第7話 途中の街1

 シルフィーと共に、南の国を目指すことになった。結局、西方の賢人はなんだったのだろうか? 私に殴られ、シルフィーに口で負けている。


 考えながら、歩を進める。

 しかし、環境が酷くなったな。砂しかない。そう……、一面の砂だ。


「砂漠とは、こんなにも過酷だったのだな……」


 草原を抜けたと思ったら、一面の砂が広がっていた。

 まあ、大丈夫だろうと思い、足を踏み入れたのだが……。


「馬とシルフィーが重いな」


 一人と一頭がすぐに動けなくなってしまった。

 今の私は、一人と一頭を担いで、元の道に戻ろうとしているのだが……。


「迷ったかな?」


 方角がわからん。さて、困ったぞ。

 360度、砂の海だ。いや、陽炎で先が見えない。

 残りの水も少ない。


「……ヘーキチ。わたしを捨てて、独りで脱出して」


 シルフィーが、力を振り絞り、声を出した。


「安心しろ。パーティーメンバーを見捨てるほど、堕ちてはいない。必ず助ける。それと、口を閉じていろ。水分が抜けるし、砂を吸い込むぞ」


「……パーティーメンバー」


 シルフィーは、黙ってしまった。

 根拠のない説得の言葉。逆に不安にさせてしまったか。


 いや、私にはまだ切り札がある。そう……、術だ。

 今こそ使う場面だ。

 私は、腹を括った。


 私は、〈収納〉より〈光遁〉の術を取り出した。これは回数制限のある、貴重品だ。だが、シルフィーの命には代えられない。馬も殺したくない。


「最後に方角だ。太陽は、真上。遠くに山も見えるが、どの方向に移動するか……。何故かコンパスもクルクルと回って使い物にならないし」


 コンパスは、陳桐の部下がくれた物資に入っていたので使っていた。

 そして、コンパスに関しては、聞いたことがある。

 地面に鉄成分が多く含まれていると、安定しないとか。

 大森林での遭難は有名な話だったな。


 シルフィーと馬は持ちそうにない。

 私は、勘で方角を決めて、〈光遁〉の術を使った。

 瞬間移動ができる術だ。





「ふう~。助かった~。ありがとう、ヘーキチ」


「生き残り、なによりだ。いや、死にかけたのだ、もう少し安静にしていろ」


 今は、川を見つけたので休んでいる。

 シルフィーと馬は、一息つけたようだ。

 馬は、草を食んでいる。


「しかし、砂漠とは危険なんだな。知識となったよ。まあ、いい経験だな」


「ヘーキチは、勝算があると思って砂漠に踏み入ったのだと思ってたわ。わたしは、その……、森育ちなので……、知らなかったの」


 勝算?

 そんなものは、いままで一度も持ったことがない。

 特攻・前進・当たって砕けろ! が私のモットーだ。

 確実に"死ねる"と判断した時のみ、逃走を選ぶが。


「とにかく、砂漠越えは諦めよう。遠回りしてでも、水のある土地を進もうと思う。数に限りがあるアイテムはなるべく消費したくない」


 残り、999,999回だ。慎重に使って行かないとな。


「う~ん、その数に限りのあるアイテムで砂漠を一瞬で横断したら?」


「その先がどうなっているかわからないだろう? 氷点下の山頂かもしれないし、海のど真ん中に着地したら、また使うことになる。考えなしに使えないのが、この術の欠点なのだ」


「慎重なのね。それでいいと思うわ。急いでいる訳でもないんだし。それで……、ここは何処なの?」


 周囲を見渡す。


「私も分からん。だが、遠くに街が見えるな。行ってみようと思うが、どう思う?」


 まじに何処に移動したのか……。迷子にはなりたくない。

 街にさえ辿り着けば、居場所も分かるだろう。

 もしかすると、南の国に辿り着いたのかもしれないし。西方諸国なのかもしれない。


「はあ~。わたしは、ヘーキチに従うわよ。他に頼れる人もいないんだし。でも、抜けまくっているわね。信頼はできそうにないって感じかな~」


 私が抜けているだと? 命を助けて貰って酷い言い草だな。

 まあいい、次の目的地が決まった。

 馬も回復したようだし、移動しようか。





「どうした、シルフィー?」


 私達は、人の街へ向かっていた。

 馬上のシルフィーを見ると、震えている?


「いえ……ね。この世界の人達は、わたしを見ると憎悪の視線を送って来るのよ……」


 妖怪が、人の街に入ればそうなるんじゃないのか?

 シルフィーのいた異世界では、人と妖怪が共存していたのか? 素晴らしい世界だな。

 もしかすると、シルフィーは争いのない世界から来たのかもしれないな。

 シルフィーの故郷……。興味がある。もしかしたら、伝説の桃源郷なのかもしれない。


「変化の術は、解けていないぞ?」


「うん……、ヘーキチの術は信用しているわ」


 信用してくれているが、不安が拭いきれていないのだな。信頼が足らないらしい。


「私が傍にいる。安心して街で休め。どんなことが起きても、大概のことならなんとかしてみせる。拳でだが」


 シルフィーの顔が、真っ赤になった。

 何か誤解を与えたかな?





 変化の術……楊戩が有名かな。でも哪吒も使っている。雷震子は貰えなかった。

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