第15話 遺跡2

 遺跡の中を進んで行く。今のところ危険はない。構造もある程度は把握している。

 危険と言えば、遺跡が移動して、床が揺れるくらいだ。

 時々、天井が落ちて来るが、避けるのはたやすいな。

 それと、抜けた床か……。慎重に避けながら進んで行く。


「ねえ、ヘーキチ。松明はないの?」

 

 シルフィーからの質問だった。


「用意していない。私は、夜目が効く。不要だ」


「ふ~ん。〈暗視〉を持っているってことね……」


 術ではないのだがな。

 生れ付いて、僅かな光で全てが見えるだけなのだが……。まあ、否定する意味もない。それに、僅かな音で、狭所空間なら把握できる。

 シルフィーは、知らないのだろうか? コウモリは超音波パルスを発して、周囲からの反射音エコーを聴取し空間把握するのだぞ? 野生生物ができて、私達人間ができない理由などない。


「もしかしてシルフィーは、見えるのか? 術か?」


「見えないから、壁に手を当てて進んでいるんだけど?」


 落とし穴とか、サソリとかはどうするつもりなのだ?

 そう思ったら、シルフィーが左手から火魔法を放った。掌の上で炎が止まっている。そして、遺跡の通路が照らされた。


「ほう……。便利な術だな。炎を維持するのか。シルフィーは、炎に深い造形があるのだな。魔法だったか?」


 砂漠で、炎を私に連射して来て、力尽き倒れたのを覚えているぞ。言わないが。

 嬉しそうな表情をする、シルフィー。


「まあ、属性魔法の中では一番得意かな。もちろん他の属性も使えるよ」


 ここで思いついた。

 私は〈収納〉から『火竜鏢』を取り出した。

 陳桐から奪ったモノだ。どこかの仙人に売ろうと思い持っていた。


 私は触れないので、落としたと言った方が正しいか。

 それを、シルフィーが拾った。


「おいおい、大丈夫か?」


 説明する前に、シルフィーが拾ってしまったのだ。

 私は、触れないというのに。不用心すぎるな。

 この後、ミイラになるまで霊力を吸い取られるだろう。回復は面倒だから、担いでの移動かな。


「うん? これ、触っちゃいけないモノだったの? 少し魔力を吸われるけど、問題ないわよ? それで、これはなに?」


「なんだと~う?」





「とう!」


 『火竜鏢』が、炎を撒き散らしながら飛んで行く。

 私は……、唖然として見ている。


「へぇ~。面白い魔導具ね。燃料もないのに消えない炎か。しかも、ブーメランみたいに戻って来るし。この世界は、魔法より魔導具が発展してるのね」


 遺跡は、消えない炎で隅々まで照らされて、その姿を現し始めた。石でできた古代遺跡といった感じだな。

 戻って来た、『火竜鏢』をシルフィーが、キャッチした。使いこなしているじゃないか……。少なくとも、陳桐よりは上手い。


「なんで、ムスっとしてるの?」


「……別に」


 嫉妬などしていない。何時か、何時か必ず私も宝貝パオペイを使いこなして見せる!

 気持ちを新たにした。

 そして、不思議に感じたことがあった。


「シルフィーは、仙人骨を持っているのか? 生れ付いてなのか?」


「センニンコツってなに?」


 ここに疑問を感じる。

 異世界人特有の特異体質なのか? もしかすると、シルフィーのいた世界は、この世界で言う仙人しか住んでいないのかもしれない。

 異世界……。そんな世界もありえるのか。

 考えていると、シルフィーが『火竜鏢』を私の頬に当てた。


「ぐおおお!?」


 気を抜いていた。無防備になっていたか。

 一瞬で、霊力、体力、気力を持って行かれる。後少しで、ミイラになっていた。


「ちょっと? どうしたの?」


 はあはあ、危ない。後一歩で命まで吸い取られる所だった。

 まさか、パーティーメンバーに殺されかけると誰が思いつくだろうか。


 そこで意識が途切れた。





「むっ?」


「あ! 起きた!」


 シルフィーに膝枕されていたか。こんな無防備な姿を晒したのは、何十年ぶりだろうか。

 私もまだまだだ。


「……どれくらい寝ていた?」


「一時間くらいかな? それにしても、大丈夫なの? いきなり倒れたから驚いたわよ?」


 誰のせいで死にかけたと思っている!?

 殺人未遂だぞ!

 その前に、謝れ!

 いやいや……、大人になろう。落ち着こう。


「私は、宝貝パオペイに触れると、全てを持って行かれる。他の、宝貝パオペイでも同じだ。これは、私だけではない。この世界で仙人骨を持たない者は、全て同じなのだ」


 ここで、シルフィーがいやらしい目で私を見て来た。


「ふ~ん。ヘーキチでも苦手なことがあるんだ~」


「それを克服するために、50年もの修行を行っていたのだ。それと、私をなんだと思っていたのだ?」


「う~ん。ステータス極振りの脳筋?」


 この私が、脳筋だと?


「この知性あふれる顔を見ろ! 何処が、脳筋だ! 私は、座学では一位だったのだぞ!」


 シルフィーが大笑いする。


「あはは。顔は……、まあまあ整っている方かな? でも、首から下は、マッチョじゃん?」


 その後、私は無言で食事をとった。とりあえず、回復しなければ始まらない。

 そんな私を、シルフィーは、楽しそうに見ている。


 誰のせいでこうなったと思っているのか……。

 私は、死にかけたというのに!

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