第14話 遺跡1

 妖怪は、生きていた。

 私の拳を喰らって生きているのか。強い部類かもしれない。その功夫クンフーを生かせばいいものを……。

 その後、止めを刺そうと思ったのだが……、人化して話を聞いて欲しいと言って来た。妖孽ようげつを覚えているのか。半妖態は、趣味が悪いとしか言えなかった。まあ、はったりには使えただろうが。

 あ……、そういえば、蓬莱島の話を聞きたかったのだった。


 私も聞くことがあったのだ。

 シルフィーの対処で、すっかり忘れていた。

 ちなみに、シルフィーは魔力切れを起こして、グッタリしている。

 砂漠で無駄な体力を使うとは……。基本がなっていないぞ。


「少し話そうか。天界が絡んでいると言っていたな」


「おねげぇしやす」


「たしか……、本当は海に住んでいたのだったよな? それが天界によってこの場所に監禁されたみたいなことを言っていた気がする」


「はい……。ですが、弟弟子の方がデカくなっちまって、俺っちは追い出されて……。天界に文句を言ったら、与えられたのが、この小さい湖だったんっす……」


 話を聞くと、妖怪の姿に戻るとなると、湖より大きくなるらしい。

 人化……、妖孽ようげつとしてでないと過ごせなのだとか。

 偶に来る、人を意味もなく襲うのが、唯一の楽しみだったのだとか。まあ、物資の調達になるんだろうな。


功夫クンフーを積めば、逃げ出せるんじゃないのか?」


「千年は、かかりやす……」


 う~ん。今すぐにでも海に帰りたいのか。


「どうするつもりなの?」


 シルフィーを見る。回復したようだ。しかし、そんなダラけた姿で言っても説得力がないぞ。

 淑女らしく、背筋を伸ばせ。


「……蓬莱島までの、道案内を頼めるか?」


「へ、へい! もっと北に行くと大きい川が二本あります。そこまで連れてってくれれば、海まで行けまっせ!」


 決まりだな。いい道案内役になりそうだ。

 少なくとも、シルフィーよりは頼りになると思う。


「私達は、この近くにある遺跡に用がある。そこで、あるモノが欲しいのだ。その後であれば、海まで連れて行ってやる。まあ、道案内はお前だがな。私達は、足になってやろう」


「その遺跡の場所なら知ってまっせ」


 ほう?

 その後、その妖怪……大鮫魚だいこうぎょと名乗った妖怪は、水筒に入るほど小さな魚になった。

 水はまだある。今回は、大量に持って来たのだから。


「シルフィー。陽が落ちたら移動しようと思う」


「……りょ~かい。良かったわね~、頼れそうな道案内役ができて~」


 そのだらしない格好を止めろ。


「へへ、任せてくだせぇ」


 この後の方針が決まった。

 この湖も、戻って来る頃には、浄化されているだろう。





 陽が落ちた。

 さて、移動だ。テントを畳む。


「大鮫魚、どの方向に向かえばいい?」


「ちっとばかし、待ってくだせぇ。あの遺跡は、砂漠の砂で移動してるんでやす」


 ほう? 遺跡が移動?

 それで、誰も見つけられなかったのか。


「あ~で、こ~で……。ここに砂丘ができてるから……」


 計算が必要なのか? 砂漠の移動には、計算が必要らしい。

 私の修行場としては、向かないな。


「ヘーキチさん。右手方向に進んでくだせぇ。都度、微調整しやす」


「分かった。頼んだぞ、大鮫魚」


 今日は信じてみよう。

 シルフィーを見る。回復したようだが、不満も持っているといった表情だ。

 だが、シルフィーの道案内で迷ったのだ。シルフィーの六分儀には、頼りたくない。

 今日は、大鮫魚に道案内を頼むとも決めた。


「行くぞ」


「りょ~かい」「道案内は、任せてくだせぇ」





「近くだったんだな」


「……凄い、本当に見つかった」


 移動時間は、僅か1時間程度だった。

 砂に半分埋まった遺跡に辿り着いた。


「急いで入り口を探してくだせぇ。移動し始めると、また埋まっちまうんで」


 今日は運が良かったみたいだ。いや、大鮫魚が頼もしいのかもしれない。

 私達は、遺跡を登り始めた。

 しかし、入り口とはどんな形なんだ?


「ここに、亀裂があるわ。入ってみる?」


 シルフィーがなにか見つけたようだ。

 確かに、入れそうな、穴がある。


「大鮫魚。どう思う?」


「中に入れさえすれば、迷うこともないっすからね。行ってみてもいいちゃ、いいかも? 罠もありやすが、盗賊が受けるか壊すかしているので、ほとんど残っていないと思うっす」


 罠があるのか……。まあ、〈索敵〉を持つ私に不意打ちなど効かないが。シルフィーが、鈍いので受けそうだな。その都度、回復では移動に時間がかかる。


「失礼なことを考えている顔ね?」


「いやなにも?」


 とりあえず、調べてみるか。

 私は、石を拾って投げてみた。壁や床に当たりながら投石が進んで行く。

 その音を聞き分けて、中の構造を把握する……。ソナーの原理だな。


「奥まで続いているな。なるほど……、大体の構造は把握した。小部屋が13室あるな。手前から行ってみるか」


「音で中の構造を把握できるの? どんな耳の構造をしているのよ」


 基本技術だと思うが? 誰でもできるだろうに。

 ここで、遺跡が揺れた。


「遺跡が移動を開始しやした。行くなら急いでくだせぇ」


「急ぎましょう!」


 私達は、遺跡の崩れた部分から中に入った。

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