第17話 遺跡4

「『雨琵琶あめびわ』ってお宝が、あったみたいだわ」


 あったみたい?


「その言い方だと、もうないということか?」


「う~ん。この玄室にあったみたい。でも、なにもないでしょう? それと、カリュウヒョウと同じみたい。仙人? 道士? 以外が触るの禁止って書いてある」


 む……。宝貝パオペイだったのか。

 仙人が関与している? いや、仙人界か?

 だが……、下界に宝貝パオペイを奉納する意味が分からない。

 例えるなら、神社に爆弾を奉納するようなものだ。


「いや、待てよ。霊穴なる場所に自動発動型の宝貝パオペイを設置した? この遺跡は、元々砂漠以外の場所にあり雨を降らせていたと考えれば……」


「ねえ、ヘーキチ。どうするの? 帰る?」


「少し待ってくれ」


 考えを纏める……。

 下界に、放置された宝貝パオペイがある。


「……欲しい。探そう……」


「「えっ? 欲しい?」」


「いや、回収しよう」


「今、『欲しい』って言わなかった?」


「聞き間違えだ」


 うむ、下界に危ない物を放置しておくなど、問題でしかない。

 回収しよう。


「大鮫魚……。この辺で雨が降り続いている場所はないか?」


「ありませんぜ?」


 霊穴がないと、発動しない……か。

 最悪、砂漠に埋もれている可能性もあるな。


 道中に、人骨はなかった。

 蟲に食べられたのかもしれない。手掛かりがないな。

 チラッと見る。


「ん? なに? ヘーキチ?」


 ……シルフィーに頑張って貰うか。





「はあ、はあ……」


「シルフィー。次は東だ」


「ちょっと! 魔力を放出するのは辛いのよ?」


 私達は、遺跡の外に出た。そして、砂の影響を受けない場所で作業を始めたのだ。

 今は、シルフィーに頼んで、広範囲に霊力を放出して貰っている。シルフィーは、魔力と言っているが、文化の違いなのだろう。細かいことに気を使っても意味はない。

 近くに宝貝パオペイがあれば、反応すると思うので、ローラー作戦の決行に踏み切ったのだ。


「頑張れ、シルフィー! これは世界の為でもある!」


「ねえ、本当に砂漠の中にあるの?」


「確証はない……。だが、可能性はある。試してみる価値はあるはずだ」


 シルフィーが殴って来た。

 ポカポカではない。石を握って、殺意を込めた一撃だった。

 まあ、私の頭蓋骨は、石よりも硬い。

 シルフィーが、手を痛がっているな……。まったく、無駄なことを。


「遺跡は動いているのだ。次はまだか?」


 シルフィーが、涙目で睨んで来た。

 ふぅ~。代われるものなら代わりたいものだ。

 だが、私の霊力では、宝貝パオペイは反応しない。

 ここは、シルフィーに頑張って貰うしかないのだ。





「ひゅ~、ひゅ~……」


 シルフィーが、骨と皮になっている……。見るからに限界だな。


「今日は、ここまでとしよう」


「……何時まで続けるの?」


「見つかるまでだが?」


 シルフィーが、倒れた。

 ふ~。ここは、まず食事からだろうに。

 私は、シルフィーを担いで、遺跡の中に戻った。



「ヘーキチさん。シルフィーさんには、優しくないっすね」


 突然、大鮫魚から言われた。


「そうか? 私の修行の中には、仙人界の何処かに隠された物を探すという、訓練もあった。あの時は、数年かかったよ。そして、仙人界を壊しまくって、洞府の主に怒られたのはいい思い出だ」


「常識が、普通の人とかけ離れちまってますな。これが、仙人なんかな~」


「私は、仙人にも道士にもなれなかった、一般人なのだぞ?」


「……俺っちも金鰲島の仙人は知ってますが、ヘーキチさんは仙人以上っすよ~」


宝貝パオペイを使えないのだぞ? 道士以下、普通の人以上だ」


「天然道士で、仙人以上の人材もいますんでっせ?」


「私は、天然道士でもないのだが?」


「じゃが、仙人と互角に戦っておったじゃろう?」


 む? 誰だ? 後ろを振り向く。


「南極……? どうしたのだ? 何故下界にいる?」


 私の修行仲間だった、南極仙翁がそこにいた。私の〈索敵〉にも反応しないとは……。腕を上げたな。


「目的の宝貝パオペイの場所を教えに来ただけじゃ。それと、そこのエルフの娘を死なせたくないと連絡を受けてもいる。死の直前まで酷使するでない。それで、儂が派遣されたという訳じゃ」


 ほう? 仙人界も困っているということか。

 シルフィーは、今は骨と皮だが、話す体力はある。死にはしないと思うんだが。それでも、心配で来たのか。……シルフィーには、何かあるんだな。


「それと、下界をあまり壊すな。自重しろ」


「……何か壊したか?」


「今、そのエルフの娘は死にかけておらんか? お主の常識を他人に押し付けるな!」


 シルフィーを見る。ミイラだ。骨と皮だ。

 だが、誰もが通る道じゃないか?


「共に修行した仲だろうに。この程度の試練、何度も乗り越えたじゃないか?」


「崑崙山って、凄い訓練をしてるんすな~」


 南極と共に大鮫魚を見る。この分だと金鰲島は、温い修行をしていそうだ。


「ごほん。南東に行け。そこで、雨が降り続いている場所がある。霊穴を探せば、すぐに見つかるじゃろう。それと、妖怪仙人がいるので、排除も頼む」


「確認なのだが、日照りで困っている街に持って行くぞ?」


「そこに霊穴はないぞ? 持って行ってどうするのじゃ?」


 む……。そうか。シルフィーに頑張って貰うことがまた増えたな。

 今のシルフィーは、ミイラ状態だが……、もっと絞ってみようか。なにか出るかもしれない。


「定期的に、崑崙山から仙人を派遣して、雨を降らせるというのはどうじゃ?」


 ほう? 協力してくれるのか。

 いいだろう。今回は、手を組もう。

 それと、南極仙翁は、"薬丹"をシルフィーに使った。数分でシルフィーが回復する。


「シルフィー。大丈夫か? それと、明日から移動となった」


「結局、砂漠にはないんじゃない!」


 シルフィーの悲鳴が木霊した。

 開口一番それか。ミイラ状態でも、聞いていたのだな。

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