第8話 途中の街2

 川沿いに進む。

 後少しで人の街だ、そう思った時だった。


「む? 囲まれている?」


 今の場所は、草原であり、多くの動物がいる。

 無視していたのだが、統率の取れた動きをし始めた。


「背後の道は断たれたな。正面にも集まって来ているのか。しかし……、この気配は……」


「ねえ、ヘーキチ。獣の群れじゃない? 豚っぽいんだけど? 何が起きてるの?」


「う……む。私も聞きたい」


 そうなのだ。猪か、豚の群れなのだ。

 それが、私達を取り囲んで来た。


 馬を止める。

 街まで後少しだというのに、面倒だな。

 考えていると、豚共が姿を現し始めた。輪を狭めて来たか。

 牙もないので、猪ではないな。

 そうなると、誰かが操っている? 豚使いでもいるのだろうか?

 下界は、まだまだ私の知らないことだらけだな。


「うひひ。女がいるじゃねぇか。置いて行きな」


 む? 声を発する豚? 正面を見る。


「……妖怪か。豚の妖怪?」


 言葉を発したのは、顔が豚であり、二足歩行を行う妖怪だった。

 一応、衣服も纏っている。


「ひぃ! 何なのあれ!?」


「この世界には、人族以外にも妖怪と呼ばれる、知的生命体がいる。言ってみれば、シルフィーもあの部類に入るのだぞ?」


「ちょっと! 私はエルフ族だって言っているじゃない!」


「人族ではないのだろう? なら妖怪の一種だろう?」


 ――ゴン


 シルフィーから痛い突っ込みが来た。

 まあ、私の皮膚を切り裂くなどできないのだが。

 それと、口調と態度が変わって来たな。打ち解けて来たようだ。


「何をごちゃごちゃ言ってやがる。もういい、男は殺せ、馬と女は動けなくなる程度まで痛めつけろ!」


 妖怪の号令で、豚共が一斉に攻撃して来た。


「シルフィーは、戦えるのか?」


「……魔法が使えるわ。武器は、弓矢が欲しいけど、今は持っていないのよ」


「次の街で購入するか。それでは、馬を頼む。守ってやってくれ」


「りょ~かい」


 私は、霊力を開放した。


「ふぅおぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~!!」


 全ステータスを底上げして行く。

 豚共は、急停止したかと思うと、一目散に散って行った。

 どうやら、実力差を理解したようだ。獣の勘は流石だな。

 目の前にいる、豚使いの妖怪の支配を打ち消すほどの、威圧感を与えたのだ。〈挑発〉が近いかな? 〈威圧〉?

 まあ、畜生が私の霊力に当てられれば、そうなるか。

 そして……。


「残りは、貴様一人だ。排除させて貰う!」


「えっ? えっ?」


 この妖怪は、理解が追い付かないみたいだ。

 ここで、シルフィーの魔法が発動した。

 炎の矢だ。

 5発中1発が命中した。5発同時発動ができるのか……。そして、宝貝パオペイではなかった。

 このような術は見たことがない。

 本当に、異世界人なのだな。そして魔法……、凄い奇跡を起こせるのだな。


「ぎゃ~。熱い~~! 痛い~!」


「ほう、それがシルフィーの魔法か。私の術とは似ていて異なるな」


「え? 魔法を知らないの? 属性魔法なんて、何処の世界でも使えるんじゃない?」


「うむ。この世界で使い手は少ないのではないかな? もしかすると、いないかもしれない。この世界の上位者である仙人は宝貝パオペイを用いて奇跡を起こす。それと、私は術がメインだが、炎は生み出せない」


「……随分と特殊な世界なのね。そんなんじゃ、自然災害や他種族に立ち向かえないじゃない?」


 特殊……。そうなのか?

 シルフィーは、魔法が使える世界の方が多いと言っているが、私は他の世界に行ったことがない。

 異世界転移……。修行先の候補になりえるな。機会があるのであれば、行くのもいいだろう。

 魔法を覚えれば、私ももっと強くなれる。

 それに、この世界に未練など……、少しあるか。


「はあはぁ、待て、待ってくれ」


 ここで、妖怪から制止がかかった。

 なんだ?


「悪さをしている妖怪なのだ。排除させて貰う」


「待ってくれ。俺は天界から堕とされて、密命を受けている。ここを通りかかる僧に付き従うように命じられているのだ。今、死ぬ訳には行かないんだ……」


 ……天界? 命数を与えて貰っているのか?

 妖怪が、天界と繋がりがあるとは思えない。


「もっと言うとだな、俺は転生する時に間違って雌豚の腹に入ってしまったから、こんな姿なんだ。だから、純粋な妖怪じゃないんだよ」


 シルフィーと視線を合わせる。

 シルフィーは、首を横に振った。

 私も何を言っているのか分からない。

 それに、私もシルフィーも僧ではない。人違いだな。


 次の瞬間に私は、チョッピングライトを妖怪に見舞わせた。

 妖怪は、頭を地面に陥没させて、ピクピクしていたが、数秒で動かなくなった。

 拳で作った地面の亀裂が大きかったので、穴を掘らずに土を被せて、埋葬する。


「良かったの? 仲間になりたそうだったけど?」


「人違いだったのだろう? それに転生できると言っていた。次は、人の姿で転生して貰いたいと思う。まあ、未練を絶ってやったのだ、あの世で感謝しているだろう。それと、天界とは関わり合いたくないのが本音だ。無茶苦茶な命令を下して来るからな」


「ふ~ん。まあいいんだけど。それと、前に天界に行こうとか言わなかった?」


 言ったかな? 乗り込もうとは思ったことがあったかもしれない。


「……気のせいだ」


 その後、数十匹の豚を捕まえて、〈収納〉した。次の街で換金する予定だ。

 いや、食料にしてもいいな。


「道草を食ったが、街は目の前だ。行こうか」


「うん!」


 シルフィーは、いい笑顔だ。





 猪八戒ちょはっかい……猪悟能ちょごのう天蓬元帥てんぽうげんすい、水中戦が得意……らしい。


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