第12話 再度砂漠へ3

 シルフィーは、六分儀とかいう道具を使い出した。

 仙人界でも見たことがない。私としては未知の道具だ。

 話を聞くと、手製なのだが、天体の位置で方角が分かるのだそうだ。

 後で複製して、教えて貰おうと思う。


「う~ん。大丈夫ね。このまま進んで」


「面白い道具があるのだな。前回はコンパスで失敗した。また迷いそうで怖かったのが本音だ」


「失敗からは、学ばないとね」


 頼りがいのある、いいパーティーメンバーだな。

 そう思った。

 ……そう思ってしまった。





「え~と。この辺の筈なんだけどな~。何処かで、計算ミスしたかな~」


「なにもないぞ? 本当に周囲10キロメートルになにもないぞ? それと、計算とはなんなのだ?」


 一面の砂の海で迷ってしまったらしい。

 そして、朝日が昇って来た。

 これから、また50℃近い気温になる。

 不味くないか?


 二人で座り、地図を確認する。


「え~と、ヘーキチの脚ならば、時速50キロメートルとして……。太陽があっちでしょ? 朝日の昇った方向がこっちだから……、今はこの辺?」


 理論的ではあるのだが、感覚的な言葉が混じっているので、信用できない。

 正直、勘頼りになっている。


「方角が合っているのであればな。何処かで計算違いをしているのだろう? だから、目的地のオアシスがない」


「……」


 本来であれば、この場所にオアシスがある筈だった。

 しかし、何処にも見当たらない。私の〈索敵〉にも反応しないので、周囲10キロメートルには、オアシスがないことが確定している。シルフィーを見るが、視線を合わせようとしない。地図を睨んでいる。


「……こうなると、地図が間違っているわね」


 いや、それはないんじゃないのか? 街の人達の長年の努力の結晶だぞ?

 あえて口には出さないが。


「南東に向かって移動していたが……。東に逸れたのか、はたまた西か。まあ、北ではないことだけは確かだな」


「と、とりあえず、休みましょう。昼間は休む。砂漠越えの常識よ!」


 誤魔化して来た。

 ふ~、やれやれだぜ。





 テントで、日陰を作る。その中で休むのだが。


「ねえ、ヘーキチ……。砂嵐が来ていない?」


 そう、目の前に砂の壁が迫っていた。

 気が付いてはいたが、まあ大丈夫だろうと思い放置していた。


「まあ、大丈夫じゃないか? 一応、テントを畳むか? 飛ばされたら困るし」


「なんでそんなに落ち着いているのよ!?」


 刃物が舞う風ではないのだ。

 仙人界での修行を思い出す。あれは、凶悪だったな……。

 余計な思考は置いておこう。

 砂嵐など、鼻と口を押えていれば、なんの問題もなくやり過ごせると思っていたが、シルフィーが騒ぎ出すので、対処することにする。

 とりあえず、テントを〈収納〉する。

 シルフィーは、固まっていた。何時もやかましいが、静かすぎるのも困るな。

 思考が止まっているのか? この程度で?

 次の瞬間に、私達は砂嵐に飲まれた。


「む? シルフィ~!?」


 シルフィーは、軽いのだな……。風に乗って飛んで行ってしまった。

 そうか、飛べるのか。羨ましい。

 いや、制御できないのであれば、恐怖になるのか?

 あの高さから落ちたら、痛いかもしれないし。


「仕方がないな」


 私は、シルフィーを追いかけた。

 目は開けていられないが、私には術の〈索敵〉があるのだ。方角は分かる。





「はぁはぁ……」


 私は、落下して来るシルフィーを、ナイスキャッチした。

 怪我はしていないと思う。

 だが、シルフィーは、茫然自失と言った感じだ。

 飛んでいる時に、なにかあったのかな?


「飛んでいる間に、天国が見えたわ……。お祖母さんが手を振っていてね……。わたしの好きだったお菓子を用意してくれていたわ。ああ、お茶の匂いが恋しかったな~」


 シルフィーは、錯乱しているような表情だが、大丈夫そうだ。

 それとシルフィーは、妖怪だが、天界に呼ばれていたのか?

 砂嵐に飛ばされると、天界に行けるのか。某有名漫画の、突き上げる〇流ノック〇ップ〇トリームを彷彿とさせる。あ、あれは海の話だったな。それと、三千年後の大ヒット漫画の話だ。


「天界に行けたのか? 私も行った事はないのだが、いい所らしいな。蟠桃会ばんとうえに参加できると、名誉なことだとも聞いたことがある」


「天界じゃなくて、天国ね」


 ふむ? 異界の言葉みたいだな。

 私の知らない世界が、まだあるのか。

 知識と経験になるのであれば、異世界に行ってみたいものだ。知見を広げるより、修行先としてありだな。


 話していると、砂嵐が去って行った。

 そして、それが目に入った。


「オアシスが見えるな」


「オアシスね……。あれが、本当の今日の宿営地だったのかも……。でも、どれだけ飛ばされたんだろう……。もう、位置も分からなくなっちゃったわ」


 元々、迷っていただろうに。

 だがここは、あえて突っ込まない。


「それでは、行こうか。水も調達したいしな」


「そうね、行きましょうか」


 シルフィーに笑顔が戻った。オアシスを見つけて、現実世界に戻って来たのか。

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