第9話 人の街

 人の住む街についた。村かもしれない。まあ、呼び方は置いておこう。

 私としては、五十年ぶりだ。

 シルフィーは、緊張しているな。本音を言うと私も緊張している。だが、私が動揺しては、シルフィーにも伝わってしまう。

 街で田舎者呼ばわりされるのは避けたい。

 私は、シティーボーイになるのだ! もう、時代遅れの仙人界の匂いは、消し去りたいのだ。気持ちを新たに持つ。


「大丈夫だ。変化の術は解けていないぞ。それに万が一バレても私が擁護しよう」


「……うん、行きましょうか。信用してあげるわ、ヘーキチ」


 シルフィーが、ぎこちない笑顔を向けて来た。

 こうして、私達は街へ乗り込んだ。





「活気がないな……」


「そうね……。売り物も少ないし……」


 違和感……。

 街の人々は、なにかに怯えているようだった。

 だが、私達に敵意の視線は向けて来なかったのは良かったな。よそ者を受け入れるだけの余裕はあるようだ。


 街を散策する。


「ヘーキチ。あれ……」


 シルフィーの指先の方向を見る。そこには、漫画肉の絵が描かれていた。

 肉屋が見つかったのか? 看板など出ていないのだが。シルフィーは、広い視野を持っているのだな。〈索敵〉に集中していた私とは違う。

 とりあえず、入ってみるか。


「いらっしゃいませ。だけど、仕入れがなくてね。なにも売れないよ」


 店番らしき、女主人が疲れたような言葉を発した。

 売り物がないのに、店を開けているのか? トル〇コなのか?

 話を聞くと、肉屋ではなく、飯屋だった。

 シルフィーを見ると、視線を合わせようとしない。もしかして、食べたかっただけか?

 まあいい。


「それでは、買い取って貰おう」


 私は、〈収納〉から豚を十匹出した。



 街は、大騒ぎとなった。

 いきなり炊き出しが始まったのだ。

 どうやら、食料不足だったみたいだ。

 豚を解体して、焼き肉が始まる。それ鍋料理だな。

 穀物はないのかなと思ったら、持ち合いを出して来た。

 うむ、この人達は、分っている。

 食料を独占するよりも、皆で分け合った方が、結果的に生き残れる数は多くなる。

 そして、この街に好感が持てた。


 私達は、この街に無期限で泊まれるという条件を提示して貰った。要は、空き家を貰ったのだ。

 拠点にする気はないが、まあいいだろう。

 それで、格安で豚肉を譲った。まあ、多少の資金も得たのだ。問題なしとする。

 私も豚肉を食べてみる。

 美味い以外の言葉が出ない。塩がこんなに美味いとは……。


「私は五十年もの間、何をしていたのか……。食こそ人生最高の楽しみではないか」


 羊の干し肉も美味かったが、焼き立ての肉には及ばなかった。

 シルフィーも美味しそうに食べている。いや、嬉しそうだな。

 街の人達に受け入れられているのが、嬉しいみたいだ。


 それと、地図を見せて貰った。


「なんだと~う? ここは……、東の国の南端なのか?」


 方角を間違ってしまったらしい。

 東の国は、中央に大きな国があり、その国を囲むように400の国が存在している。

 その内の一つの街に辿り着いてしまっていたか。

 私の勘も当てにならないな。それと、〈光遁〉の術は制御が難しい。


 だが、ここから北上しなければいいだけだ。

 南に進み、大河を渡れば、東国とはおさらばだ。

 そうすれば、師匠の指示に従うことにはならない。

 私は、決意を新たにした。


「実は、困ったことがありまして……」


 む? なんだ?


「話してみろ。内容によっては、聞いてやる」


「実は、日照りが酷くて……、井戸も作物も枯れて、家畜も倒れてしまいました。簡単に言いますと、水不足なのです」


「もぐもぐ……。近くに川があっただろう?」


「近く? 10キロメートル以上となると、水の運搬だけでも大変なのです」


「もぐもぐ……。灌漑で川を作ればいいのではないか?」


「そこまでの人手は集まらなく……」


 もぐもぐ……。思案する。

 私に、雨を降らせる術はない。できるのは、地面を掘って灌漑用の用水路を引くくらいだが。いや、この街というか村を移動すればいいんじゃないのか?


「それでですね。若い衆が、ちょっと離れた遺跡に、水を求めに行ったのですが、逃げ帰って来ました。妖怪に邪魔されたらしく、今は療養中になります」


「なに? 遺跡に行かなければならないのか? 水を求めに? 川ではなく?」


 この人達は、何をしているのだろうか。


「はい、そこで手に入る秘宝が必要でして……」


 秘宝ね~。

 胡散臭い事この上ない。


「方角は?」


「南西でして……。砂漠の何処かにあります」


「分かった受けよう。砂漠は経験がある。再挑戦だな」


 丁度良い。再度の挑戦だ。

 これこそ、命数なのかもしれないな。


「そうですよね……。砂漠なんて……、ええぇ!?」


「ちょっと! ヘーキチ!?」


 一度逃げ帰った砂漠の横断の旅。乗り越えてやろうじゃないか。

 隣りで、シルフィーが何か言っているが、私は砂漠を越えるための思索に入っていた。

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