第11話 再度砂漠へ2

「まさか、再度の砂漠越えとはな……」


「自分が決めたんじゃない! それもわたしまで巻き込んで! 今回は水も食料も大量に持って来たんだから、準備万端よ。それと、昼間は日陰で休んで、夜に移動する! いいわね」


 シルフィーは自信満々のようだ。

 齧った程度の知識で、自慢とは……。

 それと、馬を預けたので、シルフィーも徒歩での移動だ。もちろん私は徒歩だ。

 とりあえず、数日様子を見てみよう。


「それでは、日暮れまで待つか。テントを張るぞ」


「りょ~かい」


 テントと言っても、簡易的なモノだった。

 支柱が4本に、天井となる布が2枚。

 私達は、砂の上に寝そべった。


「本当に、風が吹くのだな」


 一番上の布が熱せられて、二枚目の布との温度差ができる。

 そうすると、風が生れると教えて貰った。

 気温は50℃を超えているが、風があると体感温度がかなり下がる。

 シルフィーが、聞いてきた知識だが、面白いと思えた。


「む?」


 ――プチ


 地面からサソリが這い出て来た。サソリを肘で潰す。

 こんな過酷な環境でも生きられる生物がいるのか。生命の神秘に触れた気分だ。

 だが、シルフィーを見ると、青ざめていた。その後、シルフィーは、体育座りだ。

 体力を消耗するぞ?



 日が暮れたので、テントを畳む。

 ちなみに、ゲルテントと呼ばれるタイプも買ってあり、〈収納〉に入れてある。

 雨の日に使おうと思う。


「さて、行くか」


「りょ~かい」


 シルフィーは、暇だったのか、潰したサソリの解体を行っていた。

 どうやら毒を抽出していたみたいだ。

 矢に塗るのだろう。

 青ざめていたが、一転機嫌が良くなっている。

 そうか、シルフィーはこのサソリを知っているのだな。毒の怖さと有用さを理解していると思われる。

 その毒を、瓶詰めするまで待った。


 少し時間が経ってしまったが、こうして私達は砂漠越えを始めた。


「み、水はこまめにとること……。ゴクゴク」


 砂と言うのは歩きづらいな。そして、気温だ。氷点下まで下がっていそうだ。

 水筒も凍って来ている。

 まあ、火魔法があれば溶かすことはできる。シルフィーの得意分野だな。

 いや、霊力を使えば温度くらいは上げられる。

 いやいや、私なら摩擦熱で行けるか。


「ねぇ……。少し休まない?」


 シルフィーは、疲労困憊みたいだ。まだ歩き始めて数時間だぞ?

 だが、こんな何もない場所で休んでも、体力が回復するとは思えない。

 私は、地図を広げた。


「今日のノルマまで、後たった100キロメートルくらいだ。そこで休もう」


 シルフィーが、へたり込んでしまった。

 しょうがないので、私はシルフィーを肩に担いだ。

 やれやれ。やはりこうなったか。


「ひゃあ!?」


 シルフィーが甲高い声を上げる。


「む?」


 私の索敵になにかが引っ掛かった。

 今回も、土遁の術だな。そして……、妖怪が現れた。


「ひゃっは~。荷物を寄越しな! あと、女を置いていけ!」


 奇襲もなく、いきなり私達の前に立ち塞がった。


「また妖怪か」


 私は、ため息を吐いた。

 緑の皮膚に、紅い髪。

 なんだこいつは……。


 槍のような物を構えて来た。

 シルフィーを見る。シルフィーも困惑しているみたいだ。


「どうする? 倒すか?」


「やっちゃって」


「て、てめぇら! 俺が怖くないのか!?」


 霊力は、ほぼ感じない。

 見かけだけは派手だが、雑魚だというのは感じていた。

 私は、ガンを飛ばした。


「ひ、ひぃ~」


「こらこら、ヘーキチ。殺気が駄々洩れよ。街中では、注意してね」


 そういえば、豚の妖怪の時に街に迷惑をかけたらしかった。

 だが、今は砂漠にいるのだ。迷惑のかけようがないと思うのだが。

 いや、サソリや蛇、トカゲなどが逃げ出している。

 まあ、畜生だし、いいとしよう。


 視線を上げる。

 妖怪は、震えていた。

 カタカタと槍も震えている。あれでは、刺せないだろうに。まあ、私の皮膚を裂けるとは思えないが。


 私は、一歩で妖怪の背後に回った。ちなみに、シルフィーは置いて来たので、砂に顔から突っ込んでいる。

 腰をロックし、妖怪にジャイアントスープレックスをお見舞いする。

 妖怪は、砂に埋まった。



「妖怪を縛り上げたのはいいけど、これをどうするの?」


 シルフィーは、鼻を赤くしているが、抗議はして来なかった。

 状況を理解する頭はあるのか。

 状況を理解せず、キーキー喚く人物でなくて良かった。


「こいつは、弱い。砂漠にいるのだしそうそう悪さもしていないだろう。今回は見逃すとする」


「この状態で?」


「少し反省して貰おうと思ってな。トーテムポールの刑だ」


 頭から体半分が砂に埋まり、足が空を指している。

 縛り上げているので、身動きも取れない状態だ。

 ただし、砂漠に住む妖怪なのだ。死ぬ事はないだろう。


「何時、縄から抜け出せるか分からないが、その時には反省しているだろう」


「でも、こんな砂漠で盗賊とはね~」


 それもそうだな。旅人も少ない。道すらない。


「まあ、なにか、目的があったのだろう。私達の気にすることではない」


「ま~た、命数なんじゃない?」


 ほう? シルフィーは、命数の意味を理解したのか。


「そうかもしれんな。誰かを待っているのかもしれない。だが、私ではないことは確かだ」


「ふ~ん。まあいいわ。行きましょう」


 こうして、砂漠の夜が更けて行った。

 私は、砂漠を歩く。シルフィーを担いで。

 シルフィーは、数分後には、『楽ちん』と言い出した。

 あの妖怪は……、どうなったかな? まあ、死ぬ事はないだろう。



「目的の遺跡まで、後どれくらいなのか」


「まだまだよ。数日で着いたらいい方じゃない? 地図を見せて、私が方法を確認してあげる」


 ふぅ~。面倒だな。





 沙悟浄…捲簾大将けんれんたいしょう流沙河りゅうしゃかに住み着く

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