第13話 再度砂漠へ4

「うえ……。水に砂が混じっていて、飲めそうにないわ……。濾過しないと」


 オアシスは、酷いことになっていた。

 まあ、砂嵐の直後なのだ。見れば分かる。だが、問題などない。

 時間が経てば、砂は沈んで行く。

 その後に、上澄みを飲料水として汲めばいいだけだ。

 私は、オアシスを散策しているシルフィーを横目に、再度テントを組んだ。



「はぁ~。お風呂入りたいな~」


「こんな炎天下で、裸になったら全身火傷だぞ? 砂漠越えの常識は頭に入っているのではないのか?」


「……分かってるわよ。人目もあるしね~」


 私のことを言っているのか? 妖怪の体などに興味などないのだが、ここはあえて言わない。

 別な回答をしよう。


「シルフィーは、露出狂ではないのだな。安心した」


 ここで、火魔法が来た。この炎天下で、元気だな。おい。

 あ……。おいおい、テントが焦げているじゃないか。慌てて火を消す。


 その後、シルフィーは、自分用のテントを建てて、ふて寝し出した。

 なんなのだまったく。

 さて、私も休むか。

 久々に、マイクロスリープを止めて、私は普通に寝ることにした。

 流石に、この砂漠で襲われるとは思えない。

 まだまだ、陽は高い。

 体力は有り余っているが、することがない。シルフィーの相手も疲れるしな。





 揺すられて起きる。


「むっ?」


 縛られている?

 シルフィーを見ると、捕まっていた。手を後ろに縛られている?

 まだ覚醒しない頭を働かせる……。

 そして、そいつが目に入って来た。


「魚の……妖怪か? 何故砂漠にいる?」


 半魚人がいる。

 例えるなら、鮫に網状の鱗付きの脚が生えており、4本のマッチョな腕がついている感じだ。半妖態だったかな? 造語かもしれないが。

 砂漠には、似合わない妖怪だと思う。その妖怪が、話し始めた。


「俺っちは、天界から追放されたんだよ。しかも、砂漠のど真ん中に! ここは、俺っちにとって天然の牢獄なんだよ! 悪いが、身包みを剥がさせて貰うぜ! 出すもんだしな! まあ、貨幣は要らないがな。そうしたら見逃してやる!」


 聞いてもいないことをペラペラと。いくらラノベとは言え、自己紹介が過ぎるぞ?

 それと、また天界からの追放者か。

 まったく、天界はなにしているのか。

 下界に妖怪を増やしてどうする。追放、追放、また追放か。

 まじに天界に乗り込んで、一番偉い奴に説教してやろうか。


「俺っちは、本来なら蓬莱島を守らなければならねぇつ~のに。何百年ここにいさせる気なんだ!」


 誰に対して怒っているんだ? 私は、天界と関わり合いなどないのだぞ?

 しかし、気を抜き過ぎか。まさか、こんな砂漠のど真ん中で襲われるとはな……。

 私もまだまだだ。


 ――ブチブチ……ブチン


 私は、縄を引き千切った。というか、この砂漠で、縄をどうやって調達したのだ?

 まあ、興味ないが。


「なっ!?」


 魚の妖怪は、驚いている。そもそも普通の縄で私を拘束しようとするのが間違っている。

 私は鉄の鎖ですら、引き千切るぞ? せめて霊力の篭った物質で縛って来い。

 それよりも、先ほどの言葉で聞きたいことがあった。


「蓬莱島と言ったな……。詳しく聞かせて貰おうか」


「ま、待ちやがれ! 止まれ! この女がどうなってもいいのか? く、喰うぞ! 一飲みだぞ!?」


 刃物と言うか、魚のエラを突き付けている。腕からエラが出ている感じだな。一応鋭そうだ。それと、食べるんじゃないのか? 言動が一致していないぞ?

 シルフィーを見る。視線が合う……。


「ヘーキチ……。私はどうなっても構わないわ。やっちゃって」


 次の瞬間に、私の右フックが、妖怪の顔面を捉えていた。

 シルフィーのみを残し、音速以上の速さで水面に叩きつけられる、妖怪。音速を超えた動きなので、ソニックブームが起きている。音を置き去りにして動くと、周囲が壊れるんだよな~。

 シルフィーは、大丈夫だろうか? 耳が痛いようだ……。良く聞こえそうな耳をもっていそうだったしな。

 水面が、赤く染まって行く。水面に叩きつけられて、妖怪は潰れていそうだな。

 ……吹き飛ばす方向を間違えたか。


「ふう~。水を汚染させてしまったな。それと、砂を再度巻き上げてしまった。水を得るためには、また数日、ここで待たなければならないな」


 後悔先に立たずだな~。ワンパンで片すのではなく、関節技でも良かったかもしれない。面倒だったので、時短を狙ったが、結果的に拘束時間が長くなってしまった。反省しなければ。


「ねぇ? ヘーキチ?」


 後ろを振り返り、シルフィーを見る。


「待っていろ、今縄を解いてやる」


 だが、シルフィーは、体をくねらせると縄から抜け出した。柔軟な関節を持っているのだな。

 いや、縛り方が甘かっただけかもしれない。

 そうなると、シルフィーは一人で、魚の妖怪を倒せたのではないか? 火の魔法も使えるのだし。


「ねぇ? ヘーキチ?」


「ん? なんだ?」


「……なんで助けてくれなかったの?」


「助けたと思うのだが?」


 その後、キレたシルフィーの火魔法が私を襲う。

 私は、霊力で炎を消して行く。

 なんなのだ、まったく。


 シルフィーの沸点が分からない。電波過ぎる。

 困ったものだ。





 今回の被害者:大鮫魚だいこうぎょ……蓬莱島を守っている。サメらしい。

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