料水として使えた。これで、砂漠を越えられるな。

 やはり、水は必要だ。一息つけた。


「さて行くか」


「……」


 シルフィーの機嫌は治らない。まあ、いいのだけど。

 パーティーは、ここまでかな。砂漠を越えたら、分れるのもいいだろう。


「ねえ、〈光遁〉の術を使ってよ。目的地が分かってんだからさ」


 シルフィーからの、依頼と言うより命令だった。


「数に限りがある。歩けば目的地まで行けるのだ。今回は使えない」


「使えって言ってんのよ!」


 シルフィー……。そんな目で人を見るもんじゃないぞ?

 私は、思案の末、〈光遁〉の術を使うことにした。残りの数が、心許なくなって来たな。





「ここら辺か? 雨が凄いな」


「……そうね。昼間なのに暗いし、日照不足で雑草すら育ってないわ。それと、人が住んでいない……。疫病かな?」


 ふむ……。人の根付かない土地か。

 今の時代は、まだまだ人の数が少ない。住みにくい土地となるのだろうな。


「さて……。霊穴は、何処だ?」


「あの山ね。あそこから、魔力を感じるわ」


 シルフィーが、指差した方向を見る。

 行ってみるか。


「あ~、ヘーキチさん。水には触れないでくだせえ。寄生虫が、凄いことになってますぜ。それと、蚊と蠅にも注意してくだせぇ……」


 むむ……。怖い土地なのだな。


「それと妖怪仙人が、おりやすね。彼等の住みやすい土地に変えたんかな~?」


「ほう……。討伐の必要はあるか? 南極からの依頼だが、確認したい。大鮫魚の意見を聞かせてくれ」


「無人の土地だったんですぜ? 悪さはしてないんじゃないんかな~?」


 ふむ……。考えてしまう。

 土地を自分の住みやすい環境に変えただけ……。そして、元から無人の土地……。

 邪魔だからといって、討伐するのは、盗賊と変わらない。

 私は、そこまで非道ではない。

 妖怪を、害虫駆除感覚で追い出す気はなかった。ただ、宝貝パオペイを強奪してみようとか考えるだけだ。


「とりあえず、目的のお宝だけ、回収しましょうよ。それで、この雨雲も晴れるだろうし」


 シルフィーの言う通りだな。私も同意見だ。

 宝貝パオペイだけは、回収しないといけない。

 悪用とは言わないが、独占しているのは問題だ。

 仙人界に戻す気はないが。


「よし……。まず、宝貝パオペイの回収を行う。妖怪仙人は、襲って来たら討伐する」


「りょ~かい」「それで行きまっしょ~」


 私達は、歩を進めた。





「雨が凄い降って来たな……」


 雨中の行進は、体力を削られる。


「あ、雨宿りしましょう。寒いわ……」


 その辺の長い草で組んだ|蓑〈みの〉で雨具を作ったが、完全には水を弾けない。ナイロンやポリエステルが欲しいな。ポリ塩化ビニルも、手に入るのであれば欲しい。

 まあ、時代に合っていないか。科学技術が発展するのを待つしかない。


 シルフィーを見る。限界のようだ。


「何処で休む?」


「ここで……」


 シルフィーが魔法を使った。土が盛り上がって行く。


「土でできた、かまくらか。考えているな」


「私の転生前は、これで休んでいたの」


 ほう……、テントではないのだな。こんな方法があるのであれば、砂漠でわざわざテントを建てる必要もなかったのに。

 だが面白い。私ならどう作るか……。作れそうにないな。

 う~む。拳でクレータを作っても雨宿りはできない。

 築くというのは、私には向いていないな。


 その後、シルフィーの作ったかまくらへ入ることになった。





 かまくらの中で、シルフィーが火魔法を発動してくれた。温かい。

 濡れた服を干して、乾かして行く。


 シルフィーが私の横に座った。

 そして肩に頭を乗せて来た。


 シルフィーも疲れているのかもしれない。

 私は、〈収納〉より薪を取り出した。

 それに火をつける。焚火を作ったのだ。

 喚起にも気を付ける。一酸化炭素中毒は避けたい。


「これで魔法を止めてもいいぞ。それと、眠いのか? 休んで良いぞ?」


「……」


 シルフィーは、無言で離れた場所に移動して、寝てしまった。

 私は、火の番をする。

 私には、マイクロスリープがある。時間的な問題などない。


「は~、ヘーキチさんは、女心が分かっちゃいませんね~。もっとデレさせてあげましょうよ~。可哀相でっせ……」


 大鮫魚からだった。


「そうか? 疲れていたのだろう? シルフィーの火魔法に頼っていては、シルフィーも休めないと思い、こうして薪を出したのだ。問題などないと思うが?」


「……」


 大鮫魚も黙ってしまった。道案内で疲れているのだろう。

 私は、マイクロスリープを発動させた。

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