第16話 遺跡3

「ヘーキチさん。やばいでっせ……」


「むっ? なにか来るのか?」


 大鮫魚だいこうぎょからだった。

 私の〈索敵〉には、なにも引っかからない。

 だが、次の瞬間に、遺跡が揺れた。


「あ~、これから流砂に乗って、遺跡が移動ですわ~。遺跡探索は、一度中断して安全な場所に移動しやそうぜ?」


「きゃあ!?」


 シルフィーが抱き着いて来た。

 『火竜鏢』は、マントの下だ。大丈夫だ、私には触れていない。

 こらこら、胸を押し付けてくるな。それと、腕が痛いのだが。


「安全な場所とは、何処だ? いや、この遺跡の中にあるのか?」


「玄室がいいでしょうね。もう、盗賊に持ってかれて空っぽだけど、作りは頑丈なんすよ」


 大鮫魚は詳しいのだな。実に頼もしい。


「分かった、大鮫魚。案内を頼む」


 シルフィーを担いで、大鮫魚の指示する方向に進む。時短だ。

 途中で、天井が落ちて来た。シルフィーの頭に小石が直撃する。


「いった~い!」


「む? すまん。だが、日頃の行いもあるな。自重しろ」


「……焼かれたい?」


 シルフィーが、凍った笑顔で怖い発言をして来た。


「それよりも灯りを頼む。小石に躓きたくない」


「ヘーキチが発光すれば、いいんじゃない? 明るくなりそうだわ~」


 何を言っているのか……。異世界にはそんな術があるのか?


「ヘーキチさん! 次は右っす。それと、石畳が脆くなってやす。踏み抜かないように、気をつけてくだせえ」


 私は、壁を走った。シルフィーの悲鳴がうるさいな。

 しかし、先ほど盗賊と言ったが、良くこんな場所の探索ができたものだ。

 下界にも、優秀な盗賊がいるんだな。関心する。


 うねる床、落ちて来る天井、狭まる壁を避けながら、私達は進んで行く。

 ここで、シルフィーが『火竜鏢』を投擲した。

 炎で灯りが確保される……。始めからやれと言いたい。

 そして、それを見た私は止まった。


「毒虫の巣か……」


「さっきから、異常な気配を感じていたけど、ここまでとはね……」


「あちゃ~。時期的にまずかったっすな~。繁殖期だったか~」


 天井から床まで、びっしりと蟲で埋まっている。

 大鮫魚としても予想外だったらしい。


「どうする? 強行突破するか? 駆除するか? 時間はどれくらい残されている?」


「そこは、『引き返すか?』じゃない?」


 シルフィーから意味不明な突っ込みが来た。

 なんのために、砂漠越えを行ったのか、分っているのだろうか。

 私達に引き返す選択肢などない。


「とう!」


 ここで、シルフィーが『火竜鏢』を投げた。

 蟲が炎に飲まれて行く。

 私も使いたいな……。


「やっぱ凄いわ、この魔導具。カリュウヒョウだっけ? わたしが貰うね」


「……ダメだ。売り払って旅費に変える予定だ」


「ケチ!」


 嫉妬などしていない。

 元々、そういう予定だっただけだ。


「お取込み中、失礼しやす。今なら通れまっせ~?」


 前を向く。

 確かに炎を恐れて、蟲達が逃げて行く。


「玄室には、蟲はいないのか?」


「あそこは、蟲は寄り付かない構造になってやす~」


 私は、霊力を開放した。全速力で駆け抜ける。

 私が生み出した風速で、蟲達が吹き飛んで行く。そして、風に煽られて、炎が舞い上がる。

 密室や、狭い範囲での炎攻撃は有効だ。

 だが、問題もある。

 酸素がなくなってしまうのだ。


「窒息する前に、移動しなければ……」


 私は、更にスピードを上げた。

 蟲は、私の生み出す衝撃波で吹き飛んで行く。

 よく考えたら、私にとって罠にすらならなかったな。





「ふぅ~。助かったぞ、二人共。もう安全だ」


 シルフィーは、酔っている。顔が青い……。戻すなよ?

 水筒に入っている、大鮫魚は分からないが、褒められて喜ばない奴はいないだろう。だが、返事がないな。


「しかし、なにもない部屋なんだな……」


「「……」」


 二人からの返事がない。生きているのか?

 シルフィーは、髪をかき上げて、埃を払い出した。生きているのなら、返事くらいしろ。大鮫魚も水筒の中で泳いでいるしな。

 ったく、なにが不満だったというのだ。安全に玄室に辿り着けたというのに。


 床は揺れている。遺跡は移動し続けているみたいだ。

 だが、この玄室は、崩れる気配がない。不思議な構造だな。



 シルフィーが、回復した。壁に刻まれている文字を読んで行っている。

 私は……、読めない、異国の文字だからだ。


 しかし……、これから暫くは動けないな。

 目的の、宝も探さないといけないというのに。


「ねぇ……ヘーキチ。雨を降らせるんだよね? その為のお宝を求めて来たのよね?」


「む? そうだが、なにか書かれているのか?」


「うん……。私はね、異世界定番スキルの〈言語理解〉を持っているの。それで読めるんだけど……」


 ほう? バイリンガルというやつか。

 シルフィーは、凄い才能の持ち主だったみたいだ。

 それと、『異世界定番スキル』とはなんなのだ? シルフィーは、異世界を渡り歩いているのだろうか?

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