第12話 再度砂漠へ3
シルフィーは、六分儀とかいう道具を使い出した。
仙人界でも見たことがない。私としては未知の道具だ。
話を聞くと、手製なのだが、天体の位置で方角が分かるのだそうだ。
後で複製して、教えて貰おうと思う。
「う~ん。大丈夫ね。このまま進んで」
「面白い道具があるのだな。前回はコンパスで失敗した。また迷いそうで怖かったのが本音だ」
「失敗からは、学ばないとね」
頼りがいのある、いいパーティーメンバーだな。
そう思った。
……そう思ってしまった。
◇
「え~と。この辺の筈なんだけどな~。何処かで、計算ミスしたかな~」
「なにもないぞ? 本当に周囲10キロメートルになにもないぞ? それと、計算とはなんなのだ?」
一面の砂の海で迷ってしまったらしい。
そして、朝日が昇って来た。
これから、また50℃近い気温になる。
不味くないか?
二人で座り、地図を確認する。
「え~と、ヘーキチの脚ならば、時速50キロメートルとして……。太陽があっちでしょ? 朝日の昇った方向がこっちだから……、今はこの辺?」
理論的ではあるのだが、感覚的な言葉が混じっているので、信用できない。
正直、勘頼りになっている。
「方角が合っているのであればな。何処かで計算違いをしているのだろう? だから、目的地のオアシスがない」
「……」
本来であれば、この場所にオアシスがある筈だった。
しかし、何処にも見当たらない。私の〈索敵〉にも反応しないので、周囲10キロメートルには、オアシスがないことが確定している。シルフィーを見るが、視線を合わせようとしない。地図を睨んでいる。
「……こうなると、地図が間違っているわね」
いや、それはないんじゃないのか? 街の人達の長年の努力の結晶だぞ?
あえて口には出さないが。
「南東に向かって移動していたが……。東に逸れたのか、はたまた西か。まあ、北ではないことだけは確かだな」
「と、とりあえず、休みましょう。昼間は休む。砂漠越えの常識よ!」
誤魔化して来た。
ふ~、やれやれだぜ。
◇
テントで、日陰を作る。その中で休むのだが。
「ねえ、ヘーキチ……。砂嵐が来ていない?」
そう、目の前に砂の壁が迫っていた。
気が付いてはいたが、まあ大丈夫だろうと思い放置していた。
「まあ、大丈夫じゃないか? 一応、テントを畳むか? 飛ばされたら困るし」
「なんでそんなに落ち着いているのよ!?」
刃物が舞う風ではないのだ。
仙人界での修行を思い出す。あれは、凶悪だったな……。
余計な思考は置いておこう。
砂嵐など、鼻と口を押えていれば、なんの問題もなくやり過ごせると思っていたが、シルフィーが騒ぎ出すので、対処することにする。
とりあえず、テントを〈収納〉する。
シルフィーは、固まっていた。何時もやかましいが、静かすぎるのも困るな。
思考が止まっているのか? この程度で?
次の瞬間に、私達は砂嵐に飲まれた。
「む? シルフィ~!?」
シルフィーは、軽いのだな……。風に乗って飛んで行ってしまった。
そうか、飛べるのか。羨ましい。
いや、制御できないのであれば、恐怖になるのか?
あの高さから落ちたら、痛いかもしれないし。
「仕方がないな」
私は、シルフィーを追いかけた。
目は開けていられないが、私には術の〈索敵〉があるのだ。方角は分かる。
◇
「はぁはぁ……」
私は、落下して来るシルフィーを、ナイスキャッチした。
怪我はしていないと思う。
だが、シルフィーは、茫然自失と言った感じだ。
飛んでいる時に、なにかあったのかな?
「飛んでいる間に、天国が見えたわ……。お祖母さんが手を振っていてね……。わたしの好きだったお菓子を用意してくれていたわ。ああ、お茶の匂いが恋しかったな~」
シルフィーは、錯乱しているような表情だが、大丈夫そうだ。
それとシルフィーは、妖怪だが、天界に呼ばれていたのか?
砂嵐に飛ばされると、天界に行けるのか。某有名漫画の、
「天界に行けたのか? 私も行った事はないのだが、いい所らしいな。
「天界じゃなくて、天国ね」
ふむ? 異界の言葉みたいだな。
私の知らない世界が、まだあるのか。
知識と経験になるのであれば、異世界に行ってみたいものだ。知見を広げるより、修行先としてありだな。
話していると、砂嵐が去って行った。
そして、それが目に入った。
「オアシスが見えるな」
「オアシスね……。あれが、本当の今日の宿営地だったのかも……。でも、どれだけ飛ばされたんだろう……。もう、位置も分からなくなっちゃったわ」
元々、迷っていただろうに。
だがここは、あえて突っ込まない。
「それでは、行こうか。水も調達したいしな」
「そうね、行きましょうか」
シルフィーに笑顔が戻った。オアシスを見つけて、現実世界に戻って来たのか。
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