第6話 行き倒れ3

「その、月合仙翁様が、なにしに来たのだ? 私は、仙人界と縁を切ったのだぞ。西方の賢人とはいえ、干渉される覚えなどない」


「そちらの娘に用があると言ったのじゃが? お主に用はない!」


 激しい主張。

 翁と名乗っているだけ、頭もハゲしく光っているが、主張の方がハゲしい。

 いや、余計な思考は置いておこう。オヤジギャグだな。七十二歳という年齢が、寒い風を吹かせただけだ。


 シルフィーを見る。

 怯えているので、なにかを知っていそうだ。

 そうなると、仙人や道士と関係がありそうだな。


「シルフィーの過去を知っているのであれば、教えて貰いたい」


「……お主には関係ないのじゃがな。まあ、良かろう。たまにあるのじゃが、"次元の扉"ができてな、他世界から"迷い人"が来ることがある。その、シルフィーは、その内の一人じゃ」


 聞いたことがない。なんだ、"次元の扉"って。

 仙人界に50年いたとはいえ、まだまだ知識不足のようだ。


「シルフィーは、瀕死のところを私が助けた。何故、今になって仙人界が干渉して来る?」


「うむ。もっともじゃな。本来であれば、"迷い人"は天界で保護する。保護できなければ、始末することもある。そのシルフィーは、下界で捕まってしまい、仙人界が気がついた時には、手出しできない状態じゃったのじゃ」


 仙人が手出しできない? 仮にも下界の話だろう?

 どれほどの猛者に捕まったというのか……。


「その娘は、本来であれば昨日命を落としていた。じゃが、命数ブレイカーである、ヘーキチと会い、その運命に勝ったのじゃ。そこで、正しい命数に従って貰いたいと思い、儂が来た訳じゃ」


 なんだ、"命数ブレイカー"って……。

 それに、正直腹立たしい。


「他人の人生に干渉するのは、好きではないが、あえて言わせて貰う。仙人界の奢りが酷いぞ。一度見捨てておいて、命を拾ったら、従えだと? 下界の民とはいえ、傲慢ではないのか!?」


 私の霊力が膨れ上がる。

 ダメだ、感情を抑えきれない。

 目の前の焚火も、火山の噴火のように燃え盛っている。


「……傲慢か。そうかもしれんな。今、仙人界がしていることをヘーキチが知れば、止めに入るであろう」


 これは……、引っかけだな。乗る必要はない。

 あえて、仙人界がなにをしているのかは、聞かない。


「あの~。わたしからもいいですか?」


 シルフィーからの質問だった。


「なんじゃ?」


「わたしはどうして、"迷い人"になったのですか? 平民だったのですが、気が付いたらこの世界にいて……。その後、追いかけられて……。攻撃されて……」


「う~む。誰も答えられない質問じゃな……。天界に行けば分かるかもしれんが、勧められない」


「うむ! 天界に乗り込むか!」


「アホか!!」


 月合仙翁様からのハゲしい突っ込みだった。ボケに対して、いい突っ込みだ。

 しかし、話が進まないな。


「それで、シルフィー。今後どうするのじゃ? 儂と共に来れば、とある国の国王と結ばせてやれるのじゃが?」


「嫌です。どうせ、ジジイでしょ? 子供だけ産めと言われるのが目に見えています! それで、国王が亡くなって、王子達に溺愛されて修羅場になるんでしょう? 異世界転移の定番じゃないですか」


 図星を突かれたのか、月合仙翁様が黙ってしまった。

 シルフィーは凄いな。先を見る目がある。いや、知識量なのかもしれない。

 50年も無駄にした、私にはないスキルだ。


「では、どうするのじゃ?」


「ヘーキチと添い遂げます!」


 私の袖を握るシルフィーの手に力が入った。

 おいおい、私は独り身が好きなのだが。


「それがこの世界に一番の悪影響を及ぼすのじゃ! じゃから、儂が来たというのに! なぜ理解しようとしない!」


「テンプレじゃないですか! 異世界転移して、命の危険に晒されたけど、王子様に救われる! ここでついて行かない女性などいませんよ!」


「ヘーキチが、その王子様なら、儂もなんも言わんよ! じゃが、そいつはこの世界に混乱を生む存在なんじゃ! お主が関わると更にややこしくなる!」


 ここから、シルフィーと月合仙翁様の言い合いが始まった。

 私は、蚊帳の外だ。

 なんなのだ、まったく。

 人生とは、思い通りに行かないな。

 私は、天を仰いだ。

 そして、馬は草を食んでいた。大人しい軍馬だな。





 結局、月合仙翁様が折れて帰って行った。

 シルフィーは満足そうだ。


「良かったのか? 幸せを逃したと思うのだが?」


「……わたしの私の幸せを決めないでよ。それよりも、責任を取ってよね?」


 なんだろう。ジト目で私を見て来た。

 それと、責任とはなんだ?

 命を救った責任?

 ダメだ、電波過ぎてシルフィーが分からない。


「私の進む道は、困難を極めるぞ?」


「何処までも付いて行くわよ」


 シルフィーが、腕に抱き着いて来た。

 私に、パーティーメンバーができた瞬間だった。

 それと、馬は立ったまま寝ていた。

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