Cパート:ナレーション?「人形職人の夜は長い……」

 薄暗い室内にて、楓は羽ペンを慣れた手つきで書面に走らせていた。



「お気持ちでとは言ったけど……まさか、こんなに置いていってくれるなんて……」



 【夢現の遊技場】はオープンして実はまだ半年も経過していない。

 まだまだ開店したてで、来客者の数も圧倒的に少ない。


 それでも維持できているのはやっぱり、来客者の存在があってこそで、しかしお気持ちシステムというモットーを貫く楓の生活は決して裕福とは程遠い場所にある。


 極貧生活とまでは言わずとも、贅沢な暮らしは許されない。


 だからこそ、本日たった一人の来客者……ハルカが残していったお気持ちは、過去一番なのは言うまでもなかった。



「人生ではじめてよ……100万円の札束をドカッと置いていく人。彼、もしかしてとてつもなくお金持ちだったりする? だとしたら――」


 この娘達は誰よりもうんと、絶対にすっごく幸せになれる。



(やっぱり嬉しいなぁ、自分の娘が誰かの下に嫁いで幸せになるのって)



 【夢現の遊技場】の経営者である前に、楓は一人の人形職人ドールスミスである。


 何を想って、誰のために手掛けるか。


 それは人形職人ドールスミスによって考え方は千差万別で、決して思想が統一することはまずありえないと断言してもいい。


 一人の娘として手掛けるから、自分達人間が運命の人と結ばれて幸せな生活を送るように、この娘達にもどうかそうであってほしい。


 それが楓がモットーとする人形職人ドールスミスとしての在り方であり、言うまでもなく“たかが人形如きに何をそんなに感傷的になるのだ”と揶揄されたことも、少なからず楓は経験してきた。


 なんと言われたって構いやしない。

 それが日下部ひさかべ かえでの生きる道なのだから。



「――、さてと」



 プロットの制作が終えてからでも、楓の仕事は寧ろここからが本番だった。

 その場を離れて長い廊下をしばし歩いた先に、それは静かに家主を出迎える。


 人形制作にとって必要不可欠な素体を保管したここは、たった一人の従業員である楓のみが入室を許可されたある種神聖な場所。


 狭い工房で必要なパーツを次々と作業台に並べていく。

 もちろん、楓がこれより行うのは人形の制作である。


 人形職人ドールスミスにとって製作は食事や睡眠のように欠かせない日課だ。



「さてと……それじゃああの人・・・はどんな設定にしようかしら」



 うきうきとした面持ちで先程のプロットと比較しながら、楓は人形のパーツを手に取った。



――――



●名前:ハルカ

●性格:クールだけど優しい

●好きなこと:妹との時間


 赤髪と翡翠色の瞳が特徴的な好青年。

 一見すると怖い雰囲気がするけど、実は誰よりも優しい。

 妹達との時間を大切にする、心優しく正義感あふれるお兄ちゃんです。

 

――――



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