第4話 行き倒れ1
道なき道を進む。
途中川があっても、馬が泳いでくれた。
実に賢い馬だ。これが訓練された馬……、軍馬なんだろうな。
ここで、私の〈索敵〉に反応があった。
「む……? 人が倒れている?」
10キロメートル先に誰かが倒れている。こんな野山でだ。
私は、馬を駆った。
「良かった、まだ息はある……。だが、この姿は……」
人ではなかった。妖怪の類だと思う。
特徴的なのは、耳だ。長く尖っている。
私は、妖怪であろうと差別などしない。白鶴という親友もいたのだ。
私は、妖怪を担いで木陰に移動した。
水を飲ませると、飲んでくれた。
だが、まだ意識は戻らない。水は、反射で飲み込んだみたいだ。
そして……、出血が見られた。怪我していそうだな。
「雌型だが……、治療なのだ。服を脱がせよう」
このまま放置すると、最悪死亡するだろう。
いや、腕の一本くらいは失うかもしれない。
私は、服を脱がして治療を開始した。
「……これで応急処置は終わりだ。しかし、毒に侵されており、呪いも受けている。よくこんな状態で生きていられたものだ」
私は、呪符を取り出した。
「ふん!」
術を発動させて、毒と呪いを写し取る。術の〈空蝉〉だな。
〈空蝉〉の術は、どんな状態異常だろうと、身代わりになってくれる、便利な術だ。
これで、大丈夫だろう。
後は、傷が塞がって栄養をとれれば、この妖怪は動けるようになるはずだ。
術の〈回復〉を行ってもいいが、元気になり過ぎる恐れがある。
それに、私より強い場合は、抑えきれない。悪い妖怪であった場合は、命取りだ。
ここは、慎重に行く事にした。
◇
暗くなったので、焚火を起こし、野営の準備を始める。
それと水だな。5キロメートルを往復して、川の水を汲んで来た。
そして思った。
「この妖怪を、川まで運んだ方が早かったか?」
私もまだまだだ。頭が回っていない。
「……誰?」
思案していると、妖怪が目覚めたようだ。
「気が付いたか。とりあえず、食べろ。話はそれからだ」
私は、干し肉と飲み水を差し出した。
目の前の妖怪は、一瞬躊躇ったが、食料を受け取り食べ始めた。
落ち着いたと思われるので、話を聞くことにした。
◇
「異世界召喚者? 並行世界から来た? えるふ族?」
「そう、異世界転移ね。わたしは、別な世界から来たの……。理由は分からないんだけど、異世界ということだけは確かね。物質の構成が違うから確定よ」
「ふむ……。妖怪だと思ったが、それ以上だったのだな」
「誰が、妖怪よ!」
彼女の名は、シルフィーだそうだ。
その後、シルフィーによる抗議が続いたが、私はスルーした。
考える。仙人界でも聞いたことがなかったからだ。
とりあえず、追加の食料を差し出すと、シルフィーは文句を言いながら食べている。食べるか喋るか、どちらかにしろ。
「それで、これからどうする? 行く当てはあるのか?」
「……」
「元の世界に帰る、とかでもいいぞ?」
「……異世界モノを知らないのね。帰るのは、とても難しいことなのよ? 時間と空間を合わせないといけないから」
シルフィーは疲れたらしく、黙ってしまった。
行く当てのない旅なのか。
私と同じだな。
「私は、南の国に向かう。ついて来るか?」
「……人の街は嫌い。わたしを見ると攻撃を仕掛けてくるんだもの」
「この国の周辺は、黒目黒髪が大半を占める。その、金髪と緑の瞳は目立つからな」
「耳のことを言っているんだけど!?」
ふむ……。
耳か……。
私は、呪符を取り出した。
それを、シルフィーに渡す。
「なに、これ……。魔力を感じる?」
「〈変化〉の術を刻んである。噛んで、唾液を含ませてみろ。望む姿になれるぞ」
驚愕の表情を浮かべる、シルフィー。
少し躊躇ったが、呪符を噛んだことにより、術が発動する。
「ふむ。黒目黒髪。そして、長くない耳になったな」
鏡を取り出して、顔を確認させる。
「凄い……。こんな魔法があるなんて……」
仙人・道士の中には、強さを求めて、顔が3つと腕8本に改造する、マッドサイエンティストもいる。そんなマッド対策として、こんな術も開発されていた。
そんな姿にされて、日常生活をどうやって送れというのか……。
それと、翼を生やし化物の姿にされた者もいたな~。こう考えると、崑崙山は危ない思考の持ち主が多かった気がしないでもない。
私には……、少しだけ理解できるかもしれない世界だったので、指摘はしなかったが。
『強さを求めるのなら、ありだよな……』
目の前を見る。話を続けよう。
「妖怪なら。まず
人の姿に擬態するのが、
「ちょっと! わたしは妖怪じゃないから。エルフだからね! それと、あんた何歳なの?」
えるふ?
妖怪の種族か?
私の知らない妖怪の種類がいるのか。
異世界……。奥が深いかもしれない。
「私か……。ちょうど七十二歳になる」
「はあ? どう見ても二十代じゃない?」
突っ込みが激しいな。
仙人界で肉体の老化を止めて貰っただけなのだが。
異世界転移者というのは、そんなのも知らないのか。技術の遅れた世界から来たのかもしれないな。
◇
シルフィー……エルフ族の娘。容姿端麗だけど、癇癪持ち。ツンデレ。
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